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比較的温暖な真成国で、雪が積もるのは珍しい。
庭に植わる木々は、雪帽子をかぶり、しずれる音が響いていた――。
「冷えるはずだ。珍しく雪が積もりましたよ」
少しばかり扉を開けて、外の景色を眺めるとウォルは主人に語りかけた。
とたんに、雪の輝きと、冷えた外気が流れ込んでくる。
急な積雪に、屋敷では暖が間にあわず、震えながらの朝を迎えていた。
「ジオン?一度宮殿に戻りませんか?」
控えめにウォルは問ってみる。
「ああ!宮殿!ああ、戻らなくては!」
手にはしっかりと煙管が握られていた。
目の前にいる主人が、阿片欲しさから宮を恋しがっているのは明らかだった。
「もうやめましょう?」
ウォルは、ため息まじりでジオンをなだめる。
……これでも、王なのだ。
ウォルは、無念さをぐっと堪えた。
寒さの中を、馬で行く二人――。
ジオンは、薄ら笑みさえ浮かべている。
阿片のためと、寒さをいとうことなく宮殿へ足を向ける王に付き従い、ウォルは思う。
とにかく、宮殿に戻ってくれるならば、目的など、もう、どうでもよい……と。
「ああ!お戻りでしたか!!」
待ち受けていたのは、ドンレのうわずった一声だった。
誰の許しを乞うわけでもなく、王の私室に飛び込んできた。
宮殿は、外の空気と同じくらいに侘びていた。
王の私室も薄暗く、詰める官の姿すら見られない。
寒さから、皆裏に控えているとドンレは言うが、薄暗い部屋といい、あたふたと、暖をとる炭を運んでくる宦官の姿といい……。
すでに、王を見限っているのだろう。
ジオンは、心ここにあらずで、ドンレにすら目もくれない。
「噂をご存じですか?」
ドンレが口火を切る。
「噂?」
「ええ、王妃様の」
女官長の勤めと称して、饒舌に、これまでのことを並べ立てる。
ジオンは何食わぬ顔で耳を傾けていたが、宦官を王妃自らが自室に招き入れていると聞いたとたん、すっくと立ち上がった。
「どうやら、今日も……」
ドンレが止どめを刺す。
「ジオン!いけません。私が確かめます!!」
ウォルが叫んだ。
黙って部屋を出る王の手は、剣を握っている――。
「お待ちください!ジオン!」