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処理も終え、親が帰って来るまでの隙間時間。親への言い訳代わりに二人で机に並び、宿題を消化していく。
「…… なぁ、清一」
「んー?」
面倒な計算式にぶち当たり、『どうやって解くんだったか』と悩みながらこめかみをシャープの持ち手側で軽く叩いていると、充が口を開いた。
「後悔してるか?俺と、こうなった事」
「…… は?」
意味がわからず、訝しげな顔になる。するはずが無い事を改めて確認されるとか、正直不愉快だ。
「前にさ、『後悔したく無い』ってこぼしていた事があったからさ。今回の件は、どう思ってるのかなーって思ってさ」
(……言ったか?言ったな、そういえば)
でもあれは、一度きりだと思っていたチャンスを有効に活用出来なかった事へのぼやきであって、充を抱く事に対してのものじゃ無い。
「するワケ無いだろ?するとしたら、『足の指も舐めればよかったな』とか、『キスマークくらい大量に残すべきだった』とか、そんな事くらいだ」
「引くわ、それ」
「ひ、引くなよ!これくらいで」
軽い事しか言っていないつもりだったので少し焦った。むしろ、充の方が俺と深い関係を持った事を後悔してしまうんじゃないだろうか?
「清一がそんな発言しちゃうって知ってるの、俺だけなんだよなぁ」
頬杖をつき、充がしんみりとした雰囲気になった。
「よくよく考えるとさ、めっちゃ女子にモッテモテのお前を俺がゲットしたってことは、俺って勝ち組じゃね?むしろモテの頂点みたいな?」
(…… ポジティブな奴だ、と言うべきなのか?これは)
「そう受け止めればさ、すこーしだけ残ってた『お前だけモテてズルイわー』って気持ちも吹き飛ぶな」
「むしろまだ思ってたのか⁈俺がいるんだから、『モテたい』とか、また言い出したらキレるぞ」
机にシャープペンを叩きつけるように置き、充の方へ体を向ける。まだ少し腫れていて、赤い頰が痛々しい。
「清一が好きだよ。だからもう言わないし、思わねぇって」
充の投げかけてくれた直球な言葉が嬉しくて、口元をくっと引き絞る。泣き出したいくらいに嬉しい気持ちは抱き締める事で伝えてみた。
絶対に手に入らない、入るはずが無い。
幼馴染で、しかも同性だ。俺にとっては気心の知れた最良の相手でも、充には『兄弟みたいだ』と一蹴されかねない立ち位置だった。
募る気持ちが抑えられず、バカみたいに体を貪った俺に好意を向けてもらえるなんて、全てを手に入れた後だっていうのにやっぱり信じられない。
それでも、それでも——
この幸せは絶対に手放すまいと、俺はギュッと抱き締める腕に力を入れたのだった。
【完結】