リナの心が砕けたのは、ある夜のことだった。
ライブ後の楽屋で、ファンがくれた手作りのフォトブックを手にしていたとき、彩花が鋭い声で言った。
「それ、誰のもの?リナ、勝手に持ってく気?」
「違うよ、ファンの子が私に…」
リナの言葉を、美咲が冷たく遮った。
「リナって、ほんと目立つことしか考えてないよね。バンドのこと、もっと考えなよ」
その言葉は、リナの胸に深く突き刺さった。
彼女はバンドのために、雨の中のセッティングも、深夜の練習も、黙って耐えてきた。
フォトブックには、ファンの手書きのメッセージが綴られていた。
「リナの歌で、明日も頑張れるよ」。
その温もりが、彼女の唯一の支えだった。翌朝、警察がリナの元にやってきた。事務所から
「リナがファンの贈り物を盗んだ」
と被害届が出されていた。フォトブックはすぐに彼女のものだと証明されたが、高木社長は冷たく告げた。
「騒ぎになった以上、バンドのイメージが大事だ。しばらく表に出るな」
彩花と美咲は謝罪ひとつせず、SNSに
「StellarVox、最高のライブだった!」
と投稿した。リナの名前は、そこにはなかった。
ネットには
「リナ、裏切り者」
「バンドを壊した」
との中傷が溢れ、彼女の心は静かに崩れていった。
部屋でギターを抱えたまま、リナは動けなくなった。ノートに書いた歌詞は、どれも色褪せて見えた。
「私の歌なんて、誰も求めてない…」
彼女はフォトブックを胸に押し当て、涙をこぼした。
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