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あの後私は堀田にワインを取り上げられ、ほぼ強制的にウーロン茶に変えさせられた。しかしそのおかげで、酔いはだいぶ落ち着いてきていた。
そろそろ店を出ようということになり、会計を済ませた私たちは一緒に店の外に出た。
私にちらりと目を向けてから、堀田は塚本に言う。
「塚本さんの家って、遠野と同じ方向なんですよね?一緒に帰ってもらってもいいですか?この人、もう大丈夫だなんて言ってましたけど、ちょっと心配だから」
「それはもちろん。タクシー拾いましょう。堀田さんも一緒に乗って行きますよね?」
「ありがとうございます。でも実はさっき彼から連絡があって、この後この近くの店で会うことになったんです。だから、本当に申し訳ないんですけど、塚本さんを信じて、遠野のこと、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです。俺が責任をもって送りますね」
「そうしてもらえると、すごく助かります」
私が言葉を挟む隙もなく、二人の間で話がぽんぽんと進んで行く。
しかし私はタクシーを使うつもりはなかった。征也の言葉が頭にはあったが、彼のデート現場を見てしまった後では、素直にそれに従う気になれなかったのだ。
「私は歩いて帰る。ここから三、四十分くらいだから」
「え?」
二人は驚いた顔をしている。
「いや、でも、だいぶ飲んでたし、結構遅い時間だし、歩いて帰るのは危ないわよ」
「そうだよ。タクシーで家まで送るからさ」
「いえいえほんとに大丈夫。ということで、おやすみなさい」
片手をひらひらと振りながら二人に笑顔を見せた後はくるりと背を向けて、私はすたすたと歩き出した。背後で塚本の声が聞こえる。
「堀田さん、いずれまた!気をつけて帰ってくださいね!ちょっと、遠野さん、待って!」
しかし私は足を止めなかった。
ところが彼はあっという間に私に追いつき、隣に並ぶ。
「遠野さん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫です。一人で帰れますからお気遣いなく」
私は塚本の言葉を聞き流して歩き続けた。途中で大通りから脇道にそれて、少し先の公園へと向かう。入り口の階段を数段登り、滑り台やブランコといった遊具の間を通って、公園の真ん中にあるグラウンドを突っ切るようにして進む。
「ここは、もしかして近道かなんか?」
「えぇ」
塚本の問いに短く答え、途中の東屋に差し掛かった時、胃の辺りが急にむかむかしてきた。私は慌ててハンカチを取り出して口元を抑える。
「気持ち、悪い……」
「えっ、ちょ、ちょっと待った!あ、トイレがある!行こう、トイレ!」
慌てた塚本に肩を抱かれながら、私は公衆トイレに向かった。着いたと同時に彼の手を離れて中に駆け込む。
しばし嘔吐と闘った後、ようやく胃の中がすっきりとして落ち着きを取り戻した。やれやれと思いながら乱れた髪を整えていたが、ふと塚本が気になった。まさかトイレの外で私を待っていたりはしないよねと思い、落ち着かなくなる。その醜態そのものを見られたわけではなかったが、彼と顔を合わせるのは大変気まずい。
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私は急いで外に出た。近くに水飲み場があることを思い出し、そこまで行って口をゆすいだ。それから、きょろきょろと辺りに目をやって、塚本の姿を探す。しかし彼はいない。呆れて帰ったのかもしれないと自分の失態を恥ずかしく思い、一方では、それならそれで顔を合わせずに済むと安堵した時、塚本の声がした。
「落ち着いた?」
声の方におずおずと首を回して見ると、街灯の下に塚本が立っていた。
私は目を伏せてぼそぼそと答える。羞恥と後悔で彼の顔を直視できない。
「えぇと、はい、おかげさまで……。あの、お恥ずかしいところをお見せしてしまい……」
塚本は砂利を鳴らしながら私の傍までやってきた。
「自販機があったから、水を買ってきたんだ。少しベンチで休んで、それから帰った方がいいよ」
「はぁ……」
本当は今すぐ帰りたかった。しかし吐き気を催した女にわざわざ付き添ってくれた上に、水まで買って来てくれた親切すぎる彼を置いて、一人さっさと立ち去るような真似はしにくい。私は諦めて、近くにあったベンチにのろのろと腰を下ろした。
「はい、どうぞ」
目の前にペットボトルが差し出された。一瞬ためらったが、ここは素直に受け取ることにしようとそれに手を伸ばす。
「ありがとうございます……」
「どういたしまして」
塚本は軽やかに答えて、自分もベンチに腰を下ろした。私が遠慮しないようにとの気遣いか、ペットボトルのキャップを開けてごくりと水を飲む。
彼がペットボトルから口を離したのを見てから、私は改めて彼に頭を下げた。
「本当にすみませんでした。私はもう大丈夫なので、塚本さんは先に帰っていいですから」
「いや、心配だから送るよ。堀田さんにも約束したしね。だけどもし、俺に家を知られたくないってことなら、せめてタクシーに乗るところまでは見届けさせてよ」
「いえ、本当にもう大丈夫ですから」
彼とやり取りをしている間に、私の心の中には疑問が浮かんできていた。
これまで私は彼に対して、決して好意的とは言えない態度を取り続けてきた。それなのにどうして私に親切にしてくれるのか、彼がなぜ私の苗字を知っていたのか、また、店で堀田に言っていた含みのある言葉、それらすべてが気になり出す。このまま悶々とし続けるよりは、早く答えを得た方がすっきりするはずだと思い、彼にそれらの疑問をぶつけてみることにする。
「塚本さん。私たちって、この前の昼にカフェの前で会ったのが初めてですよね?」
「……あぁ、やっぱりね」
塚本は残念そうにつぶやいて、ベンチの背もたれに体を預けた。
「本当に俺のこと、全然覚えていないんだね」
「え?私たち、どこかで会ってるんですか?」
端正な彼の容姿なら記憶に残っていてもいいはずなのにと、私は首を捻る。
塚本はため息をつき、おもむろに口を開く。
「遠野さん、Y市の若木中だったよね?中二の時のクラスメイトだった『西岡迅』って覚えていない?一学期だけ、君の隣の席にいたんだけどな。いや、一学期しかいなかったから、覚えていなくても仕方ないのか……」
塚本は寂しそうに微笑んでいる。
「西岡、迅君……」
私は、西岡、西岡とつぶやきながら記憶をたどる。徐々に当時の光景がじわじわと甦り始め、それにつれて私の目も大きく見開かれていった。