スパイキー・スパイク 〜 白幻の森にて 〜
僕たちは、シモドリと白幻の森に来た。時刻は夕方ぐらいだろうか? 空が薄暗くなってきた。
「寒い…。」
先程から風が強く感じるせいか、あるいは夜が近いからなのか、マフラーをしていてもとても寒い。歩みを止めると、シモドリがぴょんぴょんと跳ねながら、僕たちに近づいてきた。
「(だいじょうぶ?)」
「う、うん。ちょっと寒く感じるだけ。君は大丈夫?」
「(ぼくたちは、さむさのなかでしかいきられないから、さむさはへいきなんだよ。)」
クロウ達がちらっとシモドリについて話していたのを思い出す。この子達はこの白幻の森のような場所でしか生きられないと言ってたっけ?
シモドリは、僕たちが歩み始めるとぴょんぴょんと跳ねて前を進んだ。
「じゃあ、あったかいものを触ったり、飲んだり、感じたりできないの?」
「あったかいもの」と聞いて、シモドリは背を向けたまま、動きを止めた。
「(僕たちは産まれて、数日しか生きられないんだ…。)」
「…え?」
急に流暢に話しかけ始めたシモドリは、翼を広げると静かに飛び始めた。怪我口もすっかり塞がり、飛び方に違和感はない。そういえば、ここは一段と寒い気がする。
「(寒いところにずっと入れば、長生きはできるかもしれないけど。次第に体が重くなって、飛べなくなる。そして、最後には…。)」
「溶けちゃうんだ…。」
なんとなく、想像ができて、なんとなく。言葉にできてしまった。
シモドリは、近くのモミの木に止まると僕たちの顔を見て問う。
「(ねぇ? 太陽って温かいの?)」
「太陽?」
「(そう、太陽。僕、太陽を見たことがないんだ。でもね? ここ白幻の森に太陽が見える場所があるんだって。)」
ハッターに聞いたことがある。ここ白幻の森のような場所でも、キレイな太陽が見られる神秘的な場所があると。しかし、その場所までは知らない。
パキ、パキ…。
小枝を折るような音があちこちから聞こえてくる。そして、僕たちが今まで冒険してきた経験と勘がやっと働き始めた。
囲まれている。そして、危機察知能力もやっと働き始めた。
「し、シモドリく」
「(…僕ね? 約束してるんだ。より、魔力の高くて食べごたえがある<餌>を連れてくる変わりに、その場所を教えてくれるってね。)」
シモドリが止まっているモミの木の影から、他の木々と同じような色と長さの四本脚を持ち、赤い目が点々とついた蜘蛛の化け物。ツリーテイルが現れた。僕たちはゆっくり後ろへ下がるが、右からも左からも、そいつ等は姿を現した。
「あ…。」
「(…だから、ごめんね? 友達。)」
腐った木の板が軋むような鳴き声がすると、ツリーテイル達はじわじわと僕たちに近づいてきた。手ぶらでここまで来てしまったため、武器も仲間もいない。いつもそうだ。自分勝手な行動をしては、こうしてトラブルに巻き込まれる。
ギギギ…。
僕たちは来た道を戻って逃げようと思ったが、背後にもツリーテイルがいた。合計で四体。こっちは二人…だけど、体は一つ。もう駄目だと思った次の瞬間。
ビュンっ!
強く風が吹くと同時に円盤のようなものがツリーテイル達の前に飛んできた。数体のツリーテイルがその場でよろめいて後ろに下がった。円盤のようなものはシモドリが止まっている近くの木に深々と刺さった。
「…やれやれ、上手く当たらないものだね。」
「! れ、レイス!?」
目の前に浮遊しつつも、両手で風の刃<かまいたち>を作りながら、僕たちの前に現れたのはレイスだった。
「…無事かい? スパイキー・スパイク。」
「う、うん! …でも、ごめんなさい…僕。」
レイスは、両手で作っていた<かまいたち>をツリーテイルに向かって放った。風の刃は回転し、風切音を出しながらもあちこちへ飛び交う。
「…ハッター達もこっちに向かってる。それまで、僕達で耐えるよ。」
「…うん!」
僕たちは、高い位置の枝に止まってこちらを見下ろしているシモドリを見る。あの子に聞きたいことが山程ある。それまで、今は死ぬわけには行かなかった。
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