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怜の運転する車は首都高速に乗り、ベイエリアへ向けて走っている。
「怜さん。寄り道って…………方向的に寄り道じゃないよね? どこに行くの?」
「ん〜……そうだな…………夜景が綺麗な場所」
怜が楽しそうに答えると、車はいつしかレインボーブリッジ手前のカーブを走行していた。
某テレビ局の特徴ともいえる球体が暗闇から浮かび上がり、その周辺は様々な光の色彩で溢れている。
白いセダンがレインボーブリッジに差しかかり、ステアリングを握っている怜も、夜景のせいなのか、どことなくテンションが高くなっているようだ。
「あ〜、高速で運転していると、無性にT-SQUAREの『トゥルース』が聴きたくなるんだよなぁ」
「なら流しちゃおうよ。その代わり、スピード出し過ぎ注意ね」
奏が手慣れた様子でカーステを操作し、曲の選択をトゥルースに設定すると、シンセサイザーの前奏が流れ出した。
「お、いいねぇ。このシンセの前奏とウィンドシンセの主メロを聴くと、ワクワクしちまうんだよな……」
怜の運転する車はレインボーブリッジの光のゲートを走り抜けていくと、渡り切った所で高速の出口へと向かった。
カーステの音楽が『トゥルース』から『オーメンズオブラブ』へと変わり、白いセダンが一般道に入ると、怜は海浜公園近くの駐車場へ車を入庫させた。
エンジンをかけたまま停めた後、怜は外に出て助手席へ回り込み、ドアを開けて奏の手を取った。
ドレスの裾に気を付けながら車を降りると、奏の視界には壮大なレインボーブリッジが広がっている。
海には色とりどりの光の粒が輝きを放ち、宝石が散りばめられているように見えた。
「うわぁ……すっごく綺麗……!」
奏が満面の笑みを向けながら怜に話しかけると、彼が穏やかな眼差しを向けている。
「なぁ奏。ドレス姿の写真、撮ってもいいか?」
「もちろん、いいよ」
怜はスマホを取り出すと、最初に奏の全身写真をレインボーブリッジを背にして撮影し、その後は、内側のカメラで寄り添いながらツーショット写真を撮った。
画像を確認した後、上機嫌な表情でスマホをスーツの上着のポケットにしまいながら、怜は彼女の名前を呼ぶ。
「奏。渡したい物があるんだ」
「え? 渡したい物? 何だろう……」
怜が車の後ろに向かい、トランクを勢いよく開けると、確認がてら花束をチラリと見やる。
(よし、ちゃんとエンゲージリングも入ってる……)
まるで奏にお姫様抱っこをするように、彼が両手で花束をそっと抱え上げた。
奏は、怜が手にしている物を見た瞬間、大きな漆黒の瞳を見張った。
彼が抱えているのは五十本の真紅の薔薇の花束。
それも、無骨な両手から溢れんばかりの大きさだ。
「奏。コンテスト、お疲れさま」
怜が奏の目の前に立ち、両手で花束を差し出すと、思わぬサプライズに、奏の瞳がジワジワと熱を孕んでいく。
「もう……怜さん…………すごいサプライズ……。本当に……ありが…………とう……」
奏は、人差し指でそっと目尻に溜まっている涙を拭うと、両手で丁寧に受け取った。
薔薇の刺繍が施されたボルドーのロングドレスに、真紅の薔薇の花束を手にしている奏。
ドレスと花束でローズを纏った彼女は息を呑む美しさだ、と怜は思う。
「薔薇の花束……初めて頂いて……それも大好きな人から頂けて…………本当に嬉しい……」
怜の端正な面差しに向け、笑みを映し出しながら花束に視線を落とすと、真紅で埋め尽くされた中に、ダークブルーの小さな箱に目が留まる。
「あれ、この箱は……」
奏が小箱を手に取りながら怜を見上げると、彼は緩やかな笑み湛えながら『開けてごらん?』と彼女に促した。
一度怜が花束を受け取り、ボンネットの上に花束を優しい手つきで置いた。
彼の白い愛車のボンネットに横たわっている真紅の薔薇たちが、より鮮やかにコントラストを引き立たせている。
彼女は首をかしげながらも、おずおずと開けていく。
「……!?」
奏は言葉を失いつつ、先ほど涙が引いたばかりの奏の視界が、更に滲んでいった。