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#魔王
青空美空
8
ruruha
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298
於田縫紀
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◇
朝から降り続く雨は、屋敷の窓を静かに叩いていた。
屋根を打つ雨音と、ときおり響く遠雷だけが、屋敷の中へ静かに流れ込む。
縁側から庭を眺めながら、リーナは小さくため息をついた。
「……はぁ……。」
庭一面は雨に煙り、裏山へ続く道も白く霞んでいる。
ニアも窓へ額を寄せながら呟いた。
「……雨だね……。」
楽しみにしていた予定が、一気に遠ざかっていく。
「……。」
ソフィアは窓の外をぼんやり眺めたまま、何も言わなかった。
「てるてる坊主作ったのににゃ……。」
ラテは窓辺に吊るした小さなてるてる坊主を見つめる。
少しだけ湿ってしまった白い布が、どこか寂しそうに揺れていた。
テルは取り込んだ洗濯物を手に持ちながら残念そうに言った。
「この雨と雷は……さすがに中止ですね。」
「残念だけど……そうだね。」
フローも静かに頷く。
「仕方ないアル。」
鈴凛はあっさりと言った。
「また今度行けばいいアル。」
彼女にとっては精一杯のフォローだった。
「……うん…そうだよね!」
ニアは無理やり笑顔を作る。
「今日は大人しく屋敷に居よっか!」
「……残念。」
ルカは短く呟き、窓の外へ視線を戻した。
「じゃあ気分転換にトランプでもしましょうか。」
テルがそう提案すると、
「賛成にゃ!」
ラテはすぐ元気を取り戻す。
みんなが少しずつ笑顔を取り戻していく中。
「……うん。」
ソフィアだけは、小さく笑っただけだった。
◇
夕方。
雨脚はさらに強くなり、屋敷の廊下には静かな湿気が漂っていた。
リーナは壁にもたれかかるソフィアへ目を向ける。
「あなた、 今朝からずっと暗い顔して……。」
「そんなにショックだったの?」
「あ。」
ソフィアは少し驚いたように振り返る。
「リーナちゃん。」
「いや……ショックっていうか……。」
言葉を探すように視線を泳がせる。
「ショックじゃないなら何よ。」
「……なんか。」
ソフィアは苦く笑った。
「うん……ショック……。」
「やっぱりショックだったんじゃないの。」
リーナは呆れ半分、安心半分で息をつく。
「あなたが落ち込むことないでしょうが……。」
「……ねぇ。」
ソフィアは自分の足元を見る。
「私……なんか最近、立てなくなってきてる。」
「……はぁ?」
リーナの表情が変わる。
ソフィアはゆっくり、自分の足へ視線を落とした。
「前は透けてても平気で歩けてたのに……。」
「最近…全然歩けなくて。」
白く透けた足先は、床に触れているようで触れていない。
「立とうとすると……力が入らないの。」
静かな声だった。
けれど、その一言一言が重かった。
「……泉。」
ソフィアは少し笑う。
「どっちみち行けなかったみたい。」
リーナは数秒何も言えなかった。
「……何よそれ。」
「なんで早く言わなかったのよ。」
「だって。」
ソフィアは困ったように笑う。
「みんな楽しみにしてたし……。」
「そんなこと言ったら嫌われちゃうじゃん。」
「……。」
リーナは眉をひそめる。
「せっかく居場所ができたのに……。」
その笑顔だけは、とても寂しかった。
しばらく沈黙が流れる。
やがてリーナは静かに口を開く。
「……嫌われるわけないでしょ。」
ソフィアは少しだけ目を見開く。
「もう…テルも、 ニアも、 ラテも、 フローも、 ルカも。」
「みんな普通にあんたと話してるじゃない。」
「……。」
「今さら『足が動きませんでした』くらいで離れていくような連中じゃないわ。」
「あなたも…本当は わかってるでしょ。」
ソフィアは俯いたまま、小さく頷いた。
「……ねぇ。」
リーナは静かに問いかける。
「どうしてそんな身体になったのよ。」
「成仏するために来たって言ってたけど… 何があったのよ。」
雨音だけが廊下へ響く。
ソフィアはしばらく何も答えなかった。
やがて、小さく息を吐く。
「……話したこと… なかったね。」
少しだけ遠くを見るような目になる。
「私……ね。」
「昔からずっと 普通じゃなかったから……。」
その一言とともに、ソフィアの表情から笑顔が消えた。
窓の外では雷が低く鳴り、灰色の空が一瞬だけ白く光る。
まるで、その過去を思い出すことさえ拒むように。
コメント
1件
うわあ……第18話、すごく重くて美しいお話でしたね。 ずっと明るく振る舞ってたソフィアが、リーナにだけ見せた本音のシーン。透けて立つことすらできなくなってるのに「嫌われちゃう」って言うところ、胸がぎゅっと締め付けられました。リーナの「嫌われるわけないでしょ」は、まさに彼女がずっと必要としてた言葉だったんだろうなあ。 雷の演出がソフィアの過去の重さを象徴してて、これから明かされる“何があったのか”がすごく気になります。続き、じっくり読ませていただきますね。