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「清一はダンベルとか使わんのな」
汗を腕で拭い、あがった息のまま清一に訊いた。
「成長期は自重トレーニングの方がいいらしいからな。ダンベルも、いいの揃えようと思うと結構高いからまだ手出ししていないんだ」
「へぇ。本はサクサク買うのにな。そこは渋るのか」
「…… 本は趣味。筋トレは約束を守ってるだけだから」
ヨガマットを片付けながら、清一がバスタオルを引き出しから取り出し、ベッドの上に広げた。
「よし。充、上全部脱げ」
「…… は?」
「お前の筋肉のつき具合を見てやるから。今後の…… 参考にもなるし」
ちょっと清一の頰が赤い気がするが、トレーニング後だからか?
「そっか。そうだな」
俺が納得すると、清一がホッとした様に息を吐き出した。
Tシャツを脱ぎ、それをベッドの端へ置く。自分の腕とか腹を改めてまじまじ見ていると、ちょっと悲しくなってくる。さっき教えてもらったトレーニングを続ければ、本当にコレがムキムキになるんかねぇ…… 正直信じられん。
一人思い悩んでいると、ゴクッと清一の喉が鳴り、俺は不思議に思いながら奴の顔を見上げた。
「ん?」
「な、何でもない!」
「『何でもない』っていきなり何だよ、意味ワカンネェ」
「そ、そうだな、悪い」
気のせいじゃないレベルで清一の顔が赤い。それを誤魔化すように腕で隠すと、清一が俺から視線を逸らした。
そんな清一を見ていて、『そういやコイツの体って、筋トレ始めてからしっかり見た事無いんじゃないか?』と思い至る。普段男の着替えなんか興味も無ければ見ようとも思わんから、そんな事気にもしていなかったのだが、改めて考えると段々と清一の裸体がどんなもんなのか気になってきた。
「よし、清一も脱げ」
「…… は⁈」
清一が驚き、声をあげる。
「使用前・使用後みたいに筋肉のつき具合を比べたいんだよ。ほら、マジでやったらこうなるぞってのが目の前にあったら、よりやる気になるだろ?」
ベッドに腰掛け、前に立つ清一のジャージを引っ張る。
「あ、あぁ。なるほどな…… いや、まぁ…… わかった」
ちょっと躊躇した感があったが、清一がジャージのファスナーに手をかけて下ろしていく。ジッとその様子を見ていると、奴の手が震えている事に気が付いた。
「寒いのか?」
「いや?」
「そっか」
ジャージを脱ぎ、足元に落とす。Tシャツに手をかけて勢いよく清一が脱ぎ捨てると、見事な裸体が俺の目の前に晒された。
「うわ!」
「『うわ!』ってなんだよ、失礼だな」
モデルかよ!と言いたくなる引き締まった体を惜しげもなく見せつけられ、余計に凹みそうな気分になってきた。腹筋は見事に割れてるし、胸筋もしっかりあって盛り上がっている。二の腕も太過ぎず、程よい感じが美しい。
(…… って!何魅入ってんだよ、俺はよぉぉぉ‼︎)
「ちょっと触るな」
俺の返事を待たぬまま、清一が俺の二の腕を持ち上げた。
「脂肪は少ないのな。まぁ走ってはいたからそのおかげか」
清一が腕を揉んで筋肉のつき具合を確かめたと思ったら、今度は俺の腹筋にそっと触れてきた。
「こっちも随分細くなったよな」
「やめ!くすぐったいって!」
「胸筋はサッパリだな。腹筋だけじゃなく、こっちも一緒に鍛えるか。…… 個人的には、このままでもいいと思うんだが」
「そういうお前はどうなんだよ!」
そう言いながら俺が清一の腹筋に両手で触れると、奴の顔が茹で蛸みたいに真っ赤になった。耳まで赤く、口元は歯を食いしばって震えている。
「すっげ!何だよコレ‼︎うわぁぁぁぁぁ!溝っすげぇ!え?マジ?感動もんだわコレ!」
(シックスパックってやつか、コレが!)
筋肉の溝に指を入れ、ラインにそってなぞったり、つついたり。終いには揉んだりしていると、清一が俺の前に膝をついて座り、肩をガシッと掴んできた。体が震え、俯いてはいるが抵抗はしない。文句を言う訳でも無いのを良い事に俺が胸筋にまで手を出して揉み出すと、「マジか…… 」とだけ清一が呟いた。
「いいなぁ、お前すごいな。ここまで鍛えるとか」
「…… お、お前だって、やれば…… れな…… に」
声が小さく、聞き取り難い。どうしたんだろうか?
「——充!」
「んー?」
「お前に筋肉があまり無いのは、筋肉が硬いせいもあるかもな!」
肩を掴む手に力が入り、目が据わった感のある清一が大きめの声をあげた。
「な、何だよ、いきなり」
「俺がほぐしてやるから、ちょっとこの手を離せ」
「えーコレめっちゃ気持ちいいのにか?」
「…… くっ。マジかよ…… 俺を殺す気かっ」
複雑な心境を抱えている感のある顔をしながら、清一が俺の胸をドンッと押し、ベッドの上に倒した。そして脚を持ち上げ、半回転し、全身が仰向けに寝転んだ状態にさせられる。清一の寝具の上で横になるとか、思えば小学生の頃以来だ。
「ちょっとそのままでいろよ」
「お、おう」
天井を見上げながらボケッとしていると、ベッド下からゴソゴソと音がした。何やらキャップを開ける音がしたと思ったら、腹の上にやたらと冷たい透明なジェル状のものをかけられ、突然の事に驚いた俺は「うわぁっ!冷てぇぇぇ!」と声をあげて上半身を軽く起こした。
「悪い、すぐ温めるから」
言うが同時に清一が俺の腰に跨り、ジェルでヌルつく腹に両手を添えてきた。掌に馴染ませ、腹を撫でてくる。くすぐったいような気持ちいいような、微妙な加減で触られて反応に困った。
「…… 柔らか」
夢見心地ともいえる声で、清一が呟く。
「うっせ!人が気にしてる事を、改めて言うな!」
視線を清一の方へやると、ひどく真剣な眼差しで体を撫でている様子が見えて、心臓が一気に跳ねた。
(え?な、何でそんな顔してんの?筋肉ほぐしてるだけ…… なんだよな?)
ウエストラインやヘソの辺りをヌルヌルの手が這っていく。徐々にその手が上にあがってきて、俺の呼吸までもが乱れていく。
(ヤバイ、気持ちい…… マッサージルームとかにハマる奴の気持ちわかるかも)
胸を撫でられて、腹の奥が変に疼いた。あ、コレマズイ、このまま続けられたら——
「腕も揉むな」
清一は俺にそう声をかけると、二の腕もニュルニュルする温かな手で丹念に撫で始めた。あのまま胸を揉まれていたらマズイ部位が元気になりそうだったので、ちょっとホッとした。
俺に跨ったままの姿勢でよくまぁできるなと思いながら、ジッと清一の腹筋を見る。引き締まった筋肉にうっすら汗が垂れ落ち、不覚にも『ちょっとエロイじゃん』と思ってしまった。