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設楽理沙
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※時系列の問題があったので一話分(前24話)を統合した上で削除しました。ご了承ください。
* * *
十二月三十一日、午後十一時。
今日は大晦日だ。
今年を無事に終えられることへの感謝の気持ち。そして、新しい年への希望を持って、僕と小出さんは市内にあるちょっと小さめのお寺へとやって来た。
境内では大きな火が焚かれていて、パチパチと火の粉が飛んでいる。心地良いその音が、今が大晦日であることをより感じさせた。
「今年ももう終わりかあ」
それにしても、今思い返しても不思議だ。
クリスマスのあの夜、僕は小出さんに告白をした。自分でも信じられない。すごく臆病でヘタレなくせに、ちゃんと自分の気持ちを伝えることができたことが。
不思議ではあるけど、でも、ひとつだけ確信してることがある。
小出さんが僕に勇気を贈ってくれたからこそ気持ちを伝えられたんだと。
「ふえー。ここ初めて来たけどすごい人だね。園川くんとはぐれないようにしないと」
小出さんはいつも地元で有名な一番大きな神社の方に行っていたらしい。逆に、僕は年越しにこのお寺を利用することが多い。なんというか、こっちの方が落ち着いていて僕の性に合うのである。
「そうだね。しっかり僕と手を繋いでいてね。とりあえず本堂に参拝しに行こう」
「あ……うん、ありがとう。離さないでね」
小出さんは頬を赤ながら、僕の手を掴んでギュッと握り締めた。小出さんの温かな体温が伝わってくる。
「小出さん、離しちゃダメだからね。人が多すぎて迷子になっちゃうから」
「うん、ありがとう……」
僕達は手を繋いだまま大晦日で賑わう本堂へと向かった。そして、今年一年を振り返りながら。お互いに感謝の気持ちを伝え合った。
「小出さん、今年は本当にありがとうございました。来年も、ずっと一緒にいようね」
「え、えと、はい。こちらこそ、今年はありがとうございました。来年も園川くんと仲良くできるように、私頑張るね」
(仲良く、かあ)
今年の十一月あたりから小出さんと仲良くしたいと思って話しかけたわけだけど、思い返すと色んなことがあった。例えるなら、積み木のように。
小説の話をキッカケに少しずつ仲良くなっていって、一緒に秋葉原にも行って、お互いに書いた小説を読みあったりして。
そして、告白をして。
こんな幸せな大晦日、初めてだな。
「そ、園川くん、あの……」
「うん、どうしたの小出さん?」
僕の手をギュッと握りながら、小出さんはちょっと恥ずかしそうにしてこんなお願いをしてきたのだ。
「と、年が明ける瞬間にさ、手を繋いだままジャンプしない? ぴょんって跳んで、それで、一緒に年を飛び越えるの」
「ええ!? そ、それはちょっと恥ずかしいかも……。小出さんはそれをやりたいの?」
小出さんは勢いよくブンブン首を縦に振った。意外だなあ、小出さん。そういう青春っぽいことにも興味あったんだ。なら、断る理由なんないよね。
「いいよ。じゃあ0時になったら一緒にジャンプしようか。それでいいかな?」
「う、うん。園川くんありがとう。ジャンプ。一緒に新年にジャンプ」
予行練習なのか、小出さんは僕の手を取ってピョンピョンと飛び跳ねた。
なんとなく、あのクリスマスデート以来、小出さんは以前よりも元気で明るくなった気がする。僕にとって、それは何より喜ばしいことだった。
「あ、小出さん、順番回ってきたよ。一緒にお参りしよう。お賽銭ある?」
「う、うん、奮発して五百円入れるの。五円の百倍パワーをもらえる気がするから」
そう言って、小出さんはワクワクしながら五百円玉をお賽銭箱に投げ入れた。そして二人で手を合わせ、無事に一年過ごせたことへの感謝の気持ちを心中で述べる。
──これでよし。新年を気持ちよく迎えることができる。
(あれ……?)
隣を見ると、小出さんは目をつぶり、まだ真剣に手を合わせていた。どんなお願い事をしてるのかな。
そして彼女はスーッと目を開けて、ちょっとはにかみ、また僕の手を握ってきた。
「ねえ小出さん? 何をお願いしてたの?」
「え、あ、あの……んとね、内緒」
小出さんは頬を赤く染め、恥ずかしそうにしながらつと視線を落とした。そしてそれを誤魔化すように僕の手を引っ張り、甘くていい匂いのする甘酒の販売所まで連れて行った。
僕達はそれぞれ百円を払い、甘酒の入った紙コップを受け取る。一口飲むと、それは冷えた僕の体をジワリと温めてくれた。
「プハァー。甘酒って美味しいんだね。私、初めて飲んだかも。トロトロして温まる……」
「僕も久しぶりに飲んだかな。やっぱりこれを飲むとより大晦日って気がするね」
小出さんは美味しそうに、ゴクゴクと甘酒を飲み干した。そして体が温まったのか、ほんのりと彼女の頬が赤く染まった。
「あー、美味しかったぁー」
が、しかし。
どうも小出さんの様子が──
「……んふふ〜、あー、園川くん楽しいれすねー、大晦日って〜」
なんか足元がふらふらしてるし、呂律も怪しくなってきてるんですけど。
「こ、小出さんどうしたの? そんなにニコニコしちゃって。あれ、顔赤いよ? あれ? 甘酒……え、もしかして?」
小出さん、甘酒で酔っぱらっちゃったよ。
「んふふふ〜、なんか気持ちよくなってきたね、園川く〜ん。んふ、あー大晦日だね〜」
「ちょ、小出さん、危ない……!」
小出さんはふらふらと、おぼつかない足取りで僕にギュッと抱きついてきた。そのまま彼女は動きを止め、僕の顔を見上げるようにして笑っている。
「えへ〜、抱きついちゃいました〜。なんかい〜ね〜、えへへへ〜」
確か甘酒のアルコール度数って多くても一パーセント以下のはずなんだけど……。小出さんってめちゃくちゃお酒に弱かったんだ。
というか、酔うの早いよ。
「小出さん、大丈夫? ちょっと座って酔い覚そうか? ほら、歩ける?」
「んふ〜、座らないれすよ、園川くん? 私酔っぱらってないから問題ないれすよ?」
「いや、小出さん……呂律回ってないし、顔真っ赤だし。完全に酔ってるからね? だから少しだけでもどこかに座ろう?」
「いやれす〜。座らないで抱きつくの〜。園川くんのこと、だーい好きだから〜。えへへ〜」
デレデレの小出さん、めちゃくちゃ可愛いし嬉しいんだけど、ちょっと心配なんですけど。
そのとき──
『カウントダウンでーす! 十、九──!」
職員さんが拡声器を使って年越しの秒読みを開始した。
で、そのカウントダウンを聞いて、小出さんは僕の両手を握り締めてブンブンと上下に振ったのだった。
「園川く〜ん、ジャンプ、ジャンプ! えへ〜一緒に年を飛び越えようね〜」
八、七――
「あ、危ないよ小出さん! 跳んじゃ駄目! 足元ふらふらしてるじゃん! 絶対に転んじゃうって!」
六、五――
「大丈夫れすよ〜。ん〜、園川くんが手を繋いでてくれるから平気れすよ〜。そらじゃあ、はい準備れすよ〜!」
四、三――
「わ、分かった! じ、じゃあ跳んだらすぐに支えるからね!」
二、一――
「行くよ〜園川く〜ん。ハッピーニュー……」
ゼロ──!!
「園川く〜ん、ジャンプ! ジャンプれす〜! はーい、一緒に年を飛び越えました〜! 明けましておめでと〜ございます〜!」
「じ、ジャーンプ! ……て、小出さん危ない! もう年越したから! ピョンピョン飛び跳ねないの! 危ないってば!」
僕と小出さんは、手を繋ぎながら一緒にジャンプをして新しい年を迎えた。が、年を越したにも関わらず、小出さんは楽しそうに『えへへ』と笑いながら、何度も何度も飛び跳ねていた。
(まあ、小出さんが楽しそうだからいいか)
まさか、こんな年越しができるなんてちょっと前の僕なら考えられなかった。それなのに僕達は今、二人で新年に着地した。
未来は予想できないから、面白い。今この瞬間からの真新しい一年は、きっとこの女の子と過ごす時間で染まるだろう。だけど、それも予想できるものではない。
予想を超える楽しい毎日が、僕と小出さんに訪れる。そんな素敵な未来が、これからやって来る。それはもう、分かっていた。
だって──
「ちゃんと年が明けたねえ園川く〜ん! 今年も一年、よろしくお願いしま〜す!」
この人に出会えた奇跡。
その奇跡には、まだまだ続きがあるから。
【続く】