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話は、最初に遡る。
「まーだ、四軒目っす!!」
「お前ら、付き合いきれねぇよ……」
「あー、支店長帰っちゃったよ。」
時刻は、金曜日の夜、23時50分。
支店長が「俺は帰る」と言い残して、
飲み会から姿を消した直後。
――――
「とりあえず、次行くか。」
「ん、だね!」
「この前行った激安酒場!あそこのトン足食べたい!」
「ベストヒット酒場か……」
三人は、安酒場へと向かう。
――――
「ビールとテキーラ3杯、あとトン足3つ!」
「いや3つ!?……ま、いいけど。」
「どうせ、後から頼むからさ!」
「支店長、来週末は大山鉄工所だったな。」
「ふふ、またあの社長に捕まって……」
はい、ビールとテキーラお待ち!
「あは!朝までフルセット!」
――――
「大山さんも人が良いのか悪いのか……」
「まあ、支店長も嫌いじゃないからね!」
「すみませーん!ビール1杯!」
「はや!」
「はや!」
――――
午前3時。
「そろそろ、お開きにする?」
「私、まだここで飲んでく!」
「俺は、久しぶりにダーツでもやって帰るわ。」
それぞれが、バラけた。
マイダーツ、入れてたよな…
バッグに手を突っ込む。
「あった、あった。」
満出 有月。
あだ名は、マンデー。30歳独身。
ホルデ農機勝平支店・主管。偕楽亭の右腕。
――――
えっと……おっ、ここだったな。
Dart&Bar「呑んで投げろ」。
ギィィ…重い扉を開く。
「あっ、久しぶり!いらっしゃい。」
「どうも、ウイスキーをロックで。」
――――
カードケースから、ダーツカードを取り出して差し込む。
呑んでは投げ、投げては呑み……
5時50分。そろそろ閉店か…
外に出ると、外はまだ暗い。夜と朝の間に…か。
マンデーは近くのベンチに座り、電子タバコを付ける。
さてと…電車に乗って帰るか……
――――
あ…
……あれ?
眠気………ぁ…
あー……眠てたのか、俺。
マンデーは前かがみで目をつぶったままだ。
と、なるとここはダーツバーの近くのベンチ…
――――
しかし……音が聞こえない…
土曜日とはいえ、上野の周辺だ。
朝6時とはいえ、多少のざわつきはあるだろうが…
マンデーはゆっくりと目を開いて上体を起こした。
青い………どこ…ここは。
――――
青く、淡い光が月を照らす。
空気はどこまでも澄んでいて、吸い込むたびに肺の奥まで透明になっていくような感覚だ。
重力があるようでないようで、地面と体の境界が曖昧になる。
月の…上?
――――
半円を描く、カウンターテーブルに、バランスの良いイージーチェアが並ぶ。
俺以外、誰もいないが……ん?
カウンターの向こうから、ひとつの影が浮かび、近づいてくる。
藍色のチャイナドレスを着た女性。
ドレスは万華鏡を覗いたような柄が一面に映える。
目を合わせようとするたび、視線がすり抜けていくような奇妙さがあった。
なのに、声だけははっきりと心に届く。
――――
「ふふ、おひとつ…どうぞ。」
カウンターに置かれたグラス。
「これは…?」
「…雷吉娜的水」
え?中国語、なのか?
「…レジナの水。伝説では水龍のねぐら、洞窟の水とも…」
飲めるのか……
ゴクッ
んあがががかっっ!!!
――――
喉を通って落ちた液体は身体を収縮させ、直後に凍るような冷たさがマンデーを襲う。
ぐあぁッッ!
……あっ
なんだ…五感が…研ぎ澄まされるような感覚は…
ゴクッ……あ、味が…
二口目。それは甘いカクテルのような飲みやすさになり、マンデーは止まることなく飲み切った。
――――
「じゃ、次は…」
平皿の上には茶色の野菜と一口サイズの肉が湯気を立てて出てきた。
「茶莧菜炒牛肉(茶ツェとソビ肉炒め)。必ず、一緒に食べてね。」
「この野菜が、茶ツェ…」
「今はもう取れない野草。今あるのは数十年前に乾燥保存したものをレジナの水で戻したもの。ソビの肉は逆に新鮮さが重要になってくるの。」
――――
茶ツェとソビ肉を取り、口の中へ。
ぐうぅぅぅぅぅ!!すごい頭痛が!!
「よく噛んで、そして飲み込んで!」
ゴクンッ
頭痛が、治まっていく……
口の中に、良い香りで良質の油が残る。
――――
バクッ
頭痛はしない…しっかり味わう。ソビ肉の持つ甘味と、戻された茶ツェのみずみずしさが、これ以上ないくらいマッチしている。
マンデーは、あっという間に平らげる。
時計を見ると、6時を指している。
――――
「あ、飲み物…頂けますか?」
ポチャー……ン
ん?
マンデーは音がした方向を向いた。しかし、そこには壁しかなかった。
「あれ?今…雫が落ちるような音が…」
「あら、ふふ……聞こえたのね」
その声は少しだけ、嬉しそうだった。
「でも、壁しか…」
「そろそろ、閉店の時間よ……」