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#ハッピーエンド
Tubling
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夜会の会場となるのは、王宮本宮のグランドホールだ。ポーチ前には次々と馬車が到着し、そこから着飾った貴婦人や紳士たちが降り立ちにぎやかである。
先に降りたカイゼルが、馬車の扉口に立った私に真面目な顔つきで手を差し出す。
「レジーナ、手を」
いまだ落ち着かない原因不明の鼓動を抱えながら、私はステップに足を下ろし、カイゼルの手に自分の手を重ねた。
私が地面に降り立ったのを確かめて、カイゼルは手を離して今度は腕を差し出す。
「行こうか」
「えぇ」
私は頷き、彼の腕に自分の手をかけた。途端に、例の謎の鼓動が大きく跳ね上がった。今度はいったいなんなのよと、自分の中の正体不明の何かに悶々としながら、私はカイゼルと共に歩き出した。
招待状の確認やら名前の確認やらを済ませた後は、今日の会場であるグランドホールの入り口である大扉に向かう。到着した私たちを確認した式典官によって、定石通りの流れで名乗り上げられて、中に足を踏み入れた。
途端に、会場内の視線が私たちに集中する。
「オルブライト卿が夜会にいらっしゃるのは、久しぶりね!堅物だなんて声も聞くけど、逞しくて凛々しくて、いかにも騎士様という感じが素敵よねぇ。後で勇気を出して声をかけてみようかしら」
「あら、だけど今宵はレジーナ様と一緒よ。あんなにお美しい方が隣にいるんだから、あなたなんて目にも入れて頂けないんじゃない?」
「ま、失礼ね!だけど、実は私、騎士としてお勤めしていらっしゃる時のレジーナ様に憧れていたのよ。だって、あのすらりとした品のあるお姿、その辺の下手な殿方たちよりもはるかに凛々しくて、素敵なんですもの」
「分かるわ。それにしてもレジーナ様のあのようなお姿、いったい何年ぶりに拝見するかしら。騎士服も素敵だけれど、ドレス姿のお美しいことと言ったらないわね!」
浮足立った令嬢たちの声が聞こえてきて、私は淑女の微笑みの中に苦笑をそっとにじませた。私に対する興味津々の声の方が、カイゼルに対するものよりも多い気がする。
「レジーナはずいぶんと注目の的だな」
「居心地がいいものじゃないわね。だけど、カイゼルだってそうみたいよ?ご令嬢たちの熱視線が飛んできているじゃないの」
「熱視線というなら、俺以上に、独身の男たちの目がレジーナに集中しているようだが」
カイゼルは苦々し気な口調で言った。
「何年かぶりにこんな格好で夜会に顔を出した私のことを、物珍しく思っているだけよ。だって殿方の皆さんは、騎士として妃殿下の護衛を務めている時の私には、まったく興味がなさそうだったもの。そもそも貴族男性のほとんどが、剣を握るような女は嫌いなんじゃないの?私とお近づきになるいい機会だと思っている殿方が多いらしい、なんてことを兄様は言っていたけれど、それは単に、私が侯爵家の者だという立場に惹かれてのことだと思うしね」
「そんなことはないだろう。皆、素直にレジーナを綺麗だと思って……」
「別に気を使ってくれなくても結構よ」
「気を使ってなど……」
カイゼルは何か言いたそうに口を開いたが、すぐに思い直したように口を閉じ、周りに視線を飛ばした。
「そろそろ式典が始まる時間だな。人が増えて来た」
ホールに続々と人が集まり出し、いっそう賑やかさが増したと思った時、式典の始まりを告げる声が会場中に響き渡った。ゆるゆると、国王ご夫妻と、王太子ご夫妻、未婚の第二王子殿下がお出ましになる。
つつがなく式典が執り行われ、王太子ご夫妻と第二王子殿下を残して陛下御夫妻が退席なさった後は、王立楽団による演奏で会場に音があふれる。
その時私たちは、王宮の第一庭園が見える窓の近くにいた。
ちらちらとこちらの様子を窺うたくさんの視線があったが、それらに気づかぬふりをして、私はカイゼルを見上げて伺いを立てる。
「ねぇ、カイゼル。兄様には久しぶりのパーティを楽しんで来いと言われたけれど、式典は終わったし、王太子ご夫妻にご挨拶したら、帰っちゃだめかしら。これで賭けの件も終わりということにして……」
「何を言っている。帰るにはまだ早すぎるだろう」
声をかけながら私たちの方へ歩いてきたのは、カイゼルの代わりを務める護衛騎士を従えた王太子殿下だった。
美しい所作で礼を執るカイゼルの隣で、私もカーテシーを執った。
「楽にしろ」
私たちに声をかけて姿勢を戻させてから、殿下は感心したような目をして私をしげしげと眺める。
「しかし、レジーナ。ずいぶんと見違えたな。カイゼル、良かったじゃないか」
カイゼルは困ったように、曖昧な笑みを浮かべた。
殿下はそんなカイゼルを見てひとしきりにやにやした後、私に視線を戻す。
「男どもがざわついているな。カイゼルがちょっとでも離れたら、隙を狙って群がってくるんじゃないのか」
私は恐れ多くも反論する。
「殿下、先ほどカイゼルにも言いましたが、皆、私のこの姿が珍しいだけです」
「そんなことはないだろう。実際に、ほら。周りを見てみるといい」
殿下は辺りを見渡しながら、にっと笑う。
「男たちの視線がずいぶん熱い。令嬢たちの中にも、レジーナを熱っぽく見つめている者がいるようだしな。さすが、レジーナは男女問わず人気者らしい」
「からかわないでください」
苦笑する私に、殿下は肩を揺らして笑う。
「とにかくだ。せっかく休みにしてやったんだから、もう少し、夜会を楽しんでいきなさい。今は向こうで隣国の大使夫人と話をしているが、ミルフィナがレジーナのドレス姿を見たがっていたんだ。喜ばせてやってくれ」
殿下は私に念を押した。
妃殿下のことを持ち出されては、ここで失礼しますとは強く言えない。
「承知いたしました」
私の返答を聞いて殿下は満足そうに頷き、さらに続ける。
「ところで、毎年夜会の後半に、花火が打ち上げられることは、二人とも知っているな?二人で見ていくといい。綺麗だぞ」
「はい、ありがとうございます」
礼を言う私ににこりと笑いかけてから、殿下はカイゼルに意味深な笑みを向ける。
「カイゼル、頑張れよ」
その言葉を聞いた私は、まただ、と怪訝に思った。兄様も殿下も、どうしてカイゼルにそんな言葉をかけるのか。
ちらりと見上げたカイゼルの顔には、兄様に言われた時は違う、どこか決意を固めたような表情が浮かんでいる。
殿下は護衛騎士を促してその場を離れようとしたが、不意に足を止めたかと思うと、振り向きざまにカイゼルに対してびしっと人差し指を向けた。
「カイゼル、顔が固い!」
「っ……!」
殿下から指摘されて、カイゼルは絶句した。主君の背中を見送る彼の顔には、苦笑が浮かんでいた。