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#ハッピーエンド
Tubling
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私は昨夜から、久方ぶりに我が家、ヴァルハルト侯爵邸に帰ってきていた。
そして今、化粧台前に座る私の周りには、母から遣わされた侍女たちが群がっている。あぁでもない、こうでもないと言いながら、私を飾り立てている最中だ。
「お美しいですわ!騎士服姿のお嬢様も凛々しくて素敵ですけれど、やっぱりドレス姿が一番です!」
私の乳兄弟でもある侍女のルイーズを筆頭に、メイドたちは皆、傑作を作り上げて満足したとでもいうように、たいそう晴れやかな顔をして、聞いているこちらが恥ずかしくなるほどに誉めそやす。
ルイーズが嬉々として私を椅子から立ち上がらせる。
「さぁ、お嬢様、お鏡でご覧になってください!」
「このドレスと首飾り、ちょっと派手じゃないかしら」
月の光をその色味に落とし込んだようなホワイトシルバーのドレスには、きらびやかな金糸の刺繍とアイスブルーの小花や宝石といった装飾がちりばめられている。首回りと胸元に華やかさを添えるのは、ムーンストーンを中心にして小粒のダイヤモンドをはめ込んだ美しい首飾りだ。侍女たちの気合がどれだけ入ったものか、鏡に映る自分は驚くほど別人で、落ち着かない。
「お嬢様ったら、デビュタント以来、ほとんどと言っていいほどドレスをお召しにならないんですもの。旦那様、奥様、ルシアン様、そしてもちろん侍女の私たちも、みんな、残念に思っているんですよ?」
「だって、普段の騎士服の方が着慣れているんですもの」
「そう仰って、ご自分のお誕生会にも騎士の正装で出席されるというのは、さすがにどうかと思いますが」
ルイーズは苦笑しながら言った後、胸元にぐっと小さな拳を作る。
「だからこそ今日は、私たち侍女一同、持てる技を駆使して、お嬢様をいっそう美しく見せるために尽力した次第なのです!」
「そ、それは、どうもありがとう……」
力説するルイーズの迫力に押されつつ礼を言ってから、そこで初めてあることに思い至る。
「それにしても、今回の夜会に出ると決めてから今日まで、三日もないというのに、よくドレスを仕立てることができたわね。色んな人たちに、ずいぶんと無理をさせたんじゃない?」
「それはですね。社交パーティが開かれる予定を聞く度に、今度こそはとお嬢様の参加を期待した奥様が、毎回ドレスを用意されていたのですよ。それで今回もすでに準備してあったドレスがありましたので、そこに少々手を加えるだけで済んだのです。ちなみに、そちらの首飾りは旦那様と奥様からの贈り物ですわ。あぁ!早く、カイゼル様のお隣に並ぶお嬢様のお姿を拝見したいです!ロマンス小説の表紙絵となりそうなくらい、きっとお似合いのお二人のはず!」
「別に、カイゼルとお似合いじゃなくていいのだけど……」
「もう、そんなこと仰って……」
ルイーズは私の反応に不満そうな顔をしたが、すぐに気を取り直したようで、大げさなほど明るい声で続ける。
「とにもかくにも、今日はお二人が注目を浴びること、間違いなしですわ!美しいお嬢様をエスコートされるカイゼル様も、きっと鼻が高いことでしょうね!」
「他の殿方には見せたくないと思うんじゃないかな?」
開いた扉の向こうから、我が侯爵家の嫡男であり、王太子秘書官長としてリアム様に仕える、兄のルシアンの声が聞こえてきて驚いた。侍女たちも皆はっとして、一様に兄様に向かって頭を下げる。
兄様は侍女たちに爽やかな笑顔を見せる。
「レジーナの支度をありがとう。ルイーズの他の皆は、もう下がっていいよ」
兄様に言われて、ルイーズ以外の侍女たちは次々と部屋を出ていった。
彼女たちを見送り、長椅子に腰を下ろしてから、私は兄様に文句を言う。
「いつからいたの?ノックもせずに扉を開けるなんて、いくら家族でも失礼だわ」
「ちゃんとノックしたよ。声だってかけた。賑やかだった上に、レジーナが自分の姿に見とれて、気付かなかっただけだろ。……しかし、まぁ、本当に美しい!愛する我が妹よ。建国祭を締め括る今日の夜会、しっかりとカイゼルに守ってもらえよ。きっと大勢の男たちが、お前とお近づきになりたくて、近づいてくるだろうからな」
兄様のかいかぶりに私は肩をすくめる。
「余計な心配よ。私のようなお転婆とお近づきになりたいと思う人なんて、いるわけがないもの。もしいたとしても、適当にかわしてきます」
「お転婆なのは否定しないが、こんなにも美しいお前に惹かれない男たちがいないわけがない。お前がまだまだ結婚なんて考えられないと頑なだから、父上と私とで、見合い話を持ち込んでくる連中を適当にあしらっていたんだが、今夜、何年かぶりにお前が社交パーティに顔を出すっていうんで、独身の男どもは興味津々、手ぐすね引いて待っているらしいぞ。まぁ、しかし、ちょうどいい機会かもしれないな。自分がいい年頃の貴族令嬢だっていう現実を受け入れて、今の自分の立ち位置はどこにあるか、肌で感じてこい」
私は苦笑する。
「立ち位置も何もないわ。今回の参加は、そもそもが私の意思じゃないのよ。カイゼルとの勝負に負けたから、仕方なく行くだけだもの」
「それって、王太子殿下が言い出した、負けた方が勝った方の願いを一つ聞く、っていうやつのことか。いやぁ、残念なことに、その時私は仕事でそこにいなかったんだよな」
「そうだったわね。もし兄様がいてくれたら、殿下の暴走を止めてもらえたかもしれないのにね。でも、とにかく。私は自分が勝ったら、カイゼルを雑用係にしてこき使ってやろうって思っていたし、カイゼルもきっと、そういう類のことを言ってくるに違いないと思っていたの。それなのに、実際はこれでしょ?いったいどんな意味があるのやら、まったくもって謎だわ」
剣技大会を終えた夜、私とカイゼルは王太子殿下に呼ばれた。
そこでカイゼルは、今日の夜会のパートナーに私を指名したのだ。
拒否権はないぞと殿下に念を押されて、私は頷くしかなかった。あれからいくら考えても、私と夜会に参加することでカイゼルにどんな益があるのか、まったく分からなかった。
兄様は呆れた顔で私を見る。
「益、って……。どうしてそういう方向に行くんだ。お前と踊りたいからだろうが」
「誰が?」
「カイゼルが、だよ」
「どうしてカイゼルが私と踊りたいの?だって御令嬢は他にいくらでもいるじゃない」
「どうして、ってお前。それは……」
「それは、何?」
兄様とカイゼルも幼なじみだ。男同士、何か聞いている、あるいは知っていることでもあるのかしらと、私は重ねて問いかけた。
しかし兄様は意味ありげな顔つきで微笑んだだけ。それは最近どこかで目にしたものと似ていた。
「直接カイゼルに聞いてみるんだな」
彼が私の質問に素直に正直に答えてくれるかどうか、非常に怪しい。だが、もやもやとしたこの気分を晴らすためにも、隙を見て聞いてみようと思う。
その時、扉をノックする音がした。
私と兄様が頷いたのを確かめて、ルイーズが扉を開ける。
我が家全員から篤く信頼されている老執事が立っていた。
「レジーナ様、オルブライト伯爵家のカイゼル様がいらっしゃいました。ただ今はグランドホールにてお待ちいただいております」
「分かりました。すぐに行くとカイゼル様に伝えてください」
貴族令嬢らしく「様」付けにし、口調も淑やかさを意識する。私は執事に言伝を頼み、長椅子から立ち上がった。
「レジーナ、一緒に行こう。大事な妹をくれぐれもよろしくと、カイゼルに頼んでおかないといけないからな」
兄様はまたしても含みある笑みを浮かべて、私に腕を差し出した。
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