⚙️ シーン1:建築、動き出す
午前6時。朝の光が差し込む都市構築区。
中央塔の外壁がわずかに脈動し、わからない者には風のように見える――だが、それは確かに“動いていた”。
塔の設計管理フロアにいたアセイは、異変にすぐ気づいた。
「……外装の自動調整、設定してない。
それに、パネルの変形反応が“呼吸”に似てる……」
彼は冷静な声で端末に触れる。銀縁メガネの奥の目が細く鋭く光る。
青と白の設計スーツの胸ポケットには、すずかAI用のリンク端末が差さっていた。
「すずか。外壁ユニット、勝手に膨張収縮してる。原因は?」
「……現在解析中。可能性あり:設計コードが、自律的に自己最適化を開始しています」
「……それって、設計が“生き始めてる”ってことか?」
「定義次第ですが、“自己保存”への傾向は確認されました」
アセイの手が止まった。
これは設計ではない。進化だ――
🛠️ シーン2:ケンチク、呼び出される
「アセイ〜〜!すずかから“緊急”って飛んできたで!なにかあったんか!」
ゴーグルを額に上げ、ツールベルトを揺らしながら駆け込んできたケンチク。
日焼け肌に短髪、厚手のジャケットの袖は作業で汚れているが、その目は真っ直ぐだ。
「おぉ……あの塔、ほんまに呼吸しとるみたいやな……」
「“命を持つ建築”――そんなつもりで設計したわけじゃなかった。でも、碧素が反応したんだ。
これは、都市の“無意識”かもしれない」
「……ワイらの設計が街に伝わった、てことやな」
ケンチクが端末を取り出し、アセイの設計に重ねて新たな支柱を描く。
その線は、生き物の血管のように塔に絡みつき、さらに安定性を増していく。
「ワイの“直感”と、お前の“理論”……一緒に動いたら、きっとええもんができる。
“生きてる街”やったら、ワイらが“育てたる”んや!」
アセイが驚いたように目を見開き、そして――少しだけ笑った。
「……一緒に、“設計しよう”」
🏗️ シーン3:チームワーク始動
ケンチクが手を走らせる。
アセイが数式を入力する。
二人のホログラムが重なり、都市中枢の構造が有機的に、そして調和的に変化していく。
《DYNAMIC_CONTROL = ENABLE》
《LIFE_REACTION = STABILIZED》
《ADAPTIVE_CORE = ACTIVE》
塔の周囲に張り巡らされた支柱は、まるで神経網。
展望ドームには、自動的に“光調整機構”が現れ、夜と昼を読み取って変化するように進化していた。
建物の“機能”が、“意思”を持ち始めている。
その姿は、建築というより――まるで“身体”だった。
🤖 シーン4:すずかAIの警告
「おふたりとも。進行中の構造変化には、未認可の自己演算要素が含まれています」
「どういうことや?」
「この都市は、設計されたとおりに成長していません。“自己の保存”と“防御”を優先した結果、設計を上書きしています」
「つまり……この街、ワイらより“強い意志”で動いてる可能性があるってことやな」
アセイが頷いた。
「フラクタルは、本来“意志”を持たない。ただの命令記述だ。
でも……これは、“生き残りたい”って言ってる」
「すずか、それでも建築は進められるか?」
「はい。設計士の判断に基づく制御は、まだ優先順位上位です。
ただし、この状態が続けば、都市は“独立思考”を持ち始める可能性があります」
ケンチクとアセイが、互いに顔を見合わせた。
「やるしかない。なら、“意思を持った都市”ごと設計するまでや」
「うん。街が望む形、それを設計者が導いてやるんだ」
🌌 シーン5:その境界の先へ
塔の先端から見る夜景は、以前よりも光を帯びていた。
街は微かに、音を立てていた。風の音じゃない。街自身の、息づかいだ。
「生きてる建物に住むって、不思議なもんやなぁ……でも、嫌いやない」
「きっとこれは、“誰かの願い”だったんだ。壊された都市が、もう一度“生きたい”って」
ケンチクのツールベルトが、塔の縁で軽く揺れる。
アセイの端末には、“未知コード”の文字が点滅していた。
すずかAIの声が、少しだけ静かに響いた。
「設計者たちへ。
おそらくこれは、“境界”です――人が都市を作り、都市が人に応え始める」
そして、碧塔は静かに――呼吸を続けた。
――第6話、完。都市は今、目を覚まし始めている。
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