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テラーノベル(Teller Novel)
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「さあ、お嬢ちゃん、降りてくれ」


進んでいた馬車は止まり、御者である、キャプテンの声がした。


どうゆうこと、と、ナタリーが、問いただす前に、馬車の扉は開かれ、すでに、馬車から取り外した馬に股がるキャプテンの姿があった。


その情景に、ナタリーは、嫌な予感がよぎる。


これは、一度ならずとも、というやつではなかろうか?


「も、もしかして、乗るの?」


「おーや、話が早いことで」


「で、でも、どうして?」


「お嬢ちゃん、考えてごらん。ここは、一本道なんだ。そこに、馬車が立ち往生というか、放置」


ん?と、ナタリーは、首をかしげた。キャプテンは、何を言いたいのだろう。


「つまり、カイルは、あの、ブロンドのねーちゃんと、車でやって来る。俺は、確かにブロンド好きだ。しかしだな、あれよも、俺は、あんたの、腹の座り具合が、気に入った。やるときゃー、やる。さっき、みたいに」


言うだけ言って、キャプテンは、ガハガハ笑った。


「ロードルア王国へ、先回りするのが、俺の役目。お嬢ちゃん、あんたを、カイルより先に、入国させて、王宮へ乗り込む手はずを整える」


「……ロザリー達の待ち伏せを、分かっていたってこと?」


いいや、と、ナタリーへ向かってキャプテンは、首を振った。


「単純に、とっとと、ロードルア王国へ、潜りこむ。はずだったんだが、予定外の所で、奴らに出会った」


ちっと、舌打ちしつつ、キャプテンは、眉をひそめている。


「なるほど、でも、そんなに急いで、入国するのは、なぜ?そして、ロザリー達を足止めさせるために、馬車置き去りなんて、姑息なことまでする意味は?」


「そりゃー、それだけ、急いでるってこと、あんたと、宰相を早いとこ会わせて、落としてもらわんとねー」


こっちの予定も狂ってくるのさ、と、キャプテンは、意味深に言った。


「……カイル抜きで、も、構わないってこと?」


ナタリーは、言いつつも、村外れの教会で、ロザリーから依頼を受けた時の事を思い出していた。


そうだ、そもそもは、社交界に潜り込み、動く。そうゆう話だったのに、カイルが、割り込んで来て、宰相《さいしょう》だかなんだか、おかしな事になったのだ。


なにより、海に落とされ、寒々とした館で、一晩明かし、ついでに、カイルをビンタした。まあ、あの、マーストン卿と知り合えたのは、収穫だったが。


今後、表の顔、トレンドを、生み出すファッションメーカーとして、卿の知名度は、かなり使えるだろう。


けど、再び会うことはあるのだろうか?どこかへ、ふらっと、旅立って行きそうではある。そういうば、アメリカへ、なんて、ことを、カイルが言っていた。


まあ、あれだけの、有名人。どこにいようと、社交界から離れる事はないだろうから、噂はすぐに、掴めるだろう。それを、追って行けば、良いだけの話でもあるし。


とは、あくまでも、表の顔、富裕層へ、新しいファッションを提供する、マダム・ナタリーの時の話だ。


卿は、カイルの兄という、また、ややこしい状態だけに、しばらくは、マーストン卿の名前を使った商売のことも、お預けした方がよいだろう。


さて、と、ナタリーは、気持ちを入れかえ、馬上のキャプテンを見た。


「私を、ロードルア王国へ、連れて行く、までが、キャプテン、あなたの仕事?それとも、宰相と引き合わせる所まで?」


ナタリーの質問に、キャプテンは、ふふんと、笑った。


「やっぱり、あんたの腕は、伊達じゃないねー。残念ながら、そこの所は、あやふやなんだ」


「……何か、計画に、問題が?やっぱり、ロザリー?」


あー、と、キャプテンは、唸りつつ、


「そうとも、言えるし、違うとも言えるし、と、言った感じかな。あの、ブロンド達の、今後の動き次第だ。そもそもは、ブロンドから、依頼を受けているだろ?」


キャプテンは、本来の自分達の計画とやらを、ナタリーへ、述べ始めた。


カイルが、大国派の、宰相の目を誤魔化す為に、ロザリー経由で、フランスと繋ぎを作った。


そして、宰相を失脚させ、フランスに付け入る隙を与える。


相手も、ロードルア王国など、特に気にしていなかったが、地理的に、集まる小国の真ん中辺り、そして、概ね、近隣諸国とは、同盟を結んでいる。


ロードルア王国一国を、手にすれば、後の国も、自然、フランスへ付くしかなくなってしまう。と、なれば、戦《いくさ》事など起こさずして、地中海沿岸が、我が物になると。


そのため、あちらも、ナタリーへ、依頼してきた。


「え?フランスは、カイルを信用していないの?だって、二重に謀り事しなくても。それに、キャプテン、宰相は、大国派なんでしょ?だったら、なおのこと、私を使う必要なんて、あるのかしら?」


ですよねー、はいはい。と、キャプテンは、軽口をたたく。


「そこは、ほら、カイルだし、そして、ブロンドが、マジにカイルに落ちた。それじゃー、使い物にならんだろ?まあ、あんたは、安全パイというところかな?」


「あらまあまあ、舐められたことで」


はぁと、ナタリーは、ため息をつきつつも、ロザリーとカイルの様子を思い出し、確かに、あれじやー、上層部も、ロザリー外しに動きもするだろうと思う。


「でも、キャプテン、少しわからないのよ、ロザリーが、外されそうだわ、カイルが、乱入してきたわ。じゃー、私は、誰に雇われる事になるの?そして、宰相って、何?!大国派なら失脚させなくても」


あっ、そこね、そこは……と、口を濁すキャプテンに、ナタリーは、


「まあ、いいわ、あなた達の事情がある訳ね。私には、関係ないことだし。でも、雇い主だけは、ハッキリさせて。で、ないと、報酬は?私、これだけの目にあって、タダ働き?」


ナタリーは、ふん、と、キャプテンを鼻であしらった。


「そこなんだ。カイルが、あんたに入れ込んじまったから、計画というべきか、話が、ガタガタ。正直、俺も分からなくなってきている」


調子良く語っていた、キャプテンは、急に真顔になり、さて、困ったもんだと言い放つ。


「ちょっ!それ!なに!」


「だろ!」


焦るナタリーへ、でだねー、と、キャプテンは、提案があるのだがと、言ってくれる。


「で、報酬は?」


ナタリーは、即座に問っていた。


受けた提案とやらは、キャプテンと組む事。まったく、どこまで、振り回されたら良いのだろう。


「まあまあ、そう、つんけんしなさんな。そうだなぁ、上手くいけば、ワイナリーの一つを任せるってことで、どうだろう?」


「ワイナリー?」


そうさと、キャプテンは、にかりと笑い、金儲けしようぜと、ナタリーを誘ってくれる。


しかし、それは、なんだか、どこかで聞き覚えがあるのだけれど。


ナタリーの困惑を読み取ったか、キャプテンは続けた。


「そもそも、俺は、遊覧船のキャプテンだ、それも、富裕層向けのな。ロードリア王国と連なる国々を巡って、地中海観光を展開している。ってのが、今の本業なんだが、カイルのやつに掻き回された」


「あー、納得。なんなの?あの男は?王位が欲しいのか、国を守りたいのか、やってることが、めちゃくちゃなんだけど」


「そこ!そこな!こっちは、王族と組めてよかった。停泊地で、観光展開を狙っている以上、カイルのコネは、役に立つと思っていた」


「あー、それで、ワイナリーね」


キャプテンは事業の為に、カイルと手を組んだ。そして、彼も、お家騒動手前というものなのか、カイルの野望というものなのか、中途半端な国と国の話に巻き込まれてしまっているようだ。


「まあ、多少のゴタゴタは構わんよ。こっちも、いい目しようと思ってる訳なんだから」


しかしだ!と、キャプテンは声を荒げた。


「なんだい!あんたといい、ブロンドといい、なんで、女絡みになる?!」


キャプテンは、苦々しげに顔を歪める。


良く見れば、仕事柄、日に焼けている小麦色の肌が、彼の彫りの深さを強調し、いい男の部類に入る要素を増していた。


その、整った顔が、歪められては、ナタリーの母性もくすぐられるというもの。


「そうね、キャプテンと組んだ方が、普通の仕事になりそうだわね」


などと、知らず知らず適当な事を言っていた。


「はっ、あんたも、俺に惚れたってことか。まあー俺は、キャプテンだ。港、港に、女がいるけど、それでも、あんたはいいのかい?」


ふざけた口調ではあるが、ナタリーにとって、何故か、カイルと一緒にいるよりも、メリットは大きいと感じられた。それは、キャプテンの落ち着きぶりか、単純に、儲けたいだけという裏のない発言からか。


「まあ、なんだ、俺に惚れようがかまわねぇけど、これ以上の立ち話は、いただけない」


言われて、ナタリーも、はっとする。


そうだ、あの、カイル達が、いや、フランス側が追って来る。そして、忘れていたが、ここは、フランス。


「馬車を放置で、道をふさぐ。馬は二頭だてだが、一人で乗れるか?」


キャプテンは、先の事へと頭を切り替えていた。


真顔になって、ナタリーへ問う姿には、カイルをまかしてやると決意が滲んでいるようにも伺える。


「あー、馬は、問題ないわ。それよりも、キャプテン、あなたと組んだら、さて、宰相とやらは、もう、関係ない人になるんじゃないの?」


単に、貴族達を手玉にとって、遊覧船に乗せ、あれこれ、儲ければいいだけの話だろうとナタリーは思ったのだが、どうも、そうではないようで……。


「あー、なんてこった、どこまでも、お人好しだねぇ。いいかい?あんたは、カイルに騙されたんだよ?!ここは、宰相へ泣きついて……」


「あーー!王子様のスキャンダルに、しちゃうわけね!でっ!」


キャプテンとナタリーは顔を見合わせる。


「おう、宰相から、手切れ金をがっぽり巻きあげろ!」


「了解!で、取り分は?とか細かな事は言いっこなしよ?ワイナリーで、手を打って」


ナタリーの提案に、キャプテンは、大笑いした。


「どうせなら、ワイナリーどころか、離宮の一つぐらい、貢がせるわ!」


そう、カイルとの手切れ金を巻きあげて、宰相を落とせば、ナタリーには、資産が転がり込む。


手にいれたものを、キャプテンに投資して、もう、一儲け。


ハニーと、呼ばれるより、よっぽど、実になる話だろう。


「いいねぇー、ガッツリ儲けさせてもらうか!」


さあ、行くぜ!と、ご機嫌な様子のキャプテンは、ナタリーを馬に乗せた。


「あんたの腕に、かかってんだ、しっかりやってくれよ!」


馬上で、肩を揺らしながら、キャプテンは清々しい笑顔をナタリーへ向けた。

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