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第十四章 月が導く先
第二話 失われし名を求めて 前編
翌朝。
窓から差し込む明るい陽射しと、港町の活気ある喧騒で5人は目を覚ました。
昨夜遅くまで賑わっていた街は、朝になっても変わらず人々の声で溢れている。
朝食を済ませそれぞれ身支度を整えると、ハヤトが机の上へ再び地図を広げた。
「さて、今日から本格的に“レオルの手記”の捜索だな」
4人が地図を覗き込む。
「俺とジュウタロウは、大通り沿いの貴族家門を回ってみる。昼に一度宿へ戻って、午後からは東側を当たろう」
「ああ」
ジュウタロウが静かに頷いた。
「俺は、この辺の裏通りを回ってみるわ」
シュンタは地図の一角を指差す。
「古いもん扱っとる店が結構あるからな。骨董屋とか古書店とか、その辺漁ってみる」
そう言って帽子をくいっと上げる。
「図書館はここから結構近いし、俺らは歩いて行くか!」
ダイチが隣に立つジントを見る。
「うん」
ジントも小さく頷いた。
「じゃあ昼頃、一回ここへ集合で」
「了解ー!」
それぞれ頷き合い、5人は宿屋を後にする。
ーーー
ジントはダイチと並び、図書館へ続く石畳の道を歩いていた。
朝のミルハは昨夜以上の賑わいを見せている。
行商人達の威勢の良い声。
魚を運ぶ荷車。
潮風に混ざる焼きたてのパンの香り。
人々が忙しなく行き交う中、二人は肩を並べてゆっくり歩いていた。
「こうして二人で歩くと思い出すよね、二年前」
ジントがふと懐かしそうに呟く。
「え?ジントが迷子になったやつ?」
「もう!またその話!?」
ジントがむっと頬を膨らませた。
「ゴメンゴメン!」
ダイチが声を上げて笑った、その時だった。
「おっと、悪いな兄ちゃん!」
すれ違った男の肩が、軽くジントへぶつかる。
「わっ――」
小さくよろめいた身体を、ダイチが咄嗟に支えた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
ダイチは人混みを見回し、小さく眉を寄せる。
そして当然のように片腕を差し出した。
「ほら」
「……?」
「ここ、捕まっとき」
ジントは一瞬ためらう。
けれど再び人通りの多い道へ目を向けた後、おずおずとダイチの腕を掴んだ。
「……ありがと」
「ん……」
そのまま並んで歩き出す二人。
互いの耳がほんのり赤くなっていることには、どちらも触れなかった。
ミルハ中央区に建つ図書館は、ラディスのものより小規模ながら、重厚な石造りの立派な建物だった。
高い天井。
静かな空気。
古紙と木の匂い。
二人は奥へ進み、古書が並ぶ棚の前で立ち止まる。
「よし! 片っ端から見てみるか!」
「うん」
それぞれ本を手に取り、静かにページを開く。
広い館内には、時折誰かが歩く足音と、紙をめくる微かな音だけが響いていた。
◇
一方その頃。
ハヤトとジュウタロウは、すでに二つの貴族家門への訪問を終えていた。
石畳の通りを馬で進みながら、ハヤトが軽く息を吐く。
「今の二家は、比較的新しい家門だったんだな」
「ああ。手記の年代から考えて……」
「約ニ百五十年前には、すでに貴族としてミルハへ定住している家門を当たればいい」
ジュウタロウは地図へ視線を落とした。
「既に途絶えたり、移住していなければ良いのだが……」
ハヤトが苦笑混じりに呟く。
やがて二人は、地図に記された三つ目の場所へ辿り着いた。
そこに建っていたのは、大きな屋敷だった。
だが、壁は所々色褪せ、庭は荒れ、窓枠には長い年月の傷みが残っている。
かつての栄華だけが、辛うじて面影として残っていた。
「……人は居るのか?」
ハヤトが小さく呟く。
二人は顔を見合わせた後、門を潜り、屋敷の扉の前へ立った。
重厚な扉についた金具を持ち上げる。
コン、コン――
静かな音が屋敷へ響いた。
しばらく待った後。
ぎぃ……と、ゆっくり扉が開く。
「……どちら様でしょう……?」
現れたのは、小柄な老婦人だった。
不安げな表情で、二人を見上げている。
◇
カランカラン――
乾いたベルの音とともに扉を開けると、古い本独特の匂いが店中に漂っていた。
薄暗い店内。
壁や棚一面に並ぶ古書達は、まるで持ち主が現れるのを静かに待ちながら眠っているようだった。
シュンタは店の奥にあるカウンターへ向かう。
そこには一人の中年男性が座っていた。
店主は顔を上げると、短く声を掛ける。
「いらっしゃい」
「ちょっと探してる本があるんやけど」
シュンタは人懐っこい笑みを浮かべた。
「“月蝕の子”に関する本で、“レオル”って人が書いた本なんやけど……」
「月蝕の子?」
店主は少し怪訝そうな顔をする。
「レオルって名前は聞いたことないな……。月蝕の子に関する本なら数冊あるっちゃあるが……見てみるかい?」
「ぜひお願いします!」
シュンタはぱっと両手を合わせた。
店主は立ち上がると、本棚の一角から数冊の本を抜き取り、カウンターへ置く。
シュンタはさっそく本を開いた。
ページをめくる。
だがそこに書かれていたのは、
“勇者が月蝕の子を討伐した”
という英雄譚であったり、
曖昧な伝説として語り継がれる話であったり。
どれも探し求める情報とは程遠い。
「……うーん」
最後の本を閉じ、シュンタは店主へ笑いかけた。
「ちょっと探してるもんとは違ったみたいや。ありがとうな」
「役に立てなくて悪かったな」
シュンタは軽く手を振り、そのまま店を後にした。
しばらく裏通りを歩いていると、一軒の店が目に入った。
薄暗い木造の外観。
色褪せた看板。
窓際には古びた壺やランプが無造作に並べられている。
いかにも“骨董屋”らしい怪しい雰囲気だった。
「こういう店って、なんかワクワクするんよなぁ……」
自然とシュンタの口角が上がる。
「掘り出しもん、眠っとったりするからな」
ギギギ……
重たい木の扉を押し開ける。
中には古びた家具や装飾品、剣、時計、見たこともない道具が所狭しと並んでいた。
シュンタはゆっくり棚を見回しながら奥へ進む。
その奥では、一人の老人が古びたランプを磨いていた。
「ごめんください」
シュンタが声を掛ける。
老人はゆっくり顔を上げた。
「お客さんか。いらっしゃい」
眼鏡の奥の人の良さそうな瞳が細くなる。
「この店、面白そうなもん色々ありますね〜」
「ああ、どれも曰くありだよ」
老人は楽しそうに笑う。
「長い間ここに置かれたままの物も多くてね」
「そういうのがええんですよ」
シュンタは楽しそうに店内を見回した。
「あ、そうや!ちょっと聞きたいんやけど……」
「“レオル”っていう人の手記とか、古い本って置いてません?」
店主は少し考えるように眉を寄せた。
「レオル……?」
「いや、聞いたことはないなぁ」
「昔の本ならいくつか扱ったことはあるが……そういう名前の物はなかったと思う」
「そっかぁ……」
シュンタは少し残念そうに笑う。
「まぁ、そんな簡単には見つからんよな」
「ありがとう、おっちゃん」
「いやいや、良かったら他の物も見ていきな」
店主はそう言って再びランプの手入れへ戻る。
シュンタは気を取り直したように店内を見回した。
せっかく来たんや。
何か旅に役立つもんでも見つかればええんやけどな。
その時。
一番奥の小さな棚。
そこに置かれた小さな石へ目が止まる。
灰色がかった、手のひらほどの丸い石。
表面には細かな模様が刻まれていた。
「……?」
シュンタはそれを手に取る。
不思議と、少しだけ目を引かれる。
「これ、何なん?」
店主は振り返った。
「あぁ、それか」
「昔、ここに来た旅人が持ってきたものだっけな」
「古い結界石らしい」
「結界石?」
シュンタが首を傾げる。
「どっかの一族が使っていたものだとか何とか……」
「ただ、もう古すぎて力も残ってないだろうな」
老人は肩をすくめた。
「昔はかなり強力な守りの道具だったらしいがね」
シュンタは石を光へ透かして見る。
見覚えのあるような、細かな模様。
静かで、不思議な雰囲気。
「へぇ……」
「なんか綺麗やな」
「使えんくても、こういう変わったもん持っとくの好きやわ」
老人は笑う。
「物好きだねぇ」
「よく言われます」
シュンタは笑いながら、その石を購入した。
店を出たシュンタは、今買った小さな包みを眺めながら歩く。
「どっかの一族……か」
少しだけ考える。
「西の砂漠にも少数一族とかおるしなぁ」
けれど。
「まぁ、ハヤちゃんなら何か知っとるかもしれんな」
そう呟いて、すぐ別のことを考え始める。
「……あ、そういや昼飯何食べよ」
照りつける日差しに目を細めながら、シュンタは大通りへ向かって歩き出した。
◇
紙を捲る音しか聞こえない静かな空間で、ダイチは大きく息を吐いた。
隣を見ると、ジントが真剣な表情で本と睨めっこをしている。
今のところ、重要な情報は得られていない。
二年前に来た時も、確か色々調べた気がするが……
その時も結局、曖昧な言葉ばかり並んだ本に、疑問しか残らなかったな。
そんなことを思っていると。
「ねぇ、ダイチ」
ジントが小さく声を掛ける。
「ん?」
ダイチはジントの手元の本を覗き込んだ。
そこには、ミルハに伝わる古い伝承が記されていた。
“満月前後、海から大量の魔物が現れる”
そして
“約三百年前を最後に、それは途絶えた”
「……帝国やラディスでの記録と重なるな」
ダイチが低く呟く。
「最近も海から魔物が現れたって話は聞かないよね……」
「街の記録にも載ってないし、俺らが知る範囲ではな……」
二人の間に、何とも言えない不穏な空気が流れた。
やがてジントが時計へ目を向ける。
「そろそろ戻る時間じゃない?」
「そうや!俺の腹の虫が鳴きそうや!」
ダイチが勢いよく立ち上がる。
「頭使うと余計腹減んねん!」
「ダイチらしいな」
ジントが思わず笑った。
「戻りながらみんなにお土産買ってこうよ」
「せやな!さっき美味そうな屋台があったやん?そこ行こ!」
二人は本を棚へ戻し、図書館を後にする。
外では昼の日差しが頭上から降り注ぎ、並んで歩く二人の足元に濃い影が落ちる。
ジントとダイチは、宿屋への道を並んで歩き始めた。
コメント
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はいっ!美月ゆめかです🌸 第2話、めっちゃ良かった〜!! まずダイチとジントの朝のやり取り、もうエモすぎて胸がキュッとした😭💕 「迷子の話」で膨れっ面になるジント、可愛すぎか!! しかも人混みで腕を差し出すダイチ…お互い耳が赤くなってるの、最高に尊い…✨ あとシュンタの骨董屋パートもワクワクした! 結界石みたいなアイテムが出てきて、今後の伏線っぽくて気になる〜 みんなそれぞれのルートで情報集めてて、次どうなるか続きが待ちきれないです! comiさん、素敵な物語をありがとうございます😊🎀