テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
87
#恋愛
ばたっちゅ
18,826
#オリキャラ
月咲やまな
83
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝、目を覚ました私は、家の中がやけに静かなことを不思議に思った。アラームが鳴るよりも早く目が覚めたのかしらと、寝ぼけた頭のまま、ベッドサイドに置いたスマホを手に取った。時刻を確かめ、驚き、あっという間に目が覚める。
「うそ……」
昨夜考えていた予定の通りなら、とっくに大学に向かっているはずの時間だった。家の中が静かなのは、母も柚乃もすでに出かけた後の時間でもあるからだ。
体調に問題がなければ大学に行くつもりでいたため、スマホの設定はいつも通りのそのままにしてあった。アラームをかけ忘れたのではなく、私がアラームを聞き逃してしまったのだ。そして、母と姉は私の体調を気遣って、あえて起こさなかったのだろう。
私は体を起こし、体温計を脇の下に挟んだ。
平熱だった。喉の痛みも落ち着いているし、体も軽い。これなら大学に行けると思いながら、時計を見た。
これから家を出た場合、一限目にはもう間に合わない。それならせめて、二限目の講義が始まる前までには、大学に到着していたい。
よし、と心の中で弾みをつけて私はベッドから降りた。何か胃に入れるためにキッチンに向かう。
ダイニングテーブルの上に、母が用意してくれたと思われるおにぎりと、一枚のメモがあった。味噌汁とおかずがあることを伝える内容と私の体調を心配する母からの言葉に加え、「ゆっくり休んでね」と、柚乃からのメッセージも添えられていた。
二人には、もう大丈夫だと後で連絡を入れておこうと考えながら、私は食事に取り掛かった。
食べ終えて食器を片づけた後、浴室へ行って急いでシャワーを浴びる。自室に戻って手早く身支度を整え、慌ただしく家を出た。
大学に着き、特に体調が悪くなることもなく一日を過ごし、どこにも寄らずに真っすぐに帰宅した。玄関を開けて入った家の中は、出張中の父はもちろん、母も姉もまだ帰宅していないため、静かだった。
自室に入り、部屋着に着替えてから、階下へ降りた。グラスに冷えた紅茶を注ぎ、リビングのソファに腰を落ち着ける。
何気なく窓の外に目をやって、門の辺りで目が止まる。途端に昨夜の光景が思い出されて、私はため息をついた。
あの時の戸崎は、柚乃に対して特別な想いを抱いているかのように見えた。それがもし私の見間違いではなかったとしたら、彼の心に私が入り込む隙などないのではないか。告白どころか、まともに会うことさえできない状況が恨めしく、悲しい。
「どうしようもないのかなぁ……」
私の口を突いて出たのは、先ほどとは比べ物にならないほどの大きなため息だった。
このままこうしていては、気持ちが重くなる一方だ。気分を変えるために、料理でもしようと思い立った。久しぶりだし、料理上手の母や柚乃のようにてきぱきと進める自信はない。早めに準備を始めてちょうどいいだろうと思いながら、私はエプロンを身に着けてキッチンに入った。
料理は、久しぶりにしてはまぁまぁ順調に進んだ。
ご飯が炊きあがり、三人分のハンバーグが出来上がったところに、母が帰宅した。エプロン姿の私を見て、目を丸くする。
「詩乃、夕ご飯、用意してくれてたの?体調は?」
私は母に笑顔を見せる。
「お母さん、お帰りなさい。体調はもう大丈夫だよ」
「あら、ハンバーグ、作ってくれたのね」
「冷蔵庫を見たら材料がそろってたから。食べたい気分だったし」
「ありがとうね。助かるわ」
「スープもできてる。後は、サラダ作ったら、ひと通り終わり、っていう感じだよ」
「それじゃあ、後はお母さんがやるわ。柚乃が帰って来たら、晩御飯にしましょ。それまで、詩乃はゆっくりしてなさい」
「うん」
後は母にバトンタッチして、私はキッチンを出て自室へ向かった。
柚乃が帰ってきたのは、私が雑誌を眺めていた時だった。
隣の姉の部屋のドアが開き、再び閉まったと思った後すぐに、私の部屋のドアがノックされた。
「詩乃、開けるよ」
そうっとドアが開き、柚乃が顔を見せる。
「ただいま」
「お帰りなさい」
胸の中に広がりかけたもやっとしたものを抑えて、私は柚乃に笑顔で応えた。
姉はその場に立ったまま、しばらく私の顔をじっと見つめていたが、ほっとしたように表情を和らげる。
「良かった。もう大丈夫そうだね」
「おかげさまで」
「私は何にもしてないよ。あ、そうだ、もうご飯にしようって、お母さんが。今夜は詩乃がハンバーグ、作ってくれたんだってね。久しぶりだね」
「夕べはおかゆだったから、なんだか、ものすごく食べたくなっちゃって」
「食欲があるのはいいことよ。私、先に行ってるね」
「私もすぐ行く」
階段を降りて行く柚乃の足音を聞きながら、私は部屋の電気を消して階下に向かった。
ダイニングテーブルにはすでに料理が並んでいた。
三人それぞれいつもの席に着いて、早速食卓を囲む。今日の出来事や最近の気になるニュースなどを話題にしながら、私たちは食事を進めた。
その話が出たのは、食後のフルーツを食べている時だった。
先にフォークを置いた母が柚乃を見て、ふと思い出したように言う。
「ねぇ、柚乃。今日、一緒に帰って来た男の子って、新しいお友達なの?」
「男の子」の単語を聞いた途端、どきっとした。動揺していることを二人に気づかれないようにと努めながら、私は柚乃の答えを待った。