二人が店を出ると、もう時刻は夕暮れ時を過ぎていた。
「レストランを予約しておいたから、ちょっと移動しよう」
二人は駐車場に戻り車に乗って銀座の街を出た。しばらく車を走らせると海斗が言った。
「本当はどこかドライブにでも行けたらよかったんだけれど。明日は朝からロックフェスの音合わせが始まるから、ごめんね」
「ううん、全然。忙しいのにありがとう」
やがて車はレストランの近くに着いた。車をコインパーキングに停めると、
「予約の時間までまだ少しあるから、少し公園を散歩しよう」
海斗はそう言って美月の手を取り芝公園へ向かった。
公園内にはほとんど人がいなかった。
公園の東側の散策路に行くと、目の前にライトアップされた東京タワーが見えた。
夜の暗闇に浮かび上がる東京タワーは、なんとも言えない美しさだった。
東京タワーのすぐ傍には、満月が光り輝いていた。
二人はベンチに座り、しばらくその光景を眺めていた。
「君と出逢ってから、三度目の満月だね」
そう海斗が言うと、
「うん、満月の日はいつも一緒ね」
と言って美月は笑った。
すると海斗はポケットからさっき買った指輪の箱を出した。それを美月に渡し、開けてごらんと言った。
美月は緊張しながらその箱を受け取ると、リボンをほどいて包装紙を丁寧に開けた。すると中からは黒色のベルベットのリングケースが出てきた。
海斗はそれを受け取ると、蓋を開けて中に入っている月の指輪を取り出す。
そして美月の左手を取り、その薬指にゆっくりと指輪をはめた。
「これからはずっと一緒に満月を眺めよう。美月、俺と結婚して下さい」
「はい」
海斗のプロポーズに答えた美月の瞳には涙が溢れていた。
今日一日、海斗は美月の指輪選びに根気よく付き合ってくれた。そして、その日のうちに美月の指に指輪をはめてくれた。きちんとプロポーズの言葉も言ってくれた。
そんな、普通のカップルにとっては当たり前の事が、美月にとっては涙が出るほど嬉しかった。
そして今日という日は過去の嫌な思いから解放された日でもあった。
だから感極まってつい泣いてしまった。
「泣かないで……」
海斗は指で美月の涙を拭った。
そして美月に優しく唇を重ねた後、強く抱き締めた。
まるで二人を見守るかのように、満月は優しい光を煌々と放ち続けていた。
その後二人はレストランまで手を繋いで歩いて行った。
美月は何度も何度も左手の薬指を空高く上げて、月にかざすようにしていた。
それはまるで指輪に月のパワーを注ぎ込もうとしているかのようだった。
そんな美月を見つめながら、海斗は美月と出会ったあの満月の夜をを思い出していた。
レストランは一本奥に入った裏通りの静かな場所にあった。
サーモンピンクの壁に白いドアと窓。可愛らしい雰囲気のその店は、隠れ家的なこじんまりしたフレンチレストランだった。
店に入ると、二人は東京タワーが見える窓際の席に案内された。
料理は既に頼んであったので、料理が来るまでの間ノンアルコールのワインで乾杯した。
そこで美月がバッグから小さな箱を取り出して海斗に渡した。
「はい!」
「ん?」
海斗は不思議そうな顔をして受け取る。
「なんだろう?」
「開けてみて」
海斗が箱の蓋を開けると、そこには地球照を模ったネックレスが入っていた。
「これ、美月が作ってくれたの?」
「うん」
「すごいな。地球照がリアルでかっこいいね! こういうのが欲しかったんだよ!」
海斗は早速ネックレスを着けてみる。
それは海斗にとてもよく似合っていた。
今日海斗は白シャツを着ていたが、海斗のトレードマークの黒のTシャツの上に着けたら更に映えるだろう。
「ありがとう。一生大切にするよ」
海斗は嬉しそうな笑顔で言った。
それから二人はゆっくりと美味しいフレンチを堪能した。
食事をしながら、二人は今日行ったジュエリーショップの話を始める。
美月も海斗もあの店の雰囲気をとても気に入っていた。
海斗がまた何かの記念日にあそこへ行ってみようと美月に言ったので、美月は嬉しそうに微笑んだ。
楽しい会話をしながら美味しいディナーをゆっくり終えた二人は、家に帰る事にする。
「さて、帰りますかお嬢様」
海斗はそう言ってエンジンをかけた。
自宅に向けて車を走らせながら海斗が言う。
「今夜は美月がうちに泊まれば?」
「だって明日の朝早いんでしょう?」
「俺は早いから先に出るけど美月はゆっくりしていけばいいよ」
美月は明日は遅番だったので確かにゆっくり後から出れば間に合う。
美月がどうしようか考えていると海斗が言った。
「俺はまだ美月と一緒にいたい」
「うん、じゃあそうする」
美月が答えると海斗は急に嬉しそうな顔になり力強くアクセルを踏み込んだ。
車が海斗のマンションへ到着し地下駐車場に入ろうとしたその瞬間、車の前で突然フラッシュが光った。
海斗はとっさに美月の顔を左手で隠しアクセルを踏み込む。そして急いで駐車場の中に入った。
美月はびっくりして心臓が止まりそうだった。
「撮られたかな?」
海斗は特に慌てる様子もなく言った。
しかし心配になった美月が聞く。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
海斗は美月を心配させないよう優しい声で言った。
部屋に戻ると海斗が電話をかけ始める。
「ちょっとごめんね」
相手はおそらくマネージャーの高村だろう。
「もしもし、遅くにごめん。今、もしかしたら週刊誌か何かに撮られたかもしれない。ああ、うん、そう、うん、わかった。うん、了解!」
しばらく高村と話してから海斗は電話を切った。
そしてびっくりしている美月の傍に来て優しく言う。
「大丈夫だよ。こんなの昔はしょっちゅうだったから」
その言葉に美月が反応する。
「昔は色々とお忙しかったんですねー」
美月が拗ねたように言ったので海斗が美月を捕まえる。
「こらーっ!」
そして海斗は美月をくすぐり始めた。
美月が「キャーッ」と言って逃げようとすると、海斗はしっかり腰を掴んで引き寄せると美月をカーペットの上に押し倒した。
海斗は優しい眼差しで美月を見つめた後、美月の首筋に情熱的なキスを始めた。
徐々に力が抜けていく美月の左手には、月に抱かれたダイヤモンドの指輪が美しく輝いていた。
コメント
4件
もう何にも隠すこともないし、堂々としとった海斗さん🩷 パパラッチも想定内やったんちゃう❓ もぉ~結婚宣言やね🤭💖💖💖
それぞれ💍🌏交換、満月の日に…✨☆・*。.:*🌕・*。.:*☆*。*・゚✨ 何があっても力強く守っていくと感じた海斗さんの言動。 間違いなく堂々と宣言すると思う✨
ご婚約 おめでとうございます👩❤️👨✨💍✨ 満月の夜に出会い、そして3度目の満月の夜に 月に見守られながらプロポーズ....ステキ♡✨🌕️✨ 月と一緒に、きっとお父様も見守ってくれていますね🥺💖 末永くお幸せに🌠✨ せっかくの素敵な夜なのに、やはりパパラッチに撮られてしまったようですね📸 でも、愛し合う二人に 怖いものは何も無し‼️ 海斗さん、変装も何もせず 😎❌堂々としていて カッコ良い~👍️❤️