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その日は突然やってきた
バンッ「桜子さん!これどういうこと?」
シオンがテーブルの上に叩きつけるようにタブレットを置いた、衝撃でコーヒーカップが揺れて、あやうく中身がこぼれ落ちそうになった
桜子はゆっくりとタブレットの画面に目を落としてハッとした、白とグレーの無機質な背景に、見慣れた掲示板のレイアウトが広がっている
【美木桜子の盗作について語るスレッドpart1】
匿名掲示板の文字が目に飛び込んだ瞬間、視界の端がスッと暗くなった、背筋を氷の指でなぞられたような寒気が駆け下りる・・・
指先からは血の気が引いて冷たくなり、そのくせ首筋にはじわりと嫌な汗がにじんだ・・・耳の奥で自分の脈拍だけがドクン、ドクンと不気味なほど大きく鳴っている
―バレた!―
一番知られたくなかった人にバレてしまった、桜子の心臓が早鐘を打つ
「ど・・・どういう事って?」
彼のいつも優しく愛情いっぱいに自分を見つめる目が、今は温度のない硝子のように冷えている・・・その目がどんな怒りよりも恐ろしかった
「みんなあなたが盗作しているって言ってるよ」
「わ・・・私・・・」
「ハッキリ言ってよ『あの虹の彼方へ』を盗作したの?してないの?」
違うと言いたいのに唇は凍りついたように動かない、否定の言葉を探す間にも時計の秒針は容赦なく時を刻み、沈黙だけが重く部屋に積もっていく、シオンは深く絶望のため息をついた
ふぅ~・・・「盗作したんだね」
「違うわ!」
桜子は悲鳴のような声を上げた
「確かに柚原希実さんの作品を使ったのは悪かったわ!でもちゃんとした文章になるように改稿したのは私だし、キャラに人間味が出るようにいくつかエピソードを足したのも私よ!匿名掲示板で言ってるような盗作なんかじゃないの!信じて!」
必死になるほど、その言葉が薄っぺらく部屋に響く・・・自分の耳にさえそれは言い訳にしか聞こえなかった、シオンは何も言わずフイッと背を向けた
そして寝室へ向かってクローゼットから鞄を引きずり出す音がした、桜子の背中をさっきとは別の冷たい恐怖が貫いた
「シオン君っ!何してるの?」
「今日でこの家を出て行く」
荷物を詰めた鞄を手に戻ってきたシオンが抑揚のない声で告げた
「シオン君、そんなつもりじゃなかったの!お願い!お願い!出て行かないで!!」
「犯罪者とは一緒に暮らせないよっっ!」
―犯罪者―
玄関へ向かう背中を桜子は転がるように追いかけた、膝が崩れてその場に倒れ込み、シオンの足にすがりつく、涙があふれて視界が滲み・・・彼の靴の輪郭さえ霞んで見えた
「シオン君!待って!話を聞いて!!私だって柚原さんが生きていたらこんなことしなかったわ!きっと応援したと思う!でも彼女は死んだのよ!作者なら誰もがあの名作を世に出したいと思うわ!」
―ドンッ―
強く突き飛ばされ、桜子の体は廊下の床に叩きつけられた、シオンはそんな桜子を一度も振り返らえらず、玄関のドアがバッターンと閉まる
「シオン君、シオン君!!お願い、帰って来てーーー謝るからぁーーー!!」
桜子は声の限り叫んだ、しかし桜子を囲う闇はどんどん彼女に迫り来る
世界中の人に謝るから帰ってきて・・・
:・.。. .。.:・
ヒック・・・「シオン・・・君・・・あなたの愛なしでは・・・私は生きられない」
かすれた声は誰にも届かない・・・桜子はいつまでも、いつまでも、泣き続けた
.:・.。. .。.:・
ガバッ!「シオン君!」
桜子は叫びながら跳ね起きた
パニックの中で世界が反転する・・・一瞬自分がどこにいるのか分からなかった、見開いた目に飛び込んできたのは橙色に染まったリビングの壁と、窓から斜めに差し込む夕日の一筋だった
時計を見ると今は夕方の五時・・・全身がガタガタと震えていた・・・心臓はまだ早鐘を打ち続けている
テーブルに突っ伏して、読書の最中に眠りこけてしまっていたのか・・・頬には本の頁の跡がうっすらと残り、開いたままの本が肘の下で皺になっている
桜子は椅子から滑り落ちるように床へ降り、冷たいフローリングにバタンと仰向けに寝転がって、白い天井を眺めた
―夢だった・・・―
体は全身を殴打されたかのように重く、ぐったりと力が入らない・・・こめかみを伝った冷や汗がまた一粒、つうっと床に落ちた
桜子は天井を見つめたまま、一分以上も動けずにいた
ここの所、もう何度も繰り返し見る夢だった、どうしてこんな夢を見るのか・・・
桜子は書斎に入って、パソコンのマウスを握ってスリープ状態の画面に息を吹き返した
―これのせいだろう、どう考えても―
画面に写っているのは
【美木桜子の盗作について語るスレッドpart1】
新着書き込みはすでに200件を超えており、桜子の思った通り、そこは炎上していた
コメント
2件
どうなるの〜🥺とんでもなく悪いことをした桜子だけど、シオンとの幸せな暮らしぶりに知らぬ間に私もすっかり情がわいてたもん😔
もうもう、読んでて胸がぎゅーってなったよ…。シオンに「犯罪者」って言われた瞬間の衝撃たるや。夢オチかな?って思ったら現実もスレッド炎上中で、桜子の心の重さがひしひしと伝わってくる。盗作の罪悪感に苛まれる心理描写がすごく生々しくて、引き込まれた。続きが気になるなあ。