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#異世界ファンタジー
虎の人力車に揺られながら、お浜は、渋い顔でブツブツ言っている。
「やっぱり、ドレス専門か。着物仕立てるのに、案外、時間がかかるねぇ」
お玉を抱いて隣に座る櫻子は、そんなお浜をなだめていた。
「……あの、お浜さん。私が生地をなかなか、選べなかったから……それで、時間をとってしまったんだと思います」
「そこだよ!櫻子ちゃん!客の言いなりで、はいはい、言ってるのが、成田屋の元凶だね。客へ、勧めるってことが出来ていない!」
何が似合うかさっさと示して、物事を決める。それも、店の力なのだとお浜は力説していた。
「なんだか、野暮ったい店だね!せっかく、ミシンがあるのに。手縫いより、断然、速い。ってことは、大量生産も可能で、さばけば、かなりの儲けになるんだけど……」
「はあ……そんなものなんですか……」
「だよぉー!櫻子ちゃん!お玉の着物は、ハイカラだって、評判よかったんだよっ!だから、そこで、しっかり客の心を掴まないと!お玉が報われないよぉー!」
あい!と、お玉も、分かったような返事をしているが、そもそも、その日に着物を仕立てろというのは、無茶な話では……。
お浜の勢いは、成田屋で見せてもらったミシンの針の動きの様に激しいと櫻子はこっそり思う。
「いゃあ、お浜さん、やる気十分っすねぇ」
虎が、煽るような事を言った。
「当たり前だよ。まかされた以上、あたしにも、意地ってもんがあるからね。それに、珠子、いや、勝代に、勝たなきゃ!櫻子ちゃんの面子もあるだろ!そこんとこも成田屋は、わかっちゃいない!!」
そうだそうだと、お浜と虎が、言い合っているうちに、一同は、金原の屋敷に到着した。
「えらく、賑やかだな」
ご立腹のお浜達を揶揄する声がする。
八代が、膨れ上がった麻袋を抱えていた。
「……十銭銅貨だ」
皆の好奇の目に、銀行から戻ったばかりだと、八代は、さっと答えた。
「丁度よかった。お浜、お前も、手伝ってくれ」
「八っつあん。なんなんだい?」
「ああ、珠子、いや、柳原家への餞別作り。というか、おひねりさ」
結納の席への手土産だと、金原が言い出したようで、百円札に銅貨を包んだ、おひねりを、その場でばらまくつもりらしい。
「あははは、なんだよそれ。まるで、節分の豆まきじゃないか!」
お浜は、大笑いしながらも、金原の考えが気に入ったようで、おひねり作りにやる気を見せた。
わからないのは、櫻子で、やり取りを、ぼかんと見つめていたが、八代がそんな櫻子へ静かに言う。
「櫻子さん、あなたの形がわりを、柳原の家へ、つき付けておやりなさい」
櫻子の脳裏に、金原に見せられた、書き付けが過る。
「両家とも、金に困っている。百円札を、ばら蒔かれたら、どうなることか」
八代が笑みを浮かべた。
「さすが、キヨシ!金に物言わす金原商店だ!」
ははは、と、お浜も笑った。
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