テラーノベル
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Cafe Latteベース隊長
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#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
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#ライトノベル
こはる
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コメント
1件
読み終えたよ……!今回、めっちゃ好きだった。 ローザの「お務め完了です」から、聖典バラバラ→新しいの取り出すギャップ、笑ったけどカッコよすぎて二度見した。 クロエが「妹より侍女」って言い放ったの、本気でローザの殺陣に見惚れてる感じがして、逆に重みが伝わってきた。 四本腕のラストで姉が真面目な声出したとこ、背筋冷えた……続き、ちゃんと受け取るね。
カァンッ!
「いだッ!?」
金ダライが、私の頭に降ってきた。
「カエデぇぇぇ!! まだ続いてるの、これぇぇ!?」
奈落の天井を見上げて叫ぶ。
もちろん、返事はない。
あの子は今、どこか遠くにいる。
いるんだけど──不運だけは、なぜか律儀に私の頭まで届く。
「……ふぅ」
私は痛む頭を押さえ、気を取り直して立ち上がった。
怖いからだ。
黙っていると、暗闇に呑まれそうになる。だから、喋る。
「ククク……静かだな。奈落の闇が、我が左眼に怯えているのか……」
「聖女様、さすがでございます」
「うむ」
『ツバキ』
「なに、クロエ」
『今の「うむ」、品があった。短い肯定には風格が宿る』
「褒めポイントが細かすぎる!!」
肩のマント──クロエが、満足げに揺れた。
千年前から私を待っていたとか、本当は姉だとか、そういうことを言ってくる、めんどくさいマント。
正直、まだピンときていない。
私の家族はサクラとカエデで、地球で一緒に育った幼馴染で、それが全部のはずだった。
なのにこのマントは、勝手に「妹」と呼んでくる。
……まあ、悪い人じゃない、らしい。九割は演出の話しかしないけど。
ローザは、いつものように猛烈な勢いでメモを取っている。
「『聖女様、暗闇を統べし「うむ」を発す』……っと」
「そんな格式高い「うむ」じゃないよ!?」
その時だった。
ズズズ……ズシャアッ!!
通路の奥の暗闇に、赤い目が浮かび上がった。
一体。二体。三体。
……四、五、六。
数えるのをやめた。多い。
「……え」
『来たな』
「来てほしくなかったよ!!」
モンスターの群れが、一斉に地を蹴った。
まだ距離はある。
でも、速い。あっという間に詰めてくる。
「く、来るなぁ!! 『ヤケクソ・ホーリービーム♡』ッ!!」
ビィィィム♡
──外した。
ピンクの光が、群れの三メートル横をかすめ、岩壁を溶かしただけだった。
「もう一回! ホーリービーム♡! ホーリービーム♡!!」
ビィィム♡ ビィィム♡
外す。外す。
怖くて手が震えて、一発も当たらない。
『ツバキ。今の軌道、祈りが足りん』
「祈りで弾道は曲がらないよ!!」
『美しく外すのも一興だが、そろそろ当てんと、まずいぞ』
「分かってるよぉ!! でも当たらないの!!」
その間に、群れが間合いを詰めきった。
先頭の一体が、跳ぶ。
「ひっ……!?」
『ツバキ! バカ、避けろ!!』
「むりむりむり間に合わな──」
牙が、喉元へ。
──ガキィンッ。
「……あら」
いつの間にか、ローザが私の前に立っていた。
片手で掲げた分厚い聖典のハードカバーが、牙を真正面から受け止めている。
「ローザ……!?」
「聖女様。少々、お下がりを」
声の温度が、変わっていた。
いつものふわふわした狂信者の声じゃない。
低く、静かで、底が見えない。
ローザは、メモ帳を丁寧に懐へしまった。
代わりに、両手で聖典を構え直す。
「……仕方、ありませんね」
「え、何その不穏な間!?」
「この力は、もう使わないと決めていたのですが」
「力ぁ!? メモが力なの!?」
次の瞬間。
ローザが、消えた。
ドゴォォォォンッ!!
いや、消えてない。
速すぎて、見えなかった。
群れの只中に、ローザがいた。
聖典のハードカバーを、メイド服を翻しながら振り下ろす。
ガギィィィンッ!!
一体目が、前腕でそれを受け止めた。
硬い。
受けた聖典越しに、ローザの腕が、びり、と痺れる。
──だが。
「……重いですね」
ローザは、笑っていた。
受け止められた聖典を、そのまま捻じ込む。
モンスターの前腕が、嫌な音を立てて押し負け、脳天まで一気に叩き割られた。
ゴガッ!
間を置かず、左右から二体。
ローザは半歩だけ引いて、片方の爪を聖典の背でいなし──だが、もう片方の爪が、メイド服の肩を浅く裂いた。
「……二体同時は、少々」
押されている。
でも、声は揺れない。
ローザは裂かれた肩のまま、踏み込んだ。
逆手に持ち替えた聖典の角で、一体目のこめかみを撃ち抜き、返す動作で二体目の顎を下から打ち上げる。
メキィッ! バキィッ!
二体が同時に、光の粒子になった。
「我が信仰に、安らかな眠りを」
淡々と。
朝の床でも掃くみたいな手際で、ローザは群れを片付けていく。
残る三体が、一斉に飛びかかった。
ローザは聖典を真上に放り、空いた両手で一体の首を掴んで投げ飛ばす。
落ちてきた聖典を掴み直しざま、残る二体をまとめて薙ぎ払った。
ドゴッ! ガゴッ! メキィッ!
「……っ、強……」
私は、ビームを撃つのも忘れて見入っていた。
さっきまで私を食おうとしていた群れが、片端から沈んでいく。
しかも、相手は決して弱くない。一体一体が、私なら一瞬で挽き肉にされる強さだ。
それを、メイドが、本で、捌いている。
『……ほう』
クロエの声が、低くなった。
さっきまでの演出家の軽さが、消えている。
『侍女よ』
メモを取らせていた側のクロエが、今は完全に観客だった。
『その太刀筋……「振るいたくない力」を、嫌々振るう者の動きだ。一撃ごとに、自らを責めている。なんと美しい矛盾……完成された滅びの所作』
「お姉ちゃん、ローザにだけ早口になってない!?」
『黙れツバキ。今、私は良いものを見ている』
「妹より侍女ぉ!?」
その間にも、ローザの聖典は限界を迎えていた。
ページが舞い、表紙が裂け、角が砕けている。
最後の一体を殴り倒すと同時に、聖典は無残にバラバラと崩れ落ちた。
「ふぅ。お務め完了です」
ローザは、ボロボロになった聖典の残骸を、丁寧に拾い集めた。
そして、腰に下げた小さな布袋に、それを大事そうにしまい込む。
次の瞬間、同じ布袋から、ピカピカの新しい聖典を取り出した。
「……ローザ」
「はい?」
「それ、何冊持ってるの!?」
「さあ? 数えたことはありません」
「数えてよ!? その袋どうなってるの!?」
「神聖な袋です」
「普通の会話がしたい!!」
──だが。
安堵したのは、束の間だった。
ズゥゥゥン……。
倒した群れの、さらに奥。
ひときわ大きな影が、ゆっくりと身を起こした。
天井に届きそうな巨躯。
そして──四本の、腕。
その一本一本が、岩を握り潰しながら、こちらへ近づいてくる。
「……ローザ」
「……はい」
「あれは、聖典一冊じゃ足りないやつだよね」
「……ええ。あれは、十冊ほど必要かと」
「冊数で見積もるな!! 工事の見積もりじゃないんだよ!!」
「在庫は、十分にございます」
「そういう問題!?」
四本腕の巨体が、ぬらりと赤い目を開く。
その視線が、まっすぐ私たちを捉えた。
「……え、ちょっと、無理でしょこれ」
『ツバキ』
「なに、クロエ!? 演出の話ならあとにして!?」
『……いや』
クロエの声が、静かだった。
『今のは、本気で言う。──気を抜くな。あれは、これまでと格が違う』
「姉が真面目!? それが一番怖いんだけど!?」
四本の腕が、同時に振り上げられた。
その影が、私たちの上に、ゆっくりと落ちてくる。
(つづく)