図書館の帰り道綾子は道の駅へ寄った。
そしてこの間の蕎麦屋に入り蕎麦を食べる。食べながら考え事をしていた。
(神楽坂仁本人がどうして送って来たの? なぜ私が読みたがっている事を知ったの?)
そこで綾子はハッとする。
(確か『God』さんはフリーランスのお仕事をしていたわ。もしかしたら出版関係の仕事なのかな? それで神楽坂氏と知り合いとか?)
綾子はそう閃く。そしてなぜ『God』が本やドラマの感想を聞きたがっていたのかわかった。『God』は綾子から感想を聞いて神楽坂氏に伝えようと思ったのではないか?
(きっとそうよ、そうだわ)
綾子は微笑んでから箸を置くと『God』へメールを送った。
【無事に本を借りる事が出来ました。ありがとうございます。そして種明かしの答えがわかっちゃいました】
その時執筆中だった仁はメール着信音がしたのですぐにノートパソコンをチェックした。
(チッ、いちいち【月夜のおしゃべり】にログインするのは面倒くせぇな)
ブツブツいいながらすぐに『エンジェル』からのメールを読んだ。
(なになに? 種明かしの答えがわかったって? まさか俺が本人だってバレたか?)
焦った仁は慌てて返事を送った。
【本借りられて良かったね。で、何がわかったって? 聞かせて貰おうじゃないのー】
再び蕎麦を食べていた綾子はすぐに返信する。
【『God』さんは神楽坂氏とお知り合いなのでは? どう? 図星ですよね?】
返信メールを見て仁はクックッと笑う。笑いながらホッとしていた。
「あー良かった、まだバレてねぇ」
仁はそう呟くと返事を送った。
【参ったなぁ、バレちゃったか。ピンポーン、正解です】
【やっぱり! だからドラマの感想とか聞きたがっていらっしゃったのですね】
【うん、そう。視聴者の反応を教えてって言われてたからね】
【そうだったんですね。って事は『God』さんのフリーランスのお仕事っていうのは?】
【出版系の編集の仕事です。だから在宅フリーランスでもOKなんだ】
【なるほど! すごくクリエイティブなお仕事ですね】
【いや、それはイメージだけで実際は地味で地道な仕事ですよ】
【いえ、お家でお仕事出来るってやっぱり手に職がないとですから凄いです】
【お世辞でもありがとう。で、本はもう読んだ?】
【いえ、今道の駅に寄っているので帰ってから読みます】
【道の駅って発地の?】
【そうです。行かれた事ありますか?】
【別荘に行ったら必ず_____】
仁はそう書きかけて慌てて消す。軽井沢に別荘があるという事は言わない方がいいだろうと思いメールを書き換えた。
【旅行で行った際に一度寄った事がありますよ。美味しい蕎麦の店があるでしょう? あそこは美味かった】
【今そこでお蕎麦食べてます。凄く美味しいです】
【マジか、羨まし過ぎる。僕は昼はカップ麺ですよ】
【あら、私だけ美味しいお蕎麦をいただいちゃってスミマセン】
【言うねー、あー僕も美味い蕎麦食いたいなぁ。あ、じゃあ邪魔してもなんなんでゆっくり味わって】
【はい、ありがとうございます。お仕事中にすみませんでした】
【うん、じゃあまたメールします】
そこで二人のやり取りは終わった。
スマホをテーブルの上に置くと綾子は微笑んでいた。
(やっぱり神楽坂仁氏とお知り合いだったんだ。凄い人とメール友達になっちゃったわ)
綾子はそう思いながらもう一度スマホを手に取ると作家・神楽坂仁のプロフィールを検索する。
神楽坂仁の本は昔から好きだが今までプロフィールにはそれほど興味を持った事はない。
年齢は『God』と同じ歳だった。
(編集のお仕事をしているって事は、まさか神楽坂氏の編集担当の人なの?)
もしそうなら凄い事になる。綾子が今まで読んだ本の製作に『God』が関わっていた事になるからだ。
(そんな人と知り合えるなんてやっぱり【月夜のおしゃべり】って凄いんだわ。大多数は出会い目的のチャラい人が多いけれどその中にチラホラと凄い人が混ざっているのね……)
綾子はそんな風に思った。
そして更に神楽坂仁のプロフィールを見た。
学歴は横浜の国立大学の理工学部大学院を卒業。趣味は旅行、乗り鉄、登山、美術鑑賞、釣り、ゴルフ。
略歴には今まで受賞した膨大な数の賞が記載されその下にはこれまでの作品がずらりと並んでいた。
綾子は神楽坂仁の顔をぼんやりとしか知らなかったので画像検索をかけてみる。すると次々と仁の写真が出てきた。
賞を受賞した時のスピーチの写真、雑誌で対談している写真、テレビのバラエティー番組に出演中の写真、中には綺麗な女性とパパラッチされた時の写真も載っていた。
写真を見た綾子は改めて思う。
(想像以上にイケメンで背が高いんだ。作家なのに体型はガッチリ筋肉質……きっとモテるんだろうなー)
この写真の人物が軽井沢に住むいちファンの為に本を送ってくれたのだと思うと胸がいっぱいになる。
(もう読めないと諦めていた『フロストフラワー』が読めるなんて、嬉しい……)
綾子は感動で思わず目頭が熱くなる。ここ数年泣くのは決まって理人の事を思い出す時だけだった。だから嬉し涙には全く縁がなかった。
(『God』さんに感謝しなくちゃ)
綾子は心からそう思いながら指で目頭を拭うと残りの蕎麦を食べ始めた。
蕎麦屋を出た綾子は新鮮な野菜と美味しそうなチーズケーキを買って家路についた。
家に帰ると買い物した物を冷蔵庫へしまってから早速『フロストフラワー』を手に取りソファーへ座った。
その時【月夜のおしゃべり】からのお知らせが届いた。
(また『God』さんから?)
綾子はすぐにサイトへログインしてメールを見た。するとメールは『God』からではなく新規の男性からだった。
『God』というメールフレンドが出来た今、綾子はもう他の人とメールのやり取りをする気はない。
綾子はサイトの管理画面へ行き『メールの受け取り設定』を変更する事にした。
このサイトでは『メールの受け取り設定』を次の二種類から選べる。
●メールフレンド募集中
●メールフレンド新規募集停止
綾子は今まで『募集中』にしたままだったので新規の人からメールが来てしまった。新しい人からメールが来ないようにするには設定を『新規募集停止』にする必要があるので綾子はすぐに変更した。
その時綾子はふと気になる。『God』は一体どちらに設定しているのだろうか? もしかしたら『God』がメール交換をしているのは綾子だけじゃないかもしれない。既に複数のメールフレンドがいる可能性だってある。気になった綾子は『God』のプロフィールを覗いてみた。
『God』のメール受け取り設定は『新規募集停止』になっていた。
それを見た瞬間ホッとする。今の時点で『God』に何人のメールフレンドがいるかはわからないが彼はこれ以上メール友達を増やす気はないようだ。
綾子は穏やかな気持ちのままソファーへ移動すると夕食の支度を始めるまでの間『フロストフラワー』に集中した。
コメント
6件
メールのやり取りだけでも信頼できる関係を築くことは出来るよね💖☺️
エンジェルさん、種明かし....かなり近いけど 惜しい~💦ザンネーン Godさん、本人だとバレなくて良かったね~😁👍️ 今は もう少し バレずに、より親好を深めた方が良さそうだね....🥰💞 でも、そのうち軽井沢で逢うんだろうなぁ❤️🤭ドキドキ....
God仁さん=神楽坂仁だと今は種明かししなくてよかったのかも! 偶然が必然に逢う時、綾子さんはGod仁さんを見て驚くどころじゃないよね🤭綾子さんだけ顔を知ってるんだもんね⁽⁽♡⁾⁾ どんなふうに種明かしをするのか…今から楽しみで、今日も妄想🫧🤍 ↓さらちゃん⭐︎それ!あるね!!!その件でも妄想しちゃう(◍˃̵͈̑ᴗ˂̵͈̑)ァ,、