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エピローグ
第二話 もう一つの家
ザザッザザッーー。
落ち葉を踏みしめる音がいくつも重なる。
頬を撫でる冷たい風が心地良い。
淡い金色の髪がふわっと揺れた。
空には雲一つなく、澄んだ青が遥か遠くまで突き抜ける。
朽ちた白い石壁が、日の光を反射し輝いている 。
なんだか世界がやけに眩しい。
思わず手をかざし目を細めた。
乳白色のこの瞳に映る景色の全てが、その空気までも、昨日とはまるで違うもののように感じる。
ジントはふと自分の前髪を摘んだ。
淡い金色。
陽光を受けてきらきらと輝いている。
この色のせい……?
不思議な気分だった。
この瞳に、ラディスはどう映るのだろう。
そんなことを考える。
「ジント?」
隣からダイチが声を掛ける。
ジントは顔を上げた。
「どしたん?」
「ん……なんだか眩しくて」
そう言って前髪を摘みながら、目を細めて空を見る。
朝日を浴びたその姿は、まるで月光そのものが人の形を取ったようだった。
ダイチは思わず見惚れる。
青い瞳が柔らかく緩む。
「……ジント、綺麗やな……」
ぽろりと本音が零れた。
「え?」
ジントが目を丸くしてきょとんとする。
ダイチはハッとした。
「あっ!いや、そ、その!」
慌てて両手を振る。
「今の方がええとかやなくて!」
さらに慌てる。
「もちろん前のジントも好きやし!」
しまった……。
余計なことを言った。
「ただ、その……」
顔が真っ赤になる。
「今のジント、めっちゃ綺麗過ぎて……」
声がどんどん小さくなる。
「その……」
完全に墓穴だった。
「わかるわぁ!」
突然後ろから腕が回される。
「うわっ!?」
シュンタだった。
ダイチの肩を抱きながら大きく頷く。
「今のジンちゃん可愛すぎるもんなぁ!」
うっとりとした顔でジントを見る。
「なぁ?」
「確かにな」
ハヤトも微笑む。
「これは色々な意味でダイチの心労が増えそうだな」
「やめてや!」
ダイチが叫ぶ。
ジュウタロウも何気なく言った。
「月の一族は皆、美しいんだな」
さらり。
本当に何気なく。
隣を歩くセレネの顔が一瞬固まる。
「ちょっ……!」
シュンタが勢いよく振り返る。
「ジュウ、その顔で言うのズルいって!」
「何がだ?」
本人は本気で分かっていない。
「思ったことを言っただけだ」
涼しい顔。
「そういうとこやぞ!」
シュンタが頭を抱える。
皆が笑った。
ジントは耳を赤くして、困ったように目をぱちぱちさせる。
綺麗だとか。
可愛いだとか。
今までほとんど言われたことがない。
どう反応していいのか分からない。
そんなジントを、ダイチは愛おしそうに見つめていた。
やがて里の門が見えてくる。
石造りの門。
白い壁。
なんだか慣れ親しんだ景色。
気付けば足取りが少し重くなっていた。
門の前で立ち止まる。
静かな時間が流れる。
「……また、お別れですね」
セレネが少し寂しそうに笑った。
その笑顔にシュンタがすかさず反応する。
「また絶対来るからな!」
「待っとってや!」
ぱちりとウィンクを飛ばす。
セレネは思わず吹き出した。
「ふふっ」
困った人だ。
そんな顔だった。
ゼストは横で腕を組みながら小さくため息を吐いている。
パスカルはニコニコとそれを眺める。
そしてミレイアがジントの前へ歩み寄る。
柔らかな風が二人の髪を揺らした。
「またいつでも帰っておいで」
優しい声。
本当に祖母のような声だった。
ジントは少しだけ目を潤ませる。
そして笑った。
「うん……!」
大きく頷く。
「おばあちゃんも元気でね」
ミレイアは目を細めた。
「ありがとう」
静かな声だった。
馬に跨る。
ゆっくりと歩き出す。
振り返る。
ミレイア。
セレネ。
パスカル。
ゼスト。
四人が並んで手を振っている。
前に里を出た時、その姿はすぐに見えなくなった。
幻のように。
けれど今日は違う。
ずっと見えていた。
ジントも大きく手を振る。
見えなくなるまで。
ずっと。
やがて四人の姿は森の向こうへ消えた。
それでもしばらくその方向を見つめる。
寂しい。
でも不思議と悲しくはなかった。
また来られる。
また会える。
そう思えたから。
前を向く。
細い小道が長く伸びていた。
ジントはもう一度だけ振り返る。
そして
「またね」
小さな声で呟く。
木々の間を抜ける風が、優しく返事をしたような気がした。
コメント
1件
美月ゆめかだよ〜🌸🎀 第36話読み終えたよ! エピローグなのに「また会える」感がすごくて泣きそうになった…😭💕 ジントの髪色変わって「綺麗」って言われるシーン、ダイチが慌てまくるの可愛すぎて何回も読み返した♡ あとジュウタロウが無自覚に「月の一族は皆美しい」って言ってセレネ固まるの、空気読めてないようで核心ついてて笑ったw 「また帰っておいで」のミレイアおばあちゃんの優しさに胸がぎゅっとなったよ…また会えるって信じられる別れ、すごく温かい気持ちになった! 次も楽しみにしてるね🌸