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Scene39:近づく理由
送信したあと、
景兎はスマホを伏せずに手元に置いたまま、
画面が暗くなるのをただ見ていた。
胸の奥に残った熱は、
落ち着くどころか、
静かに脈を打つように広がっていく。
通知が震えた。
反射的に画面を開く。
そこに浮かんだ文字は、
思っていたよりもずっと温かかった。
『はい。
少しだけでも、お話しできたら嬉しいです。
先輩の合わせやすいときで大丈夫です。
……私も、また話したいと思ってました。』
その一文を読み終えた瞬間、
胸の奥にあった緊張が
ゆっくりとほどけていく。
(……また話したい、って)
声にはしなかった。
でも、言葉にしなくても分かる。
胸の奥で、
静かに灯りが強くなるような感覚があった。
景兎は入力欄を開き、
指先を一度だけ止めたあと、
迷いなく打ち込む。
『ありがとう。
じゃあ……〇日の夜、少し時間をもらえますか。
ちゃんと話したいことがあって。
会えたら嬉しいです。』
送信。
“会えたら嬉しい”
その言葉を打ち込むのに、
ほんの少しだけ勇気がいった。
でも、隠す必要はなかった。
数秒後、返事が届く。
『はい。
大丈夫です。
その日、空けておきます。
先輩が話したいこと……聞かせてください。
私も、お会いできるの楽しみにしてます。』
その一文を見た瞬間、
胸の奥にあった熱が
一気に形を持った。
(……会いたい、って思ってくれてる)
景兎はスマホをそっと置き、
深く息をついた。
息を吐くたびに、
胸の奥の緊張が少しずつほどけていく。
窓の外では、
夜の風が静かに流れていた。
冷たくて、
でもどこか澄んでいて、
胸の奥の熱を優しく包むようだった。
(……会いたい)
その言葉が、
驚くほど自然に胸の中に浮かんだ。
隠す必要も、
押し込める必要もなかった。
“前みたいに話せたら”ではない。
“距離を戻したい”でもない。
ただ、
有莉澄さんに会いたい。
その気持ちが、
ようやく自分の中で
はっきりと形になった。
景兎は再びスマホを手に取り、
短く打ち込む。
『ありがとう。
じゃあ、その日に。
……会えるの、楽しみにしてます。』
送信。
画面の光が静かに揺れた。
その光を見つめながら、
景兎はゆっくりと目を閉じた。
胸の奥にある温度は、
もう隠しようがなかった。
“前みたいに話せたら”ではなく、
“今の距離から、ちゃんと近づきたい”。
その思いが、
確かに息をしていた。
夜の空気が、
少しだけ暖かく感じられた。