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3話 少し丁寧すぎる注意書き
駅構内の柱に、
新しい注意書きが貼られていた。
薄いセーターに、
少し大きめのシャツ。
首元はよれず、
洗濯の回数だけが静かに残っている。
髪は耳にかからない長さで、
整えすぎない。
眉の形だけは、
なぜか左右がきっちり揃っている。
注意書きは、
黄色い枠で囲まれていて、
文字は読みやすい大きさ。
足元にお気をつけください
混雑時は無理をなさらず
本日のご利用ありがとうございます
三行目で、
少しだけ立ち止まる。
感謝は、
必要だっただろうか。
階段は緩やかで、
段差も低い。
危険と言えるほどの場所はない。
それでも、
注意書きは丁寧で、
語尾がやさしい。
通勤客は、
誰も気にしていない。
端末を見ながら、
流れるように通り過ぎる。
自分だけが、
文字を最後まで読んでいる。
貼り紙の端に、
更新日がある。
昨日。
剥がした跡は、
見当たらない。
昼過ぎ、
同じ場所を通る。
内容は変わらない。
夕方も、
夜も。
剥がれない。
誰かが、
毎日ここを見ている気がして、
無意識に背筋を伸ばす。
足元は、
最初から安全だった。
それでも、
気をつけてしまう。
改札を抜けるとき、
振り返る。
注意書きは、
そのまま。
ありがとう、
という文字だけが、
少しだけ新しく見えた。