テラーノベル
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「──『破威・命刻拡閃砲』ッ!!」
1つの小さな影が飛び出し、まばゆく白い光線が走る。初手から最大火力。後から追いかけてきていた、カグアだった。
「お前ら、すぐに逃げろ!! っ、おれたちのことはいい! お前らだけでも、早くっ⋯⋯!」
「で、でも⋯⋯」
「っ⋯⋯頼む、諦めてくれ! もう、ダメだ⋯⋯ソイツは、ユウマじゃ⋯⋯なっ!?」
フッと何の前触れもなく、ユウマ⋯⋯否、『イルヴァ』がミユたちの目の前から消え失せる。瞬時にカグアの背後に出現し、脚でドカンと地に叩きつけた。そのままミユたちの横に並ぶように、ポイと投げられてしまう。
「カグアァァァッ!!」
「⋯⋯? なぜ魔人が人間なんぞの味方をしている? 俺の配下から裏切ったか?」
怒気の混じった声色に変えて、イルヴァはチラリと使用人たちの方を見る。執事長を筆頭に、皆が慌てて頭をブンブンと横に振った。
「フン、まぁいい。おい、ソイツ縛っとけ」
「かしこまりました、イルヴァ様!」
「使い魔にでもなったのか? だとしたら、主はこの中のどいつか⋯⋯あぁ、『念話』はするなよ? すぐに分かるからな⋯⋯周りはすべて魔人だぞ」
カグアは顔が見えないように、下を向きながら必死に考えていた。
(『命刻』が効かなかった⋯⋯てことは、元の身体の持ち主はとっくに死んじまったってことか!? クソッ!! 『禁術』が効かねぇっつーことは、コイツの、コイツの正体は⋯⋯!!)
「ニンゲンは初対面の時、『自己紹介』とやらをするんだったか? ククッ、なら、改めて名乗ろうか⋯⋯」
今、彼らの目の前にいるのは⋯⋯。
「我が名は『イルヴァ』。遠く離れた、隔絶された世界、『魔界』よりの終焉⋯⋯魔族だ」
(くそったれ!!)
──魔族。魔人とは比べものにならないほどの化け物である。物理、魔術ともに効きづらく、禁忌のような存在⋯⋯そう、『禁忌』。ゆえに、禁忌に禁忌をぶつけても意味はない⋯⋯『禁術』が効かない。これが最も大きな特徴と言っていいだろう。かの『フェルディリーア・クロノス』でさえも、封印するのみに留めていたほどだ。
「さて、何から話そうか⋯⋯ククッ、ユウマがお前たちのもとを離れたこの半年の間、一体どんな喜劇が続いていたと思う?」
人を馬鹿にした口調で、イルヴァは話を続ける。精神が入れ替わったとて、声帯が変わるわけではない。間違いなく、その声はユウマのもの。その事実が、異邦人たちの神経を逆撫で、絶望へと誘っていった。
「お、おまえ⋯⋯っ」
ミユが感情を押し殺したように声をひねり出す。
「ん?」
「ユウマに、何をしたぁぁぁ!!」
イルヴァの姿が消え、ドカンとミユに蹴りが放たれる。
「まったく、煩いガキだな⋯⋯それを今から話そうとしているんだ」
カツ、コツ、と靴の音を立てながら、イルヴァは語る⋯⋯あまりにも酷い、残酷な物語を。
「『瞬時空間転移』⋯⋯なかなかにいい力だ。ククッ、ユウマの精神を消し去るのに、数カ月はかかったからな⋯⋯しかし同時に、楽しい日々でもあったぞ? まさしく喜劇!」
「うぁ⋯⋯」
「ミユ!!」
「そう静かになるなよ。ユウマも似たようなことばかり言っていたな⋯⋯俺に精神を蝕まれて、記憶を見られ、お前らの存在がバレて⋯⋯大層焦っていたよ。俺にしつこく言ってきたものさ⋯⋯『仲間たちだけは見逃せ』ってね」
「ガァァッ、動け、身体⋯⋯!」
「それからはずっと解決策を調べて、考えていた⋯⋯優しい俺は丁寧に教えてやったよ。『お前が死ねば俺も死ぬ』ってな」
そこまで言うと、イルヴァは再びあの気味の悪い笑顔を作る。
「もっちろん、これはウ・ソ! 肉体なんてのは、あくまで樽みたいなもんだ。中身がなくなればまた注ぎ足すだけ⋯⋯アイツが死んでも、俺が代わりになるだけさ。魔族は魔人なんぞと違って、それくらいじゃ死にゃせん。それからというもの、アイツは必死で自殺を繰り返していたぞ!! 1番のお気に入りは窒息死だな。定番の首吊りに切腹⋯⋯あぁ、溶岩に飛び込むのは傑作だったぞ! まぁ、あれは後の修復が面倒だったがな⋯⋯」
「だまれ⋯⋯黙れぇぇ!!」
「一通りの自殺方法を試した後は、ずいぶんと疲弊して死人同然になっていたからな⋯⋯俺は飽きたから、直々に殺してやったよ。あぁ、そういえばあれは失敗だったな⋯⋯少し目を離した隙に、何かやらかして⋯⋯ま、そんなことはどうでもいい」
イルヴァはそう言ってミユたちの顔を覗き込むようにしゃがんだ。元の黒い瞳は青白く、人外を思わせる。
「俺がどうしてわざわざここまで来たと思う?」
その質問を聞いたカグアは、悟ったような顔をしていた。仮にも魔人であるカグアだ。魔界のことは知り尽くしている。
「お前らの肉体も欲しいからさ! スキル持ちなんて、滅多にお目にかかれないレアな肉体! それが5人も! 一塊になってるんだ⋯⋯あぁ、安心しろ。乗っ取るのは俺じゃなくて、配下の方だからな⋯⋯まだ低級の魔人だ。魔族の俺より、多少はマシなんじゃないか? やり方が下手でなければ、の話だが⋯⋯」
(あぁ、そうだろうよ! コイツ、相手を苦しめることしか考えてねぇ⋯⋯!!)
そう、根っからのサディストなのである。
「イルヴァ様ぁ! 早く異邦人の肉体をくだせぇ!」
「こんな使用人共の身体じゃ、すぐに朽ちちまうよ!」
それを聞いたイルヴァは、片手を挙げて制止した。
「まぁまぁ、落ち着けよ⋯⋯まずは精神を壊すところからだ。1番最初に壊したやつに、その肉体はくれてやる⋯⋯」
そう言うと、イルヴァはガシリとミユの頭を掴んで持ち上げた。
「まずはコイツからといこうじゃないか! さぁ、誰が奪う?」
「「「「ミユゥ!!」」」」
(クソッ、念話⋯⋯繋がらねぇ!!)
誰もが悔し涙を流しながら、必死に心のなかで叫んでいた。あまりにも理不尽すぎる、この状況に恨み言を吐きながら⋯⋯。
──ねぇ、ユウマ⋯⋯なんで1人で行っちゃったのさ⋯⋯ねぇ、帰ってきてよ。あと少しで⋯⋯やっと自由になれるんだよ? ずっと、ずっと待ってるんだ⋯⋯仲間だって増えたんだ。だから⋯⋯。
異属性最上位魔術──『絶対防御』
半透明の白い球がミユたちを包む。五角形と六角形で構成されたそれは、まるで⋯⋯。
「サッカーボー⋯⋯」
火属性最上位魔術──『日輪墜』!
太陽と見紛うほどの、巨大な炎が垂直に落下される。ドゴォォォォォン⋯⋯! と音がして、門前の地面には大きな穴が空いた。塞がれていた火口が再びあらわになり、マグマが見えるようになる。数多の魔人がボチャボチャと火の池に落ちていった⋯⋯そんなことができるのは、この場には1人しかいない──。
「──俺が貰う」
空に浮かぶのは、『天子アステル』だった。
〈Inside Story〉
半年と少し前。ユウマは単独、グレイレーゼ侯爵家の屋敷に侵入を果たしていた。気配を消しつつ、ひっそりと廊下を進む。ここまでは異常なし。見張りはおらず、罠もない。
(──見張りがいない?)
おかしいことに気づいた。ここは戦闘狂の住む場所。こんな夜中でも、見張りの1人くらい立てているはずだが⋯⋯。
人2人分の話し声が聞こえた。慌てて跳躍し、天井と壁の間にしがみつく。夜目を凝らして見えたのは、1人の執事と使用人。ユウマの真下を通り過ぎていく⋯⋯。
「なっ⋯⋯!」
ユウマが驚くのも無理はない。その2人の目は焦点が合っておらず、人間ではありえない色をしていたのだから⋯⋯。
執事と使用人が歩を止める。ぐるりと首を回して⋯⋯まっすぐにユウマを見つめた。
見つかった。見つかってしまった⋯⋯。
「あっ⋯⋯」
そして、ユウマは⋯⋯。
ばたっちゅ
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花月夜れん
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柴田
224
#触手責め
コメント
1件
わあ……第25話、めちゃくちゃ重くて苦しい回でしたね。イルヴァの「ユウマが♡♡♡を繰り返していた」って告白、読んでいて本当に胸が締め付けられました。あれだけ仲間を想っていたユウマの無念がひしひしと伝わってきて……。でも最後、アステルが現れて「俺が貰う」って言い放つところ、最高に熱かったです。希望の光が見えた瞬間でした。インサイドストーリーでユウマが屋敷に潜入した過去も気になりすぎます……続きが待ち遠しいです!