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サターナ・リュコス。

魔人の国レリエンディールの大貴族であるリュコス家に連なる娘。かつての魔王の血を受け継ぐひとりにして、レリエンディール軍の精鋭たる戦竜兵団を率いる将だった女。

一年前、スプーシオ王国を力の限り蹂躙した彼女は、突如、直属の親衛隊もろとも消息不明になった。


――ああ、オレが殺したんだ。オレを含めたクラスメイト三十人の仇だったから。


慧太は硬い表情で、数メートル(メータ)離れた場所に立つ、漆黒のドレス姿の美女を睨んだ。

狼耳の美女、サターナは口を開いた。


「やっぱり気づかれてた?」

「ナルヒェン山で、お前から分身体の一部を受け取った時にな」


隠したつもりだっただろうが、サターナの見てきた記憶や思考が、慧太(けいた)の身体に流れ込んできたのだ。


「いつからだ? アルフォンソを乗っ取ったのは?」

「乗っ取ったとは、ご挨拶ね」


アルフォンソの身体から分離するように出てきた美女――魔人サターナは両手を腰に当てて、挑発するように言った。


「気づいたら、ワタシはあの身体の中で目覚めたの。シェイプシフター……あなたに取り込まれ、喰い殺されたワタシの意識がね。でもおかげで確信したわ」


サターナはビシリと慧太を指差した。


「あなたも、そうでしょう慧太? シェイプシフターに喰い殺されたあなたも、いまのワタシのように、シェイプシフターの中で意識を持って生まれた」

「……」

「あなたがかつての人格を取り戻したのか、あるいはその記憶から作り出されたかはわからないけれど、今のワタシは、あなたのそれと同じ」


サターナは妖艶に微笑んだ。


「言ってみれば、あなたはあなたを殺したシェイプシフターの子であり、ワタシはあなたの子ということになるのかしら」

「なるほど」


わかるような、わからないような。ただ慧太は一つだけ確信している。


「今のお前は『シェイプシフター』だ。オレと同じ『シェイプシフター』だ」

「ええ、そういうこと」


サターナは自身の長い黒髪を乱雑に払う仕草をとる。浮かぶのは憎しみとも侮蔑ともとれる表情。


「レリエンディール七大貴族筆頭にして、魔王の血族たるワタシが、不定形の、化けるしか能のない下等な種族に生まれ変わってしまったのよ!」

「それはそれは……。お気の毒、というべきかな?」


慧太は皮肉げに笑んだ。


「オレは案外、気に入ってるんだけどな、この身体」

「もとより弱体の人間であるあなたには、確かに悪くない身体かもしれないわね」


サターナは好戦的な笑みで返した。


「まあ、何でもいいわ。……とりあえず、あなたに喰い殺された、という屈辱を晴らさないとワタシの気が収まらないのよね!」


黒髪美女の両の手に、それぞれ一本ずつ、一角獣の角を模した槍とも剣とも取れる武器――サターナが愛用する角剣スピラルコルヌが具現化する。


やる気か――慧太も、手にそれぞれ手斧を具現化させる。くしくも二刀流同士だ。


「気のせいかな。以前、戦った時はその武器、騎兵槍だったと記憶しているが?」

「あなたを真似てアレンジしたのよ、お父様・・・っ!」


ぐっ、と地を踏み、サターナが突進した。

お父様? その思いがけない言葉に笑い出したい衝動にかられたのは刹那。迫る角剣を斧で叩き、それが二回、闇の中、金属同士のぶつかる音が響き渡った。


サターナの角剣は、ほぼ刺突と打撃専門。対する慧太の斧は、叩く斬るが専門。つまりサターナに『斬る』はなく、慧太には『突く』がない。サターナの突きを払い、弾き、慧太が斧を振り下ろせば、彼女はそれを避け、または防ぎ、滑らせる。


漆黒のドレスが舞う。角剣と斧、双方二つずつが火花を散らし、めまぐるしく衝突を繰り返す。それはさながら、剣戟の舞いのようだった。

サターナは笑う。


「ふふ、楽しいわ! 自分自身の身体で戦いができるというのはッ!」

「……」


それはシェイプシフターの身体であって自分自身では――慧太は思ったが、それは野暮だろう。頭を狙った角剣の突きを、首を傾けて回避。その無防備に開いたわき腹めがけて、斧を振る。


「でも、お行儀のよい戦いはオシマイ……」


サターナがクスリと笑った。次の瞬間、慧太の身体が突然横からの打撃で吹っ飛んだ。


見えなかった。

思いがけない攻撃だったが、慧太は自身の身体が数メートル飛ばされながら、前にもこんなことがあったな、と思った。


「ねぇ、ワタシに尻尾があること、忘れてなぁい?」


からかうようにサターナが言った。草原の上を滑った慧太は、立ち上がりながら唇の端を吊り上げた。


「……そうだったな。思い出した。お前がドレスを着てたから忘れてたよ」


狼の耳、竜の尾と翼を持つ魔人サターナ。漆黒のドレス、その裾の長いスカートで隠れていた武器をここで使ってきたのだ。


「そう、あなたはワタシの竜の尾を喰らっても死ななかったのよね。普通なら複雑骨折の内臓破裂ものなのだけど……。一年前、だったかしら? 懐かしいわ」


勝ち誇るサターナ。――ああ、この光景も見たな。あの時、オレは……。


すっと影を伸ばした。闇夜に乗じて、彼女の足元へ。その真下に着くと、影から手を伸ばし――


「っと、二度も同じ手はくわないわよ!」


バッとサターナが飛び上がる。背中に展開した翼をひと掻きで、慧太の伸ばした影を振り切る。


「あの時も夜だった」


頭上からサターナが見下ろす。


「お喋りからの不意打ち……そこから一気にワタシはあなたに組み付かれ、喰いつかれた」

「……」

「あの時は慢心してた。……だけど、今回はそうはいかないわよ!」


急降下。闇夜に溶け込むような漆黒のドレス。慧太の目は当然ながら暗視状態。サターナの両手の角剣による攻撃――


「っ!」


瞬時に、慧太は飛び退いた。武器のよる攻撃かと思いきや、すれ違いざまに足を使った蹴りをかましてきたのだ。ご丁寧に足先を刃に変えて。


「……シェイプシフターらしい攻撃じゃないか」


慧太はサターナの見せたバリエーションに舌を巻く。一撃離脱で、再び舞い上がったサターナは持っていた武器を身体に取り込んだ。


「えっと、この身体、魔法は使えないんだっけ……氷、氷、氷っ!」


サターナのかざした手の周りに、氷の塊が具現化する。それは明らかに魔法のそれだ。


「なるほどねー、慧太は魔法を知らない世界の人間だから使えないという認識だったのね。この身体でも問題なさそうね」


投げる仕草と共に、具現化した複数の氷の塊がトゲに変化して慧太を襲う。斧で砕き、かわし、攻撃を凌ぐ。


――シェイプシフターでも魔法は使えたのか……。


目の前でやってくれる人がいると、覚えれば自分でもできるのではないかと思う。ユウラあたりに、ちょっと聞いてみようか。

慧太がそんなことを考えているあいだ、宙にあるサターナは次の行動に出ていた。


「この身体で一つ試したいことがあるのよね。……魔法が問題ないなら、たぶんいけるはず――」


すっと、息を吸い込む。喉の奥に、ちりちりとした熱を蓄積。魔力によるブースト。喉が焼けるような熱の塊。――竜の息吹、喰らいなさいっ!


ファイアブレス!


吐き出されたのは火球。


「おいおいおいおい……!」


慧太は慌てて逃げる。冗談ではない。慧太は火に対する攻撃の耐性があまりない。シェイプシフター自身の弱点なのか、それとも慧太が苦手なだけかはわからないが、とかく一度火がつくと、恐ろしく早く消耗してしまうのだ。


放たれたのは単発。慧太は火球をかいくぐる。


「チッ、これはダメね。……舌が焦げたわ」


地上に降りながら、サターナが小さく舌を出して見せる。


「いざという時まで温存ね。……さあて、お父様? まだまだ遊びましょ!」


サターナが駆ける。角剣を構え――その姿は漆黒の髪、漆黒のドレス姿から、銀髪、白銀の鎧をまとった姿へと変わる。


「……!?」


サターナからセラへ。姿を変えたシェイプシフターの剣は、慧太の頭部を捉え――寸前のところを斧で弾かれた。


「趣味が悪い、なッ!」


もう片方の手をしならすように振り下ろす。頭を狙った斧の一撃は、セラに防がれる。


「この姿なら、躊躇うと思ったけれど?」

「お前だとわかってるからな」


斧の刃を強く押し当てる。セラの姿のサターナは角剣で斧の刃を滑らせることで回避。耳障りな金属同士のこすれる音の後、一端距離をとる。


慧太の斧が、たちまち形態を変える。片手用の戦斧は、長い柄を持つ槍へ。そして黒髪の少年戦士は、緩やかなウェーブのかかった赤毛に、豊満な肢体とビキニアーマー的装備の女魔人の戦士へと変化する。

セラは目を見開く。


「レリエンディール七大貴族がひとり、アスモディア・カペル、参る!」


慧太アスモディアは、赤槍スコルピオテイルを振りかざし、構えるのだった。

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