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僕は、夜の町を歩いていた。
光の届かない路地裏。誰も見ていない、誰も干渉してこない場所。
──ここが、ナイトメアが“遊ばれていた”場所だった。
(許せない。許さない。こんな世界、間違ってる)
ポケットには、買ったばかりの赤いローブが折りたたまれている。
「……白は、もう似合わないから」
そう呟いて、僕はローブを肩にかけた。
深紅のフードが、僕の視界を半分ほど隠す。
血がついても、目立たないように。
(僕は、優しさを信じた。なのに、それは誰も守れなかった)
だったら──この手で、正しさを貫くしかない。
最初に狙ったのは、あの日ナイトメアを蹴った少年だった。
気配を消して近づき、背後から話しかける。
「やぁ!今日はいい夜だね。星がきれいだ!」
「え!?ドリーム君!?どうしてここに……」
少年が振り返る。本当に驚いているのがわかる。
「でも明日の月は、もっと綺麗だよ」
正義の槍を、その胸に突き立てる。
鮮血が宙を舞い、静かな夜に濃く染み込んでいく。
「いくら服が赤いと言っても、血がつくのはうれしくないなぁ……」
服についた赤を気にして、袖でごしごしと擦る。
あまり後を残したくないからね。
「──トモダチなら、いじめちゃダメだよ」
返事はなかった。ただ、不気味な静寂だけが続いていた。
それから、夜になるたびに僕は出かけた。
赤いローブをまとって、悪意の残滓をひとつずつ消していく。
みんな、「優しさ」を踏みにじった人たち。
僕の中では、もうそれだけで“裁かれるべき者”だった。
「……僕は、間違ってない。
これは、正しい優しさなんだ。
ナイトメアを守るための、正しさなんだ」
部屋に戻ると、チミーとナイトメアが眠っている。
ナイトメアの寝顔にそっと触れる。
「おやすみ……もう、君は傷つけさせないからね」
ローブの裾から、血のしずくがポタリと床に落ちる。
だけど、誰も気づかない。
その夜も、僕は優しい顔をして、狂った世界を正していた。
また、霧の中にいる。
前は恐怖を感じていたこの霧にも、今は少しの高揚感がある。
「素晴らしいよ、ドリーム。これで君たちの運命は、大きく変わった」
彼──ディスピアは満面の笑みを浮かべてそう告げる。
「おめでとう。正しい選択ができた君を、祝福するよ」
大袈裟に両手を広げる姿は、まるで舞台のフィナーレのようだった。
「……本当にいい結末が見れそうだよ。ありがとう、ドリーム」
霧が濃くなる。
そして、僕はまた“仕事”に向かう。
──正義の仕事に。