屋敷の扉はすべて閉じられ、姫の部屋では、中将と数人の部下が警護に当たっていた。
脇に立ててある、高台の芯が、油を吸って、ジリジリ音を立てながら、明かりを灯している。照らし出される皆の表情は、硬い。
姫は、御簾《みす》の奥で、母親変りの翁の妻、老女にしがみつき、戦慄《わなな》いている。
姫には、これから起こる事が分かっているのか、中将の慰めにも、その様な事が通じる相手ではないと、頑なな言葉を返す。
そんな、緊張の糸が張り詰めた部屋に、どこからか、一筋の光が差し込んで来た。
同時に、閉じられている扉が、バタバタと音をたて、開かれて行く。
扉に駆け寄る守りの者は、何かの力に払い退けられ、床に転がりこんでしまった。
中将は、なんとかこらえたが、部屋の扉はすべて開き、外との境界は失くなった。
そして、見えたのは、夜空から雲母に乗って降りてくる、女達の列。
この異様な情景に、屋敷を守る随身《ずいじん》達は、すくんでいるだけだった。いや、体が動かないが、正しい。
弓矢をつがえたままの皆へ、中将は、「射れ!」と、号令をかけようとしたが、中将も、体が動かぬどころか、声すら自由に発することが出来ない。
皆が戸惑いを見せる間に、女達は、姫の部屋へ滑り込んで来る。
「ああ、なんと、野蛮な奴等よ」
先頭の、気位の高そうな女が嘆いた。
「さあ、姫。もう、このような場所に居る必要はございません。お早うお戻りを」
言うと、姫を遮る御簾が、するすると上がり、錦色に輝く羽衣を、女は姫へ差出した。
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