テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
327
花月夜れん
2,065
柴田
224
#バイオハザード
そまもんた@ペア画募集
621
名無しの魔人は、クラリスを面白くなさそうに睨んでいた。せっかく上玉な手駒が手に入ると思ったのに、反抗期真っ只中。今にも掴みかかってくるであろう迫力である。まぁいい。完膚なきまでに叩きのめして、問題の性格は、後で洗脳でもして矯正してやれば⋯⋯。
「クフッ、どうした? 翼のない人間は、我と同じ土壌に立つこともできまい」
「⋯⋯」
「やはり、口だけだったようだなぁ⋯⋯そのままそこを動くなよ? 我がその血に魔力を与えて支配してやるゆえ、大人しく⋯⋯」
──ヴァルディア流・影走
「なにぃ!?」
クラリスが空を蹴り、瞬時に名無しの目の前に現れる。俺の『瞬歩』とはまた違う、高い身体能力を持つゆえに成せる技。魔力量の少ないクラリスは、剣にこれまでの人生を注ぎ込んできたのだ。弱いはずがなかった。
「エルシア公爵家、アステル様専属メイド兼剣術指南役、クラリス・ヴァルサー! 推して参る!
ヴァルディア流大剣術──『獅牙』」
「ぐぬぅ!」
大剣を突き刺し、そのまま梃子の要領で、名無しの身体を斬りやすい位置へと持ち上げる。そこからクラリスの猛攻は止まらなかった。
「ヴァルディア流大剣術──『影牙突』⋯⋯続いて⋯⋯」
「おのれっ⋯⋯」
──ヴァルディア流。この国で最も強いとされている総合剣術。俺の知る中で使い手は、クラリス、俺の一番上の兄、そしてその2人の師匠。この剣術のコンセプトは、『影のように相手を取り逃がさず、獅子のように敵を穿つ』こと。俺も今、クラリスから学んでいる最中である。
「⋯⋯チィッ、調子に乗るなよ、メイド風情がぁ!!」
名無しが負けじと腕を伸ばし、掴みかかる。しかしその腕が、クラリスに届くことはなかった。
「ヴァルディア流大剣術──『影縫閃』!」
「グフッ⋯⋯!」
真上から大剣を振り下ろし、そのまま重力に従って落下する。ドサリと名無しが地に落ち、クラリスは華麗に着地した。兵たちはもちろん、ルカ兄さんもエナも、そして生き残ったハイベアたちまでもが、唖然として口を開けている。
「ヤバババババ⋯⋯」
俺の影武者をした時、剣術指南を受けたカグアも、これにはビックリものだろうな。
「せいぜい舐めろ⋯⋯我が主と、この剣を」
「魔人討伐、完了!」
ワッと歓声が沸き起こり、兵たちが歓喜の声を上げる。しかし俺とクラリスだけは、まだ名無しの方を見ていた。魔物や魔人は、死んだ時に灰となって崩れていくはず。ヤツの肉体はまだ残っている。ということは⋯⋯。
「ふざけるなよ、ふざけるなよ! 人間風情がぁーーー!!」
やはり、まだ死んでいなかったか。随分とタフだな、コイツ。
「もういい。わざわざ血に魔力を直接入れるなど、面倒なことはせんわ! 全員、我に従うがいい!」
そう言うと、名無しはブワッとヘドロ色をした魔力を解放し、周囲に振り撒く。うわっ、煙たいな。にしてもアイツ、クラリスにあんだけ斬られても死なないって、どんな体の作りをしているんだろうか。
「魔人は魔力の塊って言ったでしょう? 剣で斬っても、その斬った場所から順に、即再生するんですわ」
カグアが俺の疑問にそう答えて解説を始める。
「物理がだめなら魔術で、と思うかもしれませんが、元が魔力体なので、餌をやっているようなものです。まず魔術は使わないほうがいいでしょうね」
「でも、カグアは俺の『煉獄門』を受けて、身体が焦げてたよな?」
「そりゃ、あんなとんでもねぇ威力持った上位魔術喰らえば、魔力の器がもちやせんよ! とにかく、魔人を殺すには、生半可な攻撃ではなく、必殺の一撃が必要っちゅー話ですわ」
なるほどなぁ。ならクラリスに頑張ってもらうしか⋯⋯あれ? みんなどうしたんだ?
「クフフフフ⋯⋯貴様らが呑気に会話している間に、コヤツらは眠ってしまったぞ? 目が覚めれば、我の従順な駒となっているのだ!」
なんてこった! さっきの煙で、みんなやられちゃったのか!? でも、俺とカグアには効いていないが⋯⋯。
「アステル様は『巡息術』とかいうのが使えるんでしょう? きっとその特殊な呼吸法のおかげかと⋯⋯おれはアイツと同じ、魔人ですからね。同族の魔力による攻撃は効きやせんぜ!」
そういうことか⋯⋯あれ? 『巡息術』? だったら⋯⋯。
「ゲホッ、ゴホッ! あーもう、最悪! この煙、じいちゃんの吸ってる煙草よりもたちが悪いのよさ!」
「なにぃ!? 貴様、なぜ我が支配の魔煙が効いていない!?」
「フフン! こんなの、呼吸を工夫すれば被害を最小限に抑え込めるってわけ! 『巡息術』舐めんな!」
やっぱり、短弓で援護射撃していたエナは無事だったか。だが、短弓と拳だけの⋯⋯1人で戦えるのか?
「っ⋯⋯エ、エナ⋯⋯でしたね? 貴方⋯⋯動けるのなら、アステル様を⋯⋯!」
まだ眠りきっていなかったクラリスが、大剣で身体を支えながらそう訴える。
「おうおう、偉そうにしてたクセに、なんともまぁダサい結果ね」
「今は、私に対する、その無礼も、見逃してあげましょう⋯⋯! ですから、早く! アステル様を逃がして⋯⋯!」
そこまで言い切ると、クラリスはドサリと崩れ落ちた。俺は全然大丈夫なんだけどなぁ⋯⋯少し良心が痛む。クラリスから頼まれたエナは、というと。
「まったく、イケメンならともかく、子供のお守りをするハメになるとはね⋯⋯あいよ、任せな。勝てる気全然しないけど⋯⋯時間くらいなら、稼いでみせるのよさ!
B級冒険者、流水武のエナ・ファルク⋯⋯推して参る!」
「⋯⋯やってみたまえ」
そう言うと、弓に矢を4本もつがえて、名無しの前に立つのだった。
コメント
1件
クラリスの「推して参る!!」からのヴァルディア流連撃、めっちゃアツかったわ!技名の応酬が映像のように浮かんで、戦闘描写の解像度が高い…。そしてあの魔人、しぶとすぎるけど、エナが巡息術で耐えて立つ最後のシーンで「おっ、やるじゃん」って笑った。クラリスが倒れた後のエナの決意もカッコよかった。次どうなるかめっちゃ気になる🔥