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(ち、違うから……!)
断じてカップルなんかじゃない。
たぶん北畑くんにとって、私はなぜかお気に入りになったおもちゃみたいなものだ。
……たぶん。
私の手を引き、北畑くんはどんどん廊下を歩く。
歩いているうちに、毎日振り回されて疲れている私は、抵抗するのを諦めてしまった。
……まぁいいや。
駅までならあと15分くらいだし……。
いつもよりあと15分構われるのが延びるだけなら、まぁ……。
そう思っていたのに、駅に着くと北畑くんは私を振り返って言った。
「みどり、電車はどれ?」
やっと北畑くんとの一日?が終わると思った私は、ちょっと笑顔になった。
「私は2番線の電車だよ」
「そうなんだ! 俺と同じじゃん。やったね」
またもやにっこりする北畑くん。
でも私はその瞬間、「えっ」と声がひきつってしまった。
「えっ、北畑くんも2番線の電車なの?」
「そうだよ、補習がなかったらもっと早くみどりと帰れたのに、ざんねーん」
あははと大きく笑って、北畑くんは改札をくぐる。
えぇー……。嘘でしょ……。
嬉しそうな北畑くんとは対照的に、私はがっくりと肩を落として改札をくぐる。
でも、もうどうでもいいか……。
私はあとふたつ先の駅で降りるし、電車に乗ってる間は10分もないし、あと少し一緒にいるのが伸びるだけだと思えば……。
また自分に言い聞かせて電車に乗ると、北畑くんと少し離れてドア側に立った。
「みどり、席あいてるよ。座ったら?」
「ううん、いい。私次の次の駅だから」
「えっ、そうなんだ! 俺と一緒じゃん」
窓の外を見ていた私は、その言葉に「えっ」ととなりを凝視した。
「ほ、ほんとに?」
「ほんとだよ。うわー、やったねみどり!
朝も駅で待ち合わせて、一緒に登校しよっか」
「はっ? なんでよ、嫌だよ!」
「うわっ、だからその即答傷つくってー」
言い合ってる間に最寄り駅に到着して、北畑くんは本当に電車を降りた。
(や、やっぱりこの駅って本当なんだ……)
ショックに打ちひしがられながら、のろのろと改札まで歩く。
ようやく改札を出た私は、「じゃあ……」と北畑くんから背を向け、家のほうに歩き出そうとした。
でも北畑くんもなぜか私と一緒に歩こうとする。
「えっ、ちょっと……。
まさか家までついてくる気!?」
「だからそんな嫌そうな顔をされると傷つくってー。
違うよ、俺も家がこっちなだけ」
「そ、そう……。どこなの? 家……」
「住所はまだはっきり覚えてないんだけど、そこのロータリーを出て、信号渡って左に行って……」
そう言って北畑くんはそっちのほうを指さす。
それを聞いて、嫌な汗がぶわっと出てきた。
嘘でしょ、それって私の家の方向じゃん!
「それで、みどりは?」
「えっ」
「家、どっち?」
「え、えっと……」
どうしよう。
同じ方向って言うのは嫌だけど、嘘をつくと毎日遠回り?して帰らなきゃいけないはめになりそうだ。
そんなの面倒だし、だいたい私がどうしてそんな面倒なことしなきゃいけないの。
……もういいや。
もう北畑くんのことは気にせず帰ろう……。
「家の場所は黙秘です。
じゃあ、私帰るね。また明日」
そう言うと、私は北畑くんを置いて速足で歩きだした。
「みどりー?」
後ろでちょっと楽しそうな声がする。
帰る方向が同じだからか、当然北畑くんも私の後ろをついてきた。
追いつかれたくなくて速足で歩いても、彼のほうが足が長いからか、あっという間に追いつかれて、となりに並ばれてしまう。
「ねーみどり、もしかしてみどりもこっちが家なの?」
うっ……。
「そう」と答えるのも嫌だけど、きっと北畑くんにはばれている。
なにも答えずに、私はどこかで北畑くんが別れてくれるのを期待して、家へと急いだ。
でも北畑くんは一向に道を曲がろうともしないし、「みどりの家、このへーん?」なんてのんきなことを言いながらついてくる。
ど、どうしよう。
うちはここからあとみっと先の角を曲がったところ。
このまま一緒に歩けば、北畑くんに家を知られてしまう……!
「あ、あの。北畑くんの家、どこ?」
「えっ?」
「北畑くんを家まで送っていくよ。
ま、まだ道わかってないんでしょ?」
このまま一緒に歩いて、私の家を知られるくらいなら、彼が家に入るのを見届けてから家に帰るほうがましだ。
「えっ、いいの? うちこっちなんだ」
私の打算をよそに、北畑くんは嬉しそうに路地をまっすぐ進む。
えぇー……。
そっち、うちの家があるほうなんだけどな……。
これ以上近所でないことを期待しつつ、ヒヤヒヤしながら歩くこと数分。
「ここだよ、俺んち」
そう言って指さされた家を見て、私は言葉が出なかった。
そこはこの間まで売り物件になっていた、うちのななめ向いの家だったからだ。
「道がわかんないわけじゃなかったけど、みどりが送ってくれるって言ってくれたのが嬉しくて、つい連れてきちゃった。
せっかくだし、あがってく?」
「えっ、い、いいよ! 私、もう帰るから!」
「いいじゃん、散らかってるけど、ジュースくらいは出せるって」
「いいって! じゃ、じゃあ私はこれで……」
といっても、私の家はななめ向い。
北畑くんがいる前でうちに入れるわけもなく、どうしようと途方にくれかけた時、ガチャッとドアがあく音がした。
「あ、唯くん!」
「おかえりー」と笑って北畑くんの家から出てきた女の子は、私たちと同い年くらいの女の子だった。