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※闇の仲介所――扉を開けて室内に入り込んだ三人。
少し前まで惨状だった室内は、既に綺麗に片付けられていた。遺体の痕跡さえも無い。
奥の机には何時も通り琉月が腰掛けているが、もう一人――管理部門統括、霸屡の姿も其処に在った。
「よく御無事で……。そして――兄さん、お久しぶりです」
状況から戦闘後なのは、聞かなくても分かる。琉月は安堵しながら三人を出迎えた。何より――兄、薊を。
「ああ、お前こそ……」
久々の兄妹の邂逅。だが状況として、兄妹水入らずという訳にはいくまい。
「随分派手にやられたみたいですね。特に時雨と雫」
遮るかのように、霸屡は傷痕を残す二人へと目を向けた。
「こんなん傷の内に入らねーよ。それより、奴等の居場所は解ったんだろうな?」
時雨は逸っていた。何もお喋りをしに、此処に戻って来た訳ではない。
「奴等はぶっ殺さねぇと気が済まねぇ……」
思わぬ程に痛めつけられた上、あっさり逃げられた屈辱感。
「…………」
雫もそうであるように、時雨も腸煮えくり返る思いなのだ。
「近日中には判明出来るでしょう。全ての借りはその時に返せばチャラです。後でエクスポーションを渡します。表面上の傷はそれで癒えるでしょう」
エクスポーションとは霸屡が開発した狂座の誇る万能傷薬。塗布するだけで一瞬で傷を塞ぐ優れもの。
「ーーそれより薊、報告を」
「ああ……」
焦った所で何も変わらない。その時を虎視眈々と待つ事が最良と分かっている霸屡は、薊へとこれ迄の状況を促した。
世界各国を股に掛けてきた、彼ならではの――
「ただいま~」
悠莉が戻って来たのは、彼等より遅れて報告の最中だった。
「――全滅ですか……」
薊の報告に霸屡を含め、一同唖然。分かっていた事とはいえ。
世界各国に所在する狂座の各支部は、ネオ・ジェネシスの手により僅かな期間で壊滅。裏切った者、そのまま排除された者、様々な形でだ。
そして狂座の中核が在る、此処日本。薊はエンペラーを追って日本に帰って来たのだ。
日本も既に壊滅状態を意味するだろう。つまり現在、狂座の主要人物は、今此処に居る者のみと言っても過言ではなかった。
「流石はユキ――いえ、エンペラーですか……。彼の前で数は無意味とはいえ」
管理部門統括兼、狂座の“現”責任者代行でもある霸屡は頭を痛めた。
裏世界最大規模にして、最強とされた狂座が今や風前の灯火。それもかつての盟主の手によってだ。
「そして“元”SS級エリミネーター、コードネーム『崋煉』と『蕾迦』もエンペラーと共に居る……。つまり奴等三人のみで世界的クーデター処か、この世界そのものを焦土と化すのも容易いという事だ」
エンペラーの傍らに居た二人の『アルカナ』は薊の言う通り、やはり狂座の元SS級エリミネーターだった事も判明。
「ちっ……」
時雨はその名に反応。元SS級という事で、知らぬ仲処か、もっと密接な関係だったのかもしれない。
あのコード『チャリオット』――元『崋煉』の姿を見た時の、時雨の驚きようは尋常ではなかったから。
「急がねばなりませんね。手遅れになる前に……」
SS級二人とSSS級一人が本気でクーデターを起こせば、表の世は為す術が無い。世界情勢は根本から覆される事になる。
これはかつて人類の歴史上、一度として無かった一大事。
霸屡は究明を急ぐ事を決意した。
一刻も早く彼等の全貌、所在を明らかにし、裏のままで殲滅せねばならない。
『ネオ・ジェネシス』が表に出、明らかになった時点で最早引っ込みがつかないからだ。
「あのビル爆破行為は、表向きには原因不明のガス爆発という事で、此方で手を回しておきましょう。貴方達は各自待機――ただし、何時でも出張れるよう……」
霸屡は先程の事と、これからの事を示した。
近日中に『ネオ・ジェネシス』との最終決戦に向けて、各々が想いの中、帰路に着く事になる。
時雨、薊、琉月、霸屡。そして幸人と悠莉。
だがこの時はまだ知らなかった。何処か侮っていたのかもしれない。『ネオ・ジェネシス』が彼等の予想を、遥かに超えていた事に――。