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エンジンをかけっぱなしだった車のカーステが、『オーメンズオブラブ』から『WHEN I THINK OF YOU』へ変わり、低いボリュームでピアノの前奏が流れ出した。


狙っていたのかと思うような音の演出に、怜は思わず口元を綻ばせる。


「奏。改めて言う。俺と……結婚して欲しい。俺の…………妻になって欲しい」


視界が潤み、怜が選んだエンゲージリングに視線が釘付けになっていた奏が、ゆっくりと顔を上げる。


アルトサックスが醸し出す芳醇な音色が、まるで怜の気持ちを語っているかのように、奏には聴こえた。


「婚約指輪を用意できたら、コンテストが終わった後、改めて奏にプロポーズしようと思ってたんだ」


彼女の濡れた瞳に視線を絡ませて、怜は穏やかな表情で言葉を繋げる。


「思い返せば、奏への告白もプロポーズも…………二回してるんだよな……」


パールのネックレスのようなレインボーブリッジのライトアップに目をやりながら怜が呟くと、奏と向き合った。




「奏。二度目のプロポーズ、受けてくれるか? 昨年のクリスマスに多摩センでプロポーズした時は受けてくれたんだ。お台場で二度目のプロポーズも、もちろん受けてくれるよな?」


怜が繊麗な両肩に手を添えながら、彼女を真剣な眼差しで包み込む。


奏は、瞳から雫が頬に伝っていくのも構わずに、瞼を伏せて怜のプロポーズの言葉を受け止めた後、徐に顔を上げ、満開の笑顔の花を咲かせながら求婚の言葉を紡いだ。


「怜さん。私を……あなたの妻に…………してくれますか?」


奏の二度目の返事を聞き、怜はクールな奥二重の瞳を細め、白い歯を覗かせながら口元に弧を描く。


「ああ。俺の妻に相応しいのは奏だけだ。婚約指輪、俺が付けてもいいか?」


「お願いします……」


彼女が覚束ない様子で左手を怜の前に出すと、彼はジュエリーボックスからエンゲージリングを丁重に取り出し、笑みを湛えながらゆっくりと左手の薬指に嵌めている。


燦然と輝いている奏の指を見つめ、スーツの上着を脱ぎ奏へ羽織ると、怜は華奢な肩を引き寄せ、掻き抱いた。


「奏。二人で一緒に…………幸せになるぞ?」


「はい。怜さんと一緒に……幸せになります」


「奏は、妻になっても俺だけの女だ。これから先、たっぷりと愛し抜くから覚悟しろよ?」


「私も……怜さんだけは絶対に離さないから……覚悟してね?」


互いに笑みを見せ合い視線を交えながら、どちらからともなく二人は触れるだけのキスを交わした。




互いに辛く苦しい恋愛経験を経て二人は出会い、想いが通じ合うまで、紆余曲折の連続だったと、怜と奏は思う。


けれど、互いの心の傷も全て受け止め合い、尊重し合いながら思い出を重ねていき、今の二人があるのだ。


自分がこんなに愛し愛される人の側にいられるなんて、昨年の夏、ハヤマの特約店で怜と初めて会い、視線を交えた時の奏は思いもしなかった事だろう。




「奏。改めて……愛してる」


身体が蕩けてしまうような甘くて低い声音で、怜が奏の額にコツンと合わせながら囁く。


「怜さん……大好き…………愛してます……」


吐息混じりの声色で返事をした後、彼から頂いた真紅の薔薇の花束からシンプルなエンゲージリングに視線を移す。


愛する人から頂いた花束の紅が一層彩度を増し、奏の左手の薬指に嵌っている永遠の愛の証が、彼女の言葉に反応するように、一際輝きを解き放ったように感じるのは気のせいだろうか?


二人の大好きな曲の旋律に包まれながら、怜が奏を強く抱きしめると、奏は最愛の人の胸に顔を埋めながら、心からの柔らかな笑みを零した。






——La fine——

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