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その朝、淡路島はどこまでも青く晴れていた
海の向こうまで雲ひとつなく、明石海峡の水面が朝の光を受けてキラキラと揺れている、潮風が島の高台を撫でて、山田旅館の庭の松をさらさらと鳴らした
まるでこの良き日のために誂えたような、清々しい天気だった
旅館の大広間は、夜明けから忙しく旅館の人々の手で美しく整えられていた
正面玄関には見事な白菊と松が凛と活けられ、神棚には真白い御幣がしずかに揺れている、畳の上には緋色の毛氈が敷き詰められ、背景には目の覚めるような金屏風、その祝い事の色の鮮やかさが、古い柱や梁の飴色をいっそう引き立てた
天井の高い羽目板ガラスには島の朝の光が差し込み、結婚式場と化した大会場全体が淡い金色に染まっていた
「来たぞ来たぞ!」
「婿殿はどこじゃ!」
島の親族たちが続々と大広間に集まっていた、男達は紋付きやスーツ姿に身を包み、女達は色とりどりの訪問着や艶やかな装いで、挙式前からすでに宴の顔をしている
着慣れない良い服を着せられた子供達が廊下を走り回り、その親戚が「こらっ」と笑いながら追いかけていく
山田旅館の大広間が、これほどの人の熱と声で満ちているのは何年ぶりだろう、そしてジンは、その騒がしさの中心に、ひとり静かに立っていた
島一の貸衣装屋「みや江・すず江」のおかげで今のジンはとても立派な黒の紋付き羽織袴で素晴らしい花婿に仕立てられている
手には白の立派な扇子を持たされ、裾と丈があつらえた様にピッタリなのは、みや江とすず江が昨夜遅くまでかかって直してくれたものだ
そして胸には昨日米吉から渡された、キラキラした鎖を垂らしたブローチにもなる山田家の家宝の懐中時計がずっしりと輝いている
なんとも堂々とした、立派な花婿姿のジンが入口で花嫁が来るのを待っている、しかし彼は胸の奥が、朝からずっと痛かった
神主の田中が厳かな正装で祭壇の前に立ち、静かに手を合わせている・・・
喧騒から順番に来賓客は参列し、会場は溢れんばかりに一杯になった、そして次第に静まり返り、雅楽の調べが静かに、しかし確実に流れ始めた
笙の柔らかな和音が響き、式場は日本神道の異次元に包まれた、そして涙でぐしゃぐしゃの袴姿の松吉に手を添えられ、桜がやってきた
目の覚めるような白無垢だった、文金高島田に角隠しを乗せ、純白の打掛がゆったりと裾を引いている
桜の足音は檜の床の上でほとんど聞こえない、ただその姿がするするとジンの元にやってきて手前で止まった
ジンはハッと息を止めた
コメント
2件
白無垢の桜ちゃん綺麗だろうなぁー(*ฅ́˘ฅ̀*)♡ 船さんは参列してるのかしら??
ふたりの凛々しさと美しさが目に浮かびます✨️💕😌 ジンさんの中で結論は出たのかな