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「蒼、お前はどうする?」

侑は買ってきたスナック菓子を開けた。

日付が変わり、俺と侑は咲の部屋を出た。咲に触れた余韻に浸る間もなく雨が降り出し、俺と侑は近所のコンビニで酒を買い、俺のマンションに帰った。

「どうすっかな……。お前は?」

俺は三本目の缶ビールを開けた。

「俺は咲からの指示待ちだな」

「百合さんとは話さないのか?」

「さっきは……、真さんから百合の名前を聞いて取り乱したけど、冷静になってみると百合は俺を試してるって分かったからな」と言って、侑は缶を空にした。

「試す?」

「そ。自分と元カレの関係を疑って、事の重大さも忘れて乗り込んでいくようでは失格ってことだ」

電話してきた時の侑は、今にも和泉兄さんに殴りかかりそうな勢いだった。

「百合さんて……、そんなにいい女か?」

「ん?」

「和泉兄さんの元恋人だってわかってても欲しかったんだろう?」

「ああ。いい女だよ――」

侑が見たことのない柔らかい表情で微笑んだ。いつも冷静で、滅多に感情を表情に出さない侑が、取り乱したり幸せそうに微笑んだりしている。

和泉兄さんが三年も付き合った女ってだけでも、よほどいい女なのはわかる。和泉兄さんは学生の頃からモテて、何人もの女と付き合っていたけど、もめるようなことは一度もなかった。和泉兄さんが付き合うのは、外見は清潔感があるお嬢様タイプで、性格は穏やかそうに見えても芯が通ったしっかり者。

対照的に、充兄さんが連れて歩いていたのは、外見は派手でキツイ印象のギャルタイプで、性格は男に依存する従順な女。


充兄さんはよく女を泣かせていたなぁ。


ふと、昔を思い出した。

「この流れだと、お前が百合と顔を合わせるのも時間の問題だろうな」

「どうかな。俺の立ち位置によっては、会うことはないだろう……」

『蒼、あなたは私の部下じゃない。どう動くかは任せるわ。だから、どう動いたか、その結果がどうなったかを私に報告する必要もない』

帰り際の咲の言葉を思い出した。

『ただ、これだけは忘れないで。私には相手がグループのトップだろうと、恋人の家族だろうと関係ない。清水と川原のバックにいるのが築島和泉でも、築島充でも』

「蒼、咲が川原に言ったこと、聞いたよ」

『築島に手を出したら、どんな手を使ってでもあなたを潰す』

あの時の咲の声を思い出すと、今でも興奮する。

「その言葉、川原のバックにいる奴にも有効だぞ」

「ん?」

「さっき言ってただろ。『私には相手がグループのトップだろうと、恋人の家族だろうと関係ない。清水と川原のバックにいるのが築島和泉でも、築島充でも』って。あれって、『相手がグループのトップでも、蒼の家族でも、蒼に手を出したら潰す』って意味だ」

「まさか……」

鼓動が瞬く間に速度を上げていくのがわかった。


くそっ――!


「あーーー……。今すぐ抱きてぇ――」

強く思い過ぎて、気持ちが声に出た。

「なんだ、まだだったんだ?」と、侑が楽しそうに言った。

「誰かさんたちのせいで、お預け食らったんだよ!」

「ホント、余裕ないねぇ」

「うるせー」

「でも、気をつけろよ。さっきのあいつ、相当ヤバかったぞ」と言った、侑の顔から笑みが消えた。

「咲が無表情で何かを企んでる時は、かなりぶっ飛んだことを考えてることが多い。そういう咲を何度か見たことがあるけど、今日ほどじゃなかった。あんな、殺気立ってる咲は初めて見た」

「やっぱり……あれはただの仕事モードじゃなかったか」

『さて、どうしようか……』と低い声で呟いた咲は無表情で、俺は全身鳥肌が立った。侑が言った『殺気立ってる』という言葉がぴったりだった。

「これは……、本来は俺から言うべきじゃないのかもしれないけど……」

侑が勢いをつけるようにビールを飲み干した。

「俺も真さんに少し聞いただけだけど、咲は基本的に人間嫌いなんだよ。真さんの言葉を使えば『人間に対して潔癖症』らしい」

「潔癖症?」

「そうだ」と、侑は続けた。

「咲は子供の頃から相手の表情を読むことに長けていたんだと。特に、嘘には敏感で、自分に嘘をつく人間を毛嫌いして引きこもっていた時期もあったらしい。それでも、成長とともに人間は多かれ少なかれ秘密を持ち、悪意の有無に関わらず嘘をつく生き物だと割り切れるようになった」

俺は侑が開けた菓子を食べながら聞いていた。

「中学だか高校の頃、咲はプログラミングやハッキングの知識を学んだらしい。で、高校三年の時、親友を裏切った男たちを社会的に葬った」

「社会的に葬った?」

「真さんが言うには、そうだ。それから、咲は信じることよりも疑うことを優先させるようになったらしい」


信じるより疑う……。


俺は違和感を持った。

「恋愛に関しても、そうだ。そもそも人間が嫌いなんだから、自分から他人に興味を持つことがない。でも、人生経験のひとつとして、自分を好きだと言う男と付き合ってみる。けど、相手を好きじゃないんだから、長く続くはずがない」

『今までは、キスが気持ち悪かった』

初めて俺が咲にキスした時、咲がそう言っていたのを思い出した。

「ところがだ。お前には興味を示した」

たまに無性に食べたくなる、と言って買った菓子を平らげ、侑は次の袋も開けた。

「咲がお前に興味を持つように仕向けたのは確かだが、こんなに早く、割とあっさりくっつくとは、俺も真さんも意外だったよ」

「今はともかく、俺も咲も流れに乗っかった感じだろうな」と、俺は言った。

「咲は最初から俺の異動を怪しんでたみたいだし。俺はお前と湯山さんのお陰で――」

言いかけて、ふと気が逸れた。

「そういえば、本社の情報屋は咲で間違いないんだよな?」

「今更だな」と、侑が拍子抜けしたように言った。

「詳しくは咲に聞いてくれ。俺は庶務課での咲の行動はよく知らないんだよ」

「そうなのか?」

「ん。知ってのとおり、情報システム部は独立してるから、庶務課での咲をサポートしてるのは真さんだよ」

情報システム部は機密情報を扱うため、本社外にオフィスを構えている。グループ全体のデータ管理を行うため、地下には広大なサーバールームもあり、グループの中枢とも言えるだろう。

侑が最後の缶を開け、俺に現実を思い出させた。

「で、お前はどうする?」


女は秘密の香りで獣になる

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