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朝。目が覚めたときから、世界がにぶく濡れていた。
窓の外は灰色。
じとじとと、しつこく降る梅雨の雨。
出かける予定だった買い出しも延期になって、
俺たちはめずらしく、朝から同じ空間にいた。
ソファの端と端。
それぞれスマホをいじったり、ボーッとしたり。
でも、まったく気まずくはなかった。
⸻
「外、ひどいな……」
俺がつぶやくと、るかがちらりと窓の方を見た。
「行かなくていいの?」
「無理。靴下まで死ぬ」
「靴下が死ぬって何」
「びちゃびちゃになるってこと」
「……言い方きもい」
それでも、口調にトゲはなかった。
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雨音だけが響く部屋。
テレビもつけず、音楽も流していない。
でもそれが不思議と落ち着く。
少しだけ退屈。
けど、無理に会話しようとしないこの時間が、
なぜか居心地よかった。
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昼をすぎて、
「カップ麺でいい?」と俺が聞いたら、
るかはうなずいて、
「でも、お湯ちゃんと量って」と言った。
「適当に入れたらヌルくなる」
「……神経質すぎ」
「そういうのって、最初が大事なの」
ぶつぶつ言いながら、俺がちゃんと温度を計ってお湯を注ぐと、
るかは素直に「……まあまあ」とだけ言って、静かに麺をすすった。
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午後。
俺は読みかけの漫画を読み始めて、
るかは寝転がってスマホゲームをしていた。
気づけば、雨音が少しだけ弱くなっていた。
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「……ねえ」
「ん?」
「次の休み、もし晴れたら、どっか行く?」
「……るかが言うの、めずらしいな」
「ずっと家いると、さすがに脳が溶けそう」
「溶けたら、元に戻んないよ」
「だから今のうちに、外に出すの」
その言葉に、俺は自然と笑っていた。
⸻
約束でも、予定でもない。
けど、“その気がある”ってことが、今のふたりには大事だった。
何もない、雨の一日。
けれど、
何もしない時間の中に、ちゃんと距離が近づく瞬間はある。