リナは誰にも告げず、東京を去った。
SNSを消し、携帯を解約し、夜行バスで祖母の住む海辺の町へ向かった。
祖母はリナのやつれた顔を見ても何も聞かず、
「ゆっくりおいで」
とだけ微笑んだ。
海辺の町は、時間が止まったように静かだった。リナは毎朝、波の音を聞きながら砂浜を歩いた。
だが、音楽には触れられなかった。
ギターの弦に指を置くと、彩花の嘲笑や高木の冷たい目が蘇る。彼女の声は、心の奥に閉じ込められたままだった。
ある夜、祖母が言った。
「リナ、あんたの歌、好きだったよ。海にだって届くような声だった」。
その言葉に、リナの胸が疼いた。
音楽は、彼女の全てだった。裏切りや痛みで、それを捨てていいのか?リナは鏡の前で、静かに呟いた。
「もう一度…歌いたい」