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第25話:最初のハネラたちの記憶
律芯核の奥、誰も立ち入ったことのない脈の深層に、
**光でも音でもない“揺れの記録”**が静かに眠っていた。
それは、都市樹がまだ名を持たず、命令もコードも存在しなかった頃――
最初のハネラたちが、“棲んだだけ”の記憶。
シエナがそっと枝を踏む。
ミント色の羽根は、深層の微光を受けて静かにゆらめき、
透明な尾羽は、振動に合わせて淡く呼吸するように脈打っていた。
彼女の肩のウタコクシも、まるで眠るように翅を閉じ、
体全体で空気の律を感じ取っていた。
その隣にはルフォ。
金の羽根はくすみ、けれど力強く枝をつかみ、
尾羽の縁には、もはや操作士ではなく「ひとりの棲む者」としての意思がにじんでいた。
突如、深層の壁面から**光でも影でもない“浮かぶ像”**が現れる。
それは姿を持たない。
ただ、風の揺れ、枝のざわめき、苔のふるえ。
動きだけが“何かがそこにいた”ことを物語っていた。
――群れでも個でもなく、
ただ数羽のハネラたちがそこに棲んでいた。
彼らは歌わず、命令も知らず、
ただ、枝にとまり、葉を撫で、
都市の一部として息をしていた。
命令のための声ではなく、
存在そのものが“棲歌”だった時代。
一羽の姿が、風の揺らぎの中で際立つ。
羽の色は定かでなく、光に透けるその輪郭だけが見える。
そのハネラは、音を発さずに巣を作り、
他の者と羽を触れ合わせ、
ただそこにいることを、都市に教えていた。
都市は、命令がなくても、反応していた。
「これが……最初のハネラたちの棲み方……」
ルフォが呟く。
操作士としての知識が崩れていく。
命令も記録もなかった時代に、
都市は“ただの棲まれる存在”だったのだと。
シエナの尾羽がそっと震える。
すると像は、シエナの動きに合わせて、呼吸のように広がる。
かつてのハネラたちは、
歌ではなく、**“沈黙の共鳴”**を使っていた。
枝が揺れ、巣が膨らみ、
風の流れに沿って意思が伝わっていった。
それは都市の最初の記憶であり、
誰にも命令されず、
ただ棲まれた“痕跡の記録”。
それこそが、
「命令しない都市」のはじまりだった。