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comi
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ゆゆ

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第十四章 月が導く先
第一話 港町ミルハ
南へと伸びる街道は、朝の陽光を浴びて眩しく輝いていた。
乾いた土を踏みしめる馬の蹄の音。
風に舞う土埃さえ、金色に染まって美しく見える。
交易都市ラディスと港町ミルハを繋ぐこの道は、古くから多くの人々が行き交う大動脈だった。
幅の広い街道には、朝早くから荷馬車が列を成し、大きな荷を背負った行商人や旅人達が忙しなく往来している。
そんな賑わいの中を、5人はゆっくりと馬を進めていた。
「ミルハまでは、このペースでも半日ほどで着くだろうな」
先頭を走るハヤトが、振り返りながら穏やかに言う。
「ミルハも久々やわ〜。あそこの魚料理、めっちゃ美味いんよなぁ!」
嬉しそうに声を上げたのはシュンタだった。
「わかるわぁ!二年前に行った時に食べた食堂の料理、めっちゃ美味かったよな!」
ダイチもすぐに乗っかる。
そして後ろを振り返り、同じ馬に乗るジントへ笑いかけた。
「ダイチ、食べ過ぎてお腹痛くなってたよね」
ジントがくすりと笑う。
「あれはしゃーないやろ!? だって美味かったんやもん!」
「3人前は食べ過ぎだと思うけど」
「成長期やってん!」
「今朝もいっぱい食べてたよね?」
「……今も成長期や」
小さく笑い合う二人を見て、シュンタが吹き出した。
「相変わらずやなぁ、お前ら」
その隣では、ジュウタロウが暑そうに胸元を軽く仰いでいる。
「ミルハは初めてだが……やはり南の地域は暑いな」
額の汗を拭う。
「フィルディアと真逆やもんな」
ダイチが笑う。
「雪降らんだけで感動するやろ?」
「……いや、それはない」
「だが……」
「他の地域の者はよく、フィルディアの雪を見て感動すると言うが……
その感覚が俺にはわからない」
その答えに、馬上に小さな笑い声が広がった。
途中、木の陰で休憩を取り、簡単な昼食を挟みながら、一行は順調に南へ進んでいく。
そして、日が傾き始めた頃。
街道を抜けた先、小高い丘の上へ差しかかった瞬間――
「………!」
ジントは思わず目を見開いた。
眼前いっぱいに、港町ミルハの景色が広がっていた。
夕陽を受けてオレンジ色に染まる海。
揺らめく波がその光を反射してキラキラと輝いている。
無数の帆船が並ぶ大きな港。
白い建物が密集する活気ある街並み。
風に乗って漂う、懐かしい潮の香り。
二年前と変わらない景色だった。
「うわぁ……」
思わず漏れたジントの声に、ダイチがふっと笑う。
「懐かしいな」
「……うん」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
辛いことも沢山あったはずなのに。
この景色を見ると、不思議と楽しかった記憶ばかりが蘇ってくる。
二年前。
初めてこの街へ来た時は、ただ知らない世界への期待だけを胸に抱いていた。
何も知らなかった。
自分が何者なのかも。
この先、どんな運命が待っているのかも。
けれど今は違う。
目的も。
背負うものも。
向き合わなければならない未来もある。
それでも隣には、あの時と同じようにダイチがいた。
そして今は、三人の仲間もいる。
5人はしばらくその景色を眺めた後、再び馬を走らせた。
そして日没と同時に、港町ミルハの門をくぐった。
ーーー
日が落ちても、港町ミルハの賑わいは衰えることがなかった。
通りの両脇に並ぶ魔石灯が、橙色の柔らかな光で街を照らしている。
「新鮮な魚だぞー!」
「安いよ安いよー!」
「焼きたて並んでるよー!」
威勢の良い声があちこちから飛び交い、野菜や魚を売る露店の前には大勢の人々が集まっていた。
潮の香りと、焼き魚や香辛料の匂いが混ざり合い、街全体が活気に満ちている。
「帝都やラディスとも、また違った雰囲気だな」
周囲を見回しながら、ハヤトが感心したように呟く。
「相変わらず活気あってええなぁ」
シュンタはどこか懐かしそうに目を細めた。
その隣で、ジュウタロウが僅かに眉を寄せる。
「……少し暑苦しいな」
「確かに、ジュウタロウの雰囲気とは合わないね」
ジントがくすりと笑う。
「真逆やもんな」
ダイチが吹き出した。
「確かこの近くに前泊まった宿屋があったはずやで……」
そう言いながら、ダイチはきょろきょろと辺りを見回す。
そして――
「あ! あそこや!」
ダイチが指差した先。
通りの角に、石造りの二階建ての建物が見えた。
木製の看板には、暖かな灯りに照らされて宿屋の名前が浮かび上がっている。
5人は宿の前で馬を止め従業員へ預けると、そのまま中へ入った。
宿の中もまた、多くの旅人達で賑わっている。
受付を済ませながら、ハヤトが振り返った。
「部屋はどうする?」
一瞬、全員が顔を見合わせる。
するとシュンタが、ダイチとジュウタロウの肩へ腕を回しながら、楽しそうに笑った。
「せっかくやから、みんなで寝ようや!」
「しゃーないなぁ」
ダイチが苦笑する。
ジュウタロウは眉間に皺を寄せながら深いため息を吐いた。
「……まあ、久々だしな」
その言葉に、ジントもどこか嬉しそうに小さく笑う。
そんな仲間達の様子を見て、ハヤトは穏やかに目を細めた。
受付を終え、5人は二階の部屋へ向かう。
扉を開けると、木の香りが漂う広めの部屋が現れた。
「はぁ〜……もうおしり痛いわぁ……」
部屋へ入った瞬間、シュンタはそのままベッドへ倒れ込む。
「久々に朝からずっと馬での移動だったからな」
ハヤトも苦笑した。
「でも、とりあえず食事からだ!」
するとダイチがぱっと顔を上げる。
「ここの向かいにある食堂の魚料理、めっちゃ美味いんよ!そこ行こうや!」
目を輝かせるダイチを見て、ジントが思わず吹き出した。
「ダイチ、そればっかりだね」
「そらミルハ来たら魚料理やろ!」
「また食べ過ぎないでよ?」
「今回は大丈夫やって!」
全く説得力のない返事に、部屋の中へ小さな笑い声が広がった。
まだまだ、ミルハの夜は始まったばかりだった。
ーーー
宿屋の向かいにある食堂は、多くの客で賑わっていた。
開け放たれた窓からは、魚を焼く香ばしい匂いと、人々の笑い声が溢れ出している。
5人は店員に案内され、窓際の大きなテーブル席へ腰を下ろした。
「よっしゃ、やっぱこれやな!」
メニューを開いた瞬間、ダイチは迷うことなくお気に入りの魚料理を指差す。
「俺もそれを食べてみたいな」
ハヤトも興味深そうにメニューを覗き込む。
「俺はこの貝料理が気になるわ〜。一回食べてみたかったんよ」
シュンタは嬉しそうに別の料理を指差す。
その隣で、ジントは隣席へ運ばれて来た料理を大きな瞳でじっと見つめていた。
魚介と野菜がたっぷり入った湯気立つスープ。
「……俺、これにする」
「相変わらず優しい味好きやなぁ」
ダイチが笑う。
一方、ジュウタロウだけは難しい顔でメニューを見つめ続けていた。
「……馴染みのない料理ばかりだな」
「この際やから……ジュウ!」
「激辛料理挑戦せん?」
シュンタがニヤリと笑う。
「ふむ……他国の辛い料理は食べたことないな」
「え!? ここの激辛って結構な辛さらしいで!? 大丈夫なん!?」
ダイチが驚いた声を上げた。
「いや、意外とイケるかもしれないぞ」
ハヤトは面白そうに笑っている。
すると、ジントがぼそりと呟いた。
「……俺も一口食べてみたい」
その言葉を聞いたジュウタロウは、静かにメニューを閉じる。
「……よし。では、この“激辛海鮮盛り”というものを一つ」
「おぉ〜!!」
何故かテーブルから歓声が上がった。
やがて次々と料理が運ばれてくる。
焼き魚の香ばしい匂い。
貝料理から立ち上る湯気。
色鮮やかな野菜。
ミルハの新鮮な魚介料理に、全員の表情が自然と緩んでいく。
「うっま!!」
「これめっちゃ好きな味や!」
「魚が新鮮だな」
「……美味しい」
それぞれ夢中になって食べ進める中――
ジュウタロウだけは、目の前の料理をじっと見つめていた。
煮込まれた魚、貝、海老。
その上からたっぷりとかけられた真っ赤なソース。
香辛料の刺激的な香りだけで、すでに辛そうだ。
「………」
ジュウタロウは恐る恐る一口、口へ運ぶ。
自然と4人の視線が集まる。
ぱくっ。
「……ん……?」
さらにもう一口。
ぱくっ。
「………辛くない」
「えぇ!?!?」
4人の声が綺麗に重なった。
隣に座るジントが、恐る恐る身を乗り出す。
「……ほんと? 一口ちょうだい」
ジュウタロウの皿から少しだけ取り、口へ運ぶ。
ぱくっ。
「…………っっ!!!」
次の瞬間。
ジントは口元を押さえ、そのまま勢いよく飛び跳ねた。
「ジント!?」
椅子から落ちそうになったところを、ダイチが慌てて支える。
ハヤトは即座に水を差し出した。
「ほら、水!」
「これにぺってせえや!」
シュンタは慌てて布を渡してくる。
涙目になったジントは必死に首を横へ振った。
「だ、大丈夫……っ」
「全然大丈夫そうちゃうやろ!?」
「じゃあ俺にも味見させてや!」
シュンタが料理を口へ運ぶ。
次の瞬間。
「っっっ!?!?!?」
「辛ぁっ!?!?」
「待っ、これ痛いんだけど!?」
「舌が焼ける……!!」
シュンタ、ダイチ、ハヤトも次々と撃沈した。
3人揃って涙目で水を飲み干す姿を見て、周囲の客達まで笑い始める。
そんな中。
「……?」
ジュウタロウだけが不思議そうに首を傾げていた。
「普通に美味しいのだが……」
「お前の味覚どうなっとんねん……」
ダイチが呆然と呟く。
「これ、ミルハでも有名な激辛料理やで!?」
ジュウタロウは不思議そうに皿を見る。
「そうなのか?」
「フィルディアでは冬場、身体を温めるために香辛料を使った料理が多い」
「これくらいなら、そこまで辛く感じないな」
「……北国の人間、強すぎへん?」
シュンタが呆れたように呟く。
ハヤトは額の汗を拭いながら苦笑した。
「ジュウタロウの意外なところがまた発覚したな……」
賑やかな食事は、夜遅くまで続いた。
◇
宿へ戻った5人は、それぞれ適当にベッドや椅子へ腰を下ろす。
窓の外からは、まだ港町の賑わいが微かに聞こえてきていた。
しばらくして
「明日から本格的に、“レオルの手記”の捜索だな」
ハヤトが地図を机へ広げる。
「まず、日記に書かれていた“エレナの娘”だが……どうやら貴族の家に嫁いだらしい。ただ、家名までは書かれていなかった」
地図を覗き込みながら、ジュウタロウが静かに言う。
「ミルハの貴族家門は七つか……うまくいけば、明日中には見つかるかもしれないな」
「俺は街の古書店とか骨董屋あたり探してみるわ」
シュンタがベッドへ寝転びながら手を挙げる。
ダイチとジントは顔を見合わせた。
「俺らはまず図書館行ってみよか!」
「それから貴族の家探す組に合流する」
「よし! とりあえず明日の予定は決まりだな!」
ハヤトがぱんっと手を打ち合わせる。
するとシュンタが、にやにやしながら身を起こした。
「……なんか、このまま寝るだけっていうのも惜しい気がしてきたわ〜」
「俺は早く休みたい」
ジュウタロウが即答する。
「何や、今更何話すねん?」
ダイチが呆れたように聞くと、シュンタは満面の笑みを浮かべた。
「そら決まっとるやろ!」
そして勢いよく二人を指差す。
「ダイちゃんとジンちゃんのーー」
「もうええわ!!」
ダイチが即座に遮った。
部屋の中に笑い声が広がる。
その光景を見ながら、ジントはふと目を細めた。
――このまま、5人で旅を続けるのも楽しいかもしれない。
そんなことを思ってしまう。
けれど心の奥底では、確かに感じていた。
この旅の終わりが、少しずつ近づいていることを。
コメント
3件
5人の旅が私も続いてほしい😭 5人で居る安心感がやっぱり違いますね!朝から暖かいお話ありがとうございます🙏
うわ、めっちゃ良い話やった……! 冒頭の夕陽に染まるミルハの景色、ジントの視点で描かれる“懐かしさ”がじんわり来たわ。あの場面、二年前と今の対比が効いてて、なんだか胸が熱くなった。食堂の激辛料理シーンは笑った! ジュウタロウだけ平気で、他が全滅する流れ、めっちゃ好きやわ。このパーティの空気感、ほんまに好き。次も楽しみにしてる!