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エピローグ
第三話 約束
馬の蹄が落ち葉を踏みしめる。
森の中の細道をゆっくりと歩く。
木々の隙間から差し込む陽光。
葉の一枚一枚までも鮮やかに見える。
空は高く。
風は澄み。
森が歌う。
昨日までとは違う世界。
同じ森。
同じ道。
なのに全てが新しく感じた。
5人は無言で歩みを進める。
心地のよい時間だった。
やがて、辺りを覆っていた木々が途切れた。
目の前には南北へ伸びる広い土道。
旅の途中、何度も通った道。
そして、それぞれの帰る場所へ向かう道。
ハヤトが馬を止める。
そして静かに振り返った。
黄金の瞳が、ジントとダイチを見る。
「俺達は帝国へ戻る」
静かな声。
分かっていたことだった。
分かっていたはずなのに。
「ジントとダイチとは、ここでお別れだな……」
その瞬間。
ジントは目を伏せる。
ズキンと胸が痛む。
ーーそっか、終わったんだ……。
一緒に笑った。
一緒にご飯を食べた。
一緒に眠った。
焚き火を囲んで話した夜。
くだらないことで笑った時間。
命を預け合った戦い。
家族のように過ごした数か月。
いつの間にか。
傍にいることが当たり前になっていた。
どんな時も、命懸けで自分を救ってくれた仲間達。
その存在が、こんなにも自分の中で大きくなっていたなんて。
ジントはぎゅっと目を閉じる。
胸が苦しい。
引き裂かれそうだった。
「ジント」
ダイチが優しく肩を叩く。
温かな手。
その温もりだけで、少し呼吸が落ち着いた。
全員が馬を降りる。
誰もすぐには喋れない。
小鳥の囀り。
木々のざわめき。
冬の気配を帯びた風。
その音が、妙に大きく耳に響く。
「……寂しいな」
ぽつりとジントが呟いた。
その言葉に、4人は何も言えなかった。
やがてハヤトそっと目を伏せる。
「俺もだ」
意外な言葉だった。
ジントが顔を上げる。
「旅に出る前の俺は」
ハヤトは遠くを見る。
「こんな風に、誰かとの別れを惜しむ日が来るなんて思っていなかった」
皇子として。
国を背負う立場として。
いつも正しくあろうとしていた。
でもこの旅で知った。
守るべきものは、国だけではないのだと。
「お前達と過ごした時間は、俺にとって大切なものになった」
ハヤトが微笑む。
「ありがとう」
その一言に、ジントの瞳が揺れる。
「……俺も」
ジュウタロウが静かに口を開く。
「正直、最初はここまで長く共にいるとは思っていなかった」
「ジュウ……」
シュンタが少し笑う。
「最初めっちゃ怖かったもんなぁ」
「余計なことを言うな」
「いやいや、ほんまのことやん」
いつものやり取り。
それだけで胸が温かくなる。
ジュウタロウは軽く空を仰ぐ。
「だが……」
銀色の瞳が優しく細められる。
「悪くなかった」
短い言葉。
でもそれがジュウタロウなりの最大の言葉だと、皆分かっていた。
シュンタが鼻をすすった。
「フィルディア行くって約束やからな……!」
ジュウタロウは少し困ったように息を吐く。
そして、小さく言った。
「……来るなら勝手に来い」
一瞬の沈黙。
「それ許可ってことやんな!?」
シュンタが飛び上がる。
「違う」
「絶対そうやん!」
「違うと言っている」
いつもの二人のやり取り。
皆が笑う。
その笑い声が、さっきまでの寂しさを少しだけ溶かしていく。
ダイチも笑った。
涙声のまま。
「またみんなでラディス来いよ!」
青い瞳が潤んでいる。
「姉ちゃんも待っとんねんから!」
その言葉に、ハヤトが笑う。
「ああ、必ず行く。約束だ」
ジュウタロウも微笑む。
「騒がしいのにも慣れたからな」
そして、ジントが口を開く。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
それでも笑っていた。
「みんな……」
声が震える。
「ありがとう……」
大粒の涙が落ちる。
「大好き……!」
次の瞬間。
誰からともなく近付いた。
五人が円を作るように集まる。
肩を組む。
抱き合う。
「楽しかったな!」
ハヤトが目を潤ませて笑った。
「俺はこういうのは苦手だ」
そう言いながら、ジュウタロウも目を赤くして柔らかく微笑んでいる。
「嘘つけ!」
シュンタが涙声で笑う。
「一番離れへんやん!」
「………」
「否定せえへんのかい!」
笑い声が広がる。
「仲間って、ええなぁ……!」
ダイチも泣いている。
「………っ………」
ジントはしゃくり上げて言葉が出ない。
「何年経っても……」
ハヤトが掠れた声で言う。
「また、こうして話をしよう」
「ああ……」
ジュウタロウが頷く。
「俺たちの、旅の物語をな」
「うん……!」
ジントがクシャッと笑い、頷いた。
「ああもう……ずっとこうしてたいわ!」
シュンタがぎゅっと腕に力を込める。
「いてててっ!おいシュンタ!」
「苦しい。加減しろ」
「よし!じゃあ俺も……!」
「えっ!?ハヤちゃんの馬鹿力アカンって!」
「ジントが危ないやん!」
「あはははっ!ハヤト苦しい!」
森に笑い声が響く。
高く。
どこまでも。
ジントはその輪の中で思った。
俺には帰る場所がある。
そして、帰りたい場所も増えた。
ラディス。
月の里。
帝国。
旅で訪れた場所、全部。
旅に出る前の自分にはなかったものだ。
だから、寂しくても前を向ける。
別れは終わりじゃない。
また会うための約束なんだ。
5人の笑い声は、しばらく森の中に響き続けていた。
やがて、自然に腕がほどける。
少しずつ離れる身体。
誰も何も言わない。
けれど、涙で濡れた顔はみんな笑っていた。
寂しい。
それでも幸せだ。
そんな顔だった。
「じゃあ、またな!」
ハヤトが笑う。
いつものように。
太陽のように、力強く。
その一言で十分だった。
外套を翻し、馬へ向かう。
ジュウタロウも。
シュンタも。
それぞれ馬に跨る。
ダイチとジントが並んで立った。
もう一度、全員で顔を見合わせる。
誰も視線を逸らさない。
「帝国まで気ぃ付けて帰れよ!」
ダイチが叫ぶ。
「ジンちゃんのばあちゃんと、ソルト家のみんなにもよろしくなー!」
シュンタが大きく手を振る。
「必ずまた会おう」
ジュウタロウが静かに言う。
ハヤトも笑った。
「お前達も、元気でな」
ジントは目を潤ませながら笑う。
「みんな……またね……!」
誰も返事をしない。
代わりに、全員が笑った。
それが答えだった。
「行くぞ」
ハヤトが手綱を引く。
三頭の馬が向きを変える。
そして。
「はっ!」
駆け出した。
土を蹴る音。
風を切る音。
少しずつ遠ざかる背中。
途中、シュンタが振り返る。
手を大きく振る。
ジュウタロウも小さく手を上げた。
ハヤトも振り返る。
金色の髪が陽光に輝く。
ダイチも手を振る。
ジントも。
何度も。
何度も。
見えなくなるまで。
その背中を見つめながら。
やがて、三人の姿は地平線の向こうへ消えた。
風だけが残る。
静かな道。
ダイチが隣を見る。
ジントはまだ遠くを見ていた。
頬を濡らしたまま。
少し寂しそうに。
でもどこか満たされた顔で。
「行ってもうたな」
ダイチがぽつりと呟く。
ジントは小さく頷いた。
「うん」
そして微笑む。
「でも、また会えるよ」
その言葉に、ダイチも笑った。
「ああ」
青い空が広がっていた。
五人の旅は終わった。
けれど、終わりではなかった。
五つの光。
初めはみんな拙く、淡い揺らめきだった。
何度も立ち止まり、戸惑い、後悔もして、それぞれが自分自身に問いかけた。
そしてやがて、五つの運命が交差し、鮮明に瞬く。
とめどなく流れる想いを繋いで、軌跡を残して。
交わした”約束”という言葉を信じて、彼らは立ち止まらずに歩き続ける。
やがてそれは、終わりのない物語となる。
限りなく続く、永遠の物語へと。
コメント
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エピローグもしっかりと読ませていただきました! 別れの寂しさと、でもどこかしらで繋がってると信じる5人の姿に、なんだか切なくて、でも嬉しくなりました。 いつか、どこかで5人がまた出会って、楽しく話しているところを思い浮かべています。さぞ、月色の髪をしたジントさんは綺麗なのだろうな⋯と描きたくなりました。
えーーまたまた泣いてしまいました…😭 5人での旅が終わってしまったのだと悲しい気持ちもありながらも みんな頑張ったねの気持ちもあり…😭 また、5人で出会って話をしたりしてほしいなー✨と思いました!✨

旅が終わってしまった…私も一緒に旅を体験しているかのような気持ちだったので寂しいです ジントくんの「大好き…!」、最高です