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21
由奈が、来なくなった。
三日、五日、一週間。
メッセージは既読すらつかない。
「……どうしたんだろ」
わかってるくせに、私は呟く。なんて非情な奴なんだろう。
「さあ」
隣で、唯が答える。
いつも通りの声。
いつも通りの距離。
「忙しいんじゃない?」
そんなわけない。
由奈は、あんなふうに消える子じゃない。
答えはひとつしかないのに、ね。
「ね」
唯が、私の袖を引く。
「今日、うち来ない?」
「……え」
「久しぶりに、ふたりでゆっくりしよ」
逃げ場を塞ぐみたいに、笑う。
断れない。
断ったら、たぶん――
「……いいよ。行く」
気づいたら、そう言っていた。
唯の部屋は、やけに整っていた。
生活感が薄い。
昔はもっと色鮮やかで女の子らしい部屋だったのに
「適当に座って」
言われるまま、ベッドに腰掛ける。
沈黙。
心臓の音だけがやけに大きい。
「飲み物、いる?」
「……うん」
差し出されたコップを受け取る。
カフェラテを一口飲む。
甘い。少しだけ苦い。
「ねえ」
唯が、私の隣に座る。
距離が、近い。
「まだ考えてる?」
「……なにを」
「由奈のこと」
やっぱり聞かれちゃうよね
「……考えてないよ」
何度目かも分からない嘘。
唯は、ふっと笑った。
「そっか」
手が、私の髪に触れる。
やさしい手つき。
逃げたいのに、体が動かない。
「いいよ」
ぽつり。
「無理に忘れなくて」
「……え」
予想外の言葉。
唯は、少しだけ俯く。
「だってさ」
声が、ほんの少しだけ震える。
「好きなんでしょ」
何も言えない。
否定できない。
しかし救われた。由奈を忘れるなんてきっとできない
「でも」
次の瞬間、顔を上げる。
唯のその目は、まっすぐだった。
「もう会えないよ」
ぞくっとする。
「……どういう意味」
聞いちゃいけないのに。
「そのままの意味」
あっさり。
軽く。
「色々消しといたし、写真も、連絡先も、…ね。」
「……は?」
「あと、ちょっとだけ噂も流した」
頭が追いつかない。
「由奈、学校来づらいと思うよ」
「……なんで」
やっと出た言葉。
唯は、不思議そうに首を傾げた。
「なんでって」
少しだけ笑う。
「琉夏が私のこと選ばなかったからでしょ?」
静かだった。
怒鳴りもしない。泣きもしない。
ただ、当たり前みたいに言う。
いつからこうなったんだっけ、唯。
「これで平等だよ」
「……平等?」
「うん」
唯は私の手を取る。
逃げられない。
「私も琉夏しかいないし」
ぎゅっと、指が絡まる。
「琉夏も、私しかいない」
言わなきゃいけないのに。間違ってるって
声が出ない。
「ほら」
唯が、優しく笑う。
「これで一番になれた」
その言葉で、何かが崩れた。
その日から。
本当に、唯しかいなくなった。
由奈は戻ってこない。
誰もその話をしない。
まるで最初から、存在しなかったみたいに。
唯以外とは必要最低限の会話しかしなくなった。
これが当たり前であったかのように。
「帰ろ」
唯が手を引く。
いつもの帰り道。
夕焼け。
変わらない景色。
変わってしまったのは、私だけ
「……ねえ唯」
小さく呼ぶ。
「なに?」
振り向く顔は、あの日と同じで。
やっぱり、綺麗だと思った。
「私のこと、好き?」
聞く意味なんてないのに。
唯は、迷わず答える。
「大好きだよ」
まっすぐで、重い。純粋な愛の言葉
「じゃあさ」
私は笑った。
たぶん、ちょっと壊れた笑い方をしてるかも
「ずっと一緒にいてよね、唯。」
それしか、もう残ってないから。
私から全部奪ったのだから。
唯は、嬉しそうに目を細める。
「もちろん、琉夏」
指を絡めてくる。
離れないように。
「逃がさないよ」
優しい声で。
夕焼けに照らされながら残酷なことを言う、
君は世界一綺麗に見えた
あぁ…
これでいいんだ、たぶん。
一番しかいなくなった。
空っぽになった場所に、
唯だけが綺麗に収まっている。
苦しいのに。
息がしやすい。
「ね」
唯が笑う。
「琉夏は幸せ?」
少しだけ考えて、私は頷いた。
「うん」
それが本音かどうかは、もうわからない。
でも。
「そっか」
唯は満足そうに笑った。
その笑顔が、あんまりにも綺麗だったから。
私はもう、何も言えなかった。
私は唯を寂しさを埋めるための道具にしか見てないのかもしれない。
それでも良い、自分を騙して幸せになれるのであれば。
唯がいないと私はダメになってしまう。
唯もきっと同じなはず。
もう私には何も分からないけど、多分
これが私たちの、ハッピーエンド。
少しだけ歪んだ、
とても幸せな結末。
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