Episode2.そんな日のこと
美弦が子守りをする話
名無しの双子(男の子)が登場します
◇ ◇ ◇
「さて、どうしたものか……」
「……?」
「おにいさん、どうしたのー?」
はたと美弦は困ってしまった。今自分の目の前に居るのは2人の子供。子供達は、純粋な瞳で美弦のことを見つめていた。美弦はため息をつく。事の発端は、数日前のことだった。
◇ ◇ ◇
「……は? 私に子守りをしろと?」
美弦は、同僚から「出張に行くから子守りをしてほしい」と頼まれていた。期間は数週間ほど、子供は5歳の男の子の双子だった。他の方に頼めばいいのでは、という言葉は呑み込んだ。もしかすると、頼める知人すら居ないのかもしれない。それでも断ろうとしたが、同僚は「それじゃあ頼んだぞ!」とだけ言い残し、颯爽と去っていった。
1人残された美弦は、とりあえず頼まれていた1週間分の子供の食事を買い、家に帰って献立を考え始めた。
◇ ◇ ◇
それにしてもどうしたものか。美弦は、子供達の目の前で真四角の積み木を手に持ちながら考えた。子供はおろか兄弟姉妹すらいない美弦には、子供の扱い方は分からなかった。積み木を手にぼうっとしていると、子供の──兄の方が、平に積まれた積み木の上をぽんぽんと叩きながら声を上げた。
「えぇっと……?」
「おにいさん、置いて!」
双子の兄が、美弦の手にしている積み木を指さしながらそう言った。変に置かないでいたら子供達は悲しんでしまうかもしれない。泣いている子供にどうするのが正解なのか知らない美弦は、積み木の山を崩さないように気を付けながら、上に真四角の積み木を置いた。すると、双子の弟が三角の積み木を頂上に置く。積み上げられた積み木の1番下にはアーチ状の積み木があり、その上には真四角の積み木が続いていた。てっぺんに三角の積み木が置かれており──。
その積み木は、まるで城のような形をしていた。
「城……ですか?」
美弦が双子にそう問いかけると、双子はこくりと頷きながらきゃっきゃと喜んでいた。美弦は、同僚に対してなら絶対にかけないよ言葉──褒め言葉を2人に向かってかけた。
「……よく出来ていますね。素敵です」
「♪」
自分の作ったものが褒められて嬉しいのか、子供達はより一層喜んでいた。……これ、完全にご機嫌取りだな。眼前で喜んでいる子供たちを見ながら、美弦はふとそんなことを考えていた。いつもならばまず絶対にしないことだ。
ふ壁掛け時計の方を見遣ると、短針が丁度てっぺんを示していた。そろそろ昼ご飯を作らねば、と美弦は立ち上がった。それを見た双子の弟が声を上げる。
「おにーさん、どーしたの?」
「昼ご飯を作ります。待っていてくださいね」
「えー、まだ遊んでたかったのに!」
子供達は不満気な声を上げるが、その後にどちらかの腹の虫が鳴いているのが聞こえた。美弦は苦笑いし立ち上がる。
「お腹、空いているんですよね? 昼ご飯の後にまた遊んであげますから、待っていてくださいね」
「本当!? わーい!」
「……では、それまでに積み木を片付けていてくださいね。踏んだら痛いんですから」
「「はーい!」」
子供達は声を揃え、元気な返事をした。流石は双子。そう思いながら美弦はキッチンへ向かう。シンプルな紺色のエプロンを着用し、今日の昼の献立は何だったかを思い出しながら作る。エプロンは元々着用する派ではなかったのだが、これを機に使ってみるかとシンプルな見た目のエプロンを購入した。それが、意外と様になっているらしいのだ。何となく同僚に送ったエプロンの写真は大絶賛だった。
トントントン、という食材を切る心地よいリズムがキッチンに響く。開け放たれた子供部屋の方から、ほんのりと子供達の声が聞こえてくる。言われた通りに片付けをしている様だ。聞き分けの良い子供でよかったと思いつつ、美弦は食材を切るのを進めた。
それから更に少しして、片付けが終わったのか匂いにつられて来たのか、双子達がリビングから料理の様子を覗き込んでいた。……あまりじっと見られるのは慣れないものだ。そう思いつつも美弦は料理をする。料理をしている美弦を純粋で輝いた瞳で見つめている双子に、見るのはやめてくれと止める気は起きなかった。
それから更に数分後、昼食が完成した。目の前に出された食事を見て、子供達は目を輝かせた。そして、手を合わせる。美弦は、それをただじっと見つめていた。
「……美味しいですか?」
「うん! おいしい!」
「ありがとうおにいさん!」
子供達は喜びながら食べる。そんな子供達の様子を見て、美弦は無意識に口元が綻んでいた。そしてはっとする。いつの間にか、口は直線に結ばれていた。
◇ ◇ ◇
「「ごちそうさまでした!」」
手を合わせ、子供達が元気に言う。美弦は「お粗末様でした」と答え、2人分の食器をシンクに置いた。そして、流水と水で皿を洗う。スポンジに洗剤を垂らし、泡立てて皿を擦る。そして水で流すを繰り返していると、ふと袖を引かれる感覚がした。今この場に居るのは美弦を含めた3人だけ。誰かはほとんど分かっていたが見下ろす。すると、美弦は自分を見つめてくる双子達と目が合った。美弦が何だろうと考えていると、美弦が口を開くよりも先に、双子の弟が口を開いた。
「……おにーさん、一緒にあそぼう?」
「ちょっと、おにいさんは今いそがしいから──」
「……いいですよ。少しなら」
「やったぁ! おにーさんに読んでほしい絵本があるんだ! 読んで読んで!」
双子の弟に袖を引かれるまま、美弦はリビングのソファに腰掛けた。そんな美弦を挟むように双子達が座り、美弦の左手側に座っている双子の弟が、美弦にとある絵本を差し出した。それは、双子の弟が美弦に読んでほしいと言っていた絵本のようで、美弦はその絵本を声に出して読み始めた。
絵本を朗読している美弦の声が、昼下がりのリビングに響く。窓からは柔らかな陽の光が射し込んでいる。平和な午後だ。美弦はソファの背もたれに体を預けながらそんなことを考えていた。
窓から射し込む暖かな陽の光が子供達を微睡みに誘ったのか、双子の弟は既に寝ており、双子の兄はうつらうつらと船を漕いでいた。そんな双子の兄の様子を見て、美弦は声をかける。
「……少し寝ますか? ここで寝すぎると体調を崩してしまうかもしれませんが、昼寝には丁度いいでしょう」
「おやすみ……おにいさん……」
そうして双子の兄は瞼を閉じる。眠気が限界だったらしく、それからすぐに寝息が聞こえてきた。
昼寝の時間に入った双子を見ながら、美弦はぱたりと絵本を閉じた。そして、それをリビングにあるテーブルの上に置く。……すると、美弦にも眠気が襲ってきた。
(せめてブランケットを準備しなければ。それから……皿洗いを終わらせて……)
そう考えているうちにも瞼は段々と重くなっていく。風邪を引かないようにブランケットを取りに行こうと考えたところで、美弦は無理かもしれないと思い脱力した。体がソファに沈む。
起きてからでもいいか。少し昼寝をするだけだ。そう考え、美弦はほとんど閉じていた瞼を完全に閉じきった。
コメント
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俺の美弦像がぶっ壊れた(いい意味で) ギャップ萌え〜
美弦が子守りをする話 うちの子一覧作ろうかな…。うん、作ろう。 美弦は本来敵として作った変.態()なんですが、今日ふと「子守りしてたら萌えるかも…?」となったので思いつきで作りました。