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3話 「やっぱり暑い」
ぺちゃり、と溶けたアイスが地面に落ちる。
目の前で起きた光景に、自分はただ呆然としていた。
隣の少年は一部始終を見たはずなのに、特に変わった様子はなかった。 興味を失ったかのように、視線をまたどこかへ移している。
3日前、水曜日。その日は少年が現れた日で、少年を連れて昴とカフェで話をした日の事だ。
昴は絶対に警察に行くべきだと言って引かなかった。
自分もそれに賛成していて、3人で近くの交番へと足を運んだ。
「すみません、この子、迷子かもしれません」
警察を前に、事情を説明した。昨夜突然部屋に現れたこと、それから何も話さないこと。
事情を聞いた警察は、こう言った。
「…そうですか。ですが、その件はお力になれません」
返ってきたのは予想外の言葉だった。
「え」と、呟くのと同時に、昴が声を荒らげる。
「どうしてですか?迷子の子供を警察に預けるのは当然の事では? 」
「…その子は迷子ではありません。ご心配なく」
昴は納得できないという様子で、警察官を問い詰めていた。反対に少年は相変わらずどこかを見つめて動かない。
昴が言っていることはもっともだ。それに、 警察の返答は全てどこかズレているような気がする。
結局追い払われ、そのまま3人で別の交番に向かう。しかし、結果は同じだった。
「その子を気にする必要はありません。お帰りください」
警察官の言葉に昴は怒っていたが、相手にされず。
帰り道、昴は苛立ちを見せながら警官への愚痴をこぼす。
自分は少年と手を繋いで歩き、頭の中では先程の出来事を考えていた。
昴はまだ言いたい事が沢山あるようだったが、この後バイトがあるらしく、先に帰った。
「なあ、警察官がおかしいのか、俺と昴がおかしいのか、どっちだと思う?」
少年は何も答えない。話さないのか、話せないのか、それすらも分からない。
「…帰るとこ、ある?」
赤い瞳は、鏡のように俺を写しているだけで、なんの色も示さなかった。
おかしいのはわかってる。でも今はこの子が少し、不憫に思える。
置いて行くことも考えたが、この意思表示をしない少年は何故かついてくるから、それも難しかった。
「…たぶん、大丈夫」
少年の手を握る。分からない事だらけだが、いつか少年が心を開いて何か話してくれる日を待つしかない。
今は夏休みだし時間だけはある…はずだ。
少年の小さな手は、自分の手にそっと添えるかのようで、この子を離さないのは自分の方なのかもしれない。
その日はとても暑く、汗で濡れたシャツの不快感が張り付いていた。
事故の現場を目の当たりにしたが、動じないどころか何事なかったように虚空を見つめる少年。
「…帰ろうか」
その言葉に少年がこちらを見て、距離をつめる。歩く時によく手を繋ぐのを覚えたのだろうか?
帰宅後。少年と一緒に風呂に入り、髪も乾かさず半裸でタオルを肩にかけたままソファに座り、コーラを飲む。
少年も隣に座り、分けてやったコーラをちびちび飲んでいる。
なんだろう、この感じ。
風呂では風呂の入り方を教えてあげて、頭を洗い、背中を流してあげた。
なんというか、弟ができたような、いや、弟というより息子の方がしっくりくる。
黒髪とか俺と同じだし。
それを言ったら殆どの人が当てはまるだろとツッコミを担当する昴はここにいない。
少年の事は、泣くことができない赤ちゃんだと思えばいい。食事を与え、風呂に入れ、言葉を教える。
きっと少年が話さないのは、今は話せないだけのはずだ。
「俺、朝野裕貴。ゆうきだよ、呼んでごらん 」
「……」
やはり返事はなかったが、少年の赤い瞳がこちらを捉える。
その目は、知ってるよ、とでも言ってるように感じた。
コメント
1件
第3話読みました…! 警察の対応が明らかに変で、ここから「この子、ただの迷子じゃないんだな」ってじわじわ来る感じがすごく好きです。主人公が少年の手を握るシーン、切なくて胸がぎゅっとなりました。風呂入れて髪乾かさずコーラ飲む2人の日常が、妙にリアルでほっこりするのに、根底に流れる不穏さがたまらない…。赤い瞳が「知ってるよ」って言う描写、ゾクッとしました。続きすごく気になります!
玖(キュウ)
355
ruruha
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