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「ええ――っ!! めっちゃすごい! やったー―!!」



翌日の早朝。帰宅後の光貴に妊娠を告げると、顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた。迷惑そうな顔をする旦那様もいらっしゃる世の中で、彼は本当に貴重な存在だと思う。自分で「イクメンになるから」と意気込んでいるほどだ。

ライブの打ち上げをしたものだから朝帰りだったため、鼻歌を歌いながらシャワーをしている。サファイアの歌らしいが、音痴でよくわからない曲になっている。鼻歌でさえ音痴な光貴に思わず笑いがこぼれた。


こうして穏やかで幸せな日常が過ぎていくのだろう。

昨日、新藤さんにグラグラと気持ちが浮ついたのは、非日常の体験をしたからだと思った。独身の超モテそうなイケメンが私みたいな既婚者を心配するのは、大事な顧客だからという理由しかないのに、何を浮かれていたのだろうと恥ずかしくなる。

とりあえずまだ気分は悪いけれど、光貴が病院も一緒についてきてくれるというので一緒に向かった。長時間待たされたけれど、嫌な顔ひとつせずに回診に付き合ってくれた。

昨日私を診てくれた四角い顔の先生は、光貴を見て一瞬怪訝そうな顔をしたが、何事もなかったかのように振舞ってくれた。人にはそれぞれ事情があると、察してくれたのか何もつっこまれなかった。


光貴には、新藤さんに病院へ送ってもらったり、コンビニで色々買ってもらったりして迷惑はかけたということは伝えてあるが、病院の付き添いをしてもらったということは話していない。きっといい気はしないだろうし、正直に話しすぎるのが良いとは思えなかったし、なにより自分の浮ついた気持ちを伝えるのに躊躇ってしまったのが一番の原因だ。


再度検診を受け、出産に向けて詳しく助産師の方から話を聞いた。禁止事項や、今後の手続きの仕方を教えてくれた。


「このまま母子手帳もらいに行く?」


待合室で順番を待っていると光貴がそのように提案してくれたので、病院の会計などを済ませてから区役所へ向かった。一人で後から行くことを考えたら、本当に助かる提案だ。早速二人で手続きを行い、可愛い表紙の母子手帳をもらった。私でもお母さんになれるのかな、という不安はあるけれど、それ以上にわくわくする。

職場へも挨拶をしておいた方が良いという話になり、三宮の私の職場まで車を回してくれた。翻訳専門の会社『クローバー』の仲間たちに挨拶をすると、妊娠を喜ばれた。女性ばかりの職場なので理解があってありがたい。


「疲れた?」


「ん、少し」


「家まで寝てていいよ」


「ありがとう」


「ゆっくり休んでて」


光貴が笑った。優しい大好きな笑顔。

一緒にいると安心する。



酸いも甘いも知り尽くした仲。

時には不満に思うこともあるだろうけれど、光貴とずっと仲良くやっていけると、私は信じていた。



これからも、信じていくはずだったのに。




まさかこの私が、そんな大事な光貴を裏切る日が来るとは





夢にも思わなかった――


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