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#恋愛
ばたっちゅ
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#オリキャラ
月咲やまな
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柚乃も出かけてしまった後のしんとした家の中で、私は大人しくベッドに横になっていた。昼は、姉が冷蔵庫に仕舞っておいてくれた朝の分を食べ、その後も再びベッドの上で過ごす。
いつの間にか寝入ってしまっていたようで、目を覚ましたのは夕方近くだった。喉の渇きを覚え、体を起こして近くに置いておいた水のペットボトルを引き寄せる。
それを飲み終えた時、ドアをノックする音がした。
そこから母がそっと顔をのぞかせた。柚乃から連絡を受けたのか、帰宅がいつもよりも早い。母は部屋に入って来て、私の顔をのぞき込む。
「具合はどう?柚乃からもらったメールには、熱はないようだって書かれてたけど」
「あぁ、うん」
私は曖昧に笑う。
「さっき測ったら七度五分だった」
「あら、熱が出ちゃったのね。病院に行かなくて大丈夫?何ならこれからでも行く?まだ間に合うでしょ」
「たぶん、いつもの喉から来る風邪だと思うから、病院は行かなくてもいいかな」
「そう?だけどあんまり辛い時は我慢しないで、明日でもいいから行くのよ?」
「うん」
「食欲はある?お昼は何か食べた?」
「適当に」
「そう。夜はどうしようかしらね。喉が痛いんでしょ?おかゆと、何か喉越しのいい物を用意しようかしらね」
「ありがとう」
「じゃあ、夕飯はここに持ってくるからね。ゆっくり寝ていなさい」
母は改めて熱の状態を確かめるように私の額を軽く撫で、部屋を出て行こうと背を向けたが、ふと足を止めた。
「薬は飲んだ?」
「うん。買い置きのがあったから、それ飲んだ」
「夕食後も飲むわよね?」
「うん。一日三回のだから」
「じゃあ、食事と一緒に持ってくるわね。どの薬?」
私から薬の名前を聞いた母は、それを復唱しながら部屋を出て行った。
母の背中がドアの向こうに消えた後、私は再び布団の中に潜り込んだ。中途半端な熱のせいか、うつらうつらしていたが、ドアをノックする音が聞こえてはっとする。
窓の外が暗い。恐らく母が食事を運んできてくれたのだろうと思い、私はのろのろと起きあがった。
再びノックする音がした後、ドアが静かに開き、トレイを持った母が顔を出した。
「詩乃、ご飯は食べられる?」
「うん、食べる」
「じゃあ、そこのテーブルに置くわね」
「ありがとう」
母はローテーブルにトレイごと食事を置いた。そして、なぜかそのまま腰を下ろし、私がベッドから出てくるのを待っている。
「お母さん、下に戻らないの?」
「あなたが食べ終えるまで、ここにいるわ」
「私なら、大丈夫だよ。一人で食べられる。それに、これから柚乃が帰って来るし、食事の準備やなんかで忙しいでしょ」
「別に忙しいってこともないわよ。今夜はお父さんが出張でいないから、簡単に済ませようと思ってるしね。でも、そうね。お母さんが張り付いていたんじゃ、落ち着かないかしらね、じゃあ、とりあえず、下に行くわね。食べ終わったら、そのまま置いといてちょうだい。後で取りにくるから」
まったく動けないわけではないから、食事が済んだ食器くらい自分で持って行ける。けれど、ひとまず笑顔で頷いておく。
「分かった。ありがとう」
母が部屋を出て行った後、早速私はおかゆに手を伸ばした。ほんのり味噌の風味がして、美味しい。一緒に添えられていたバナナのヨーグルト掛けも、美味しく胃に収める。すべてをきれいに食べ終えてから、母が用意してくれた薬を飲み、熱も測ってみようと体温計を脇の下に挟んだ。結果は七度三分だった。
「明日には下がるかな」
ひとり言をつぶやいた時、外で話す人の声が聞こえた。そのうちの一人は、柚乃のようだ。
ご近所さんと話しているのだろうかと思い、その相手を確かめたくなって、私は窓辺に立って行った。
レースのカーテン越しに見えたのは、やはり柚乃だった。そのまま姉の対面に視線をずらし、その人が近所の誰でもなかったことを知って、私はひどく動揺した。
「戸崎さん……」
家の前に、どうして戸崎が柚乃と一緒にいるのだろうと、頭の中が疑念と不安でいっぱいになった。
息をすることさえ忘れそうになりながら、私はレースのカーテンに顔をぐっと近づけた。ここを少し開ければ二人の話の内容が聞こえるかもしれないと考え、窓の鍵に指を伸ばす。
しかし鍵を開ける前に、会話は終わってしまったらしい。柚乃が戸崎に向かってぺこりと頭を下げ、それに応えて戸崎が首を縦に振っているのが見えた。
その後姉はくるりと身をひるがえし、大股歩きで家の方へと向かってきた。
戸崎の方は、姉が玄関に入るまでを見届けるかのようにその場に立っていたが、しばらくたってからおもむろに背を向けて、のろのろと歩き出した。
戸崎の背中を目で追っていた私の耳に、玄関のドアが開く音と、数秒遅れて柚乃の声が聞こえてくる。
「ただいま!」
窓から離れようとした時、戸崎の様子にふと違和感を覚えた。
彼が道端で足を止めて、私たちの家の方をじっと見つめていたのだ。
暗がりの中、彼がどんな表情をしているのか、はっきりとは分からない。けれどその立ち姿から感じ取れたのは、例えば後ろ髪を引かれて足が止まってしまったとでもいうような、柚乃に対する何らかの想いだった。
もしかして、やっぱり、でもまさか、と様々な思いが私の胸をかき乱した。もしも二人が付き合うことになったりしたら、自分は、そして碧斗は、どうなるのだろう、どうするのだろうと、まだそうなると決まってもいない未来に対する不安が、頭と心を占領する。できれば、今の場面は私の見間違いであり、気のせいであってほしいと願う。
重くなった気持ちを反映して、表情が翳ったことは自分でも分かった。けれど、階段を駆け上がってきた軽やかな足音が、私の部屋の前で止まったことに気づき、急いで顔に笑みを乗せる。
ノックの音に続いてドアが開き、その隙間から柚乃が顔を見せた。
「詩乃、ただいま。具合はどう?」
「お帰り」
「熱があるんだって?」
柚乃は心配そうに眉をひそめ、私の隣に腰を下ろした。
私の顔色を確かめようとする姉の視線を避けるように、私はわずかに面を伏せる。今は柚乃の目を真っすぐに見返せない。
「微熱だから大丈夫だよ」
「まさか、朝の時点ですでに熱があったとかじゃないよね」
「お昼前から、ちょっと……。でも、喉も悪化する感じじゃなくて、朝より良くなったよ。明日には大学、行けるんじゃないかな」
「無理しないで、休んだ方がいいんじゃないの?」
柚乃は言いながら、テーブルの上に目を向ける。
「あぁ、ちゃんとご飯は食べたみたいね。良かった。これ、片づけるね」
柚乃は立ち上がり、トレイに手を伸ばした。
「いいよ。自分で持ってく」
「病人なんだから、大人しく世話を焼いてもらっていいのよ」
柚乃は笑ってトレイを持ち上げ、流れるような動作で部屋を出て行ってしまった。
姉の背を見送った後、私は笑顔を引っ込めてため息をついた。部屋に一人となった今、思い出すのは先程目にした光景だ。
帰り際の戸崎の様子も気になるが、その前に、なぜ戸崎といたのか、その経緯を柚乃に聞きたいと思った。けれど、切り出し方が分からない。また、聞いた結果が自分の望まない内容だったらと思うと、怖くて口にできない。
聞きたい、でも聞きたくないと心が揺れる中、その夜その後も柚乃と顔を合わせることはあったが、結局何も聞かずじまいに終わったのだった。
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