テラーノベル
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3年前。ここクリーニングリリース直後。
千秋は血相を変えて摩耶に詰め寄っていた。
「なんで?摩耶ちゃん」
千秋は信じられないといった様子で摩耶を見つめた。
「あれは私が書いた歌じゃん!」
「ああ・・・あれね」
摩耶は気まずそうに目を逸らす。
「自分で書いたなんて嘘までついて!」
千秋の悲痛な声が、摩耶の胸に突き刺さった。
だが摩耶は、その痛みから逃げるように冷たい言葉を吐き捨てる。
「どうせあんた歌下手だから宝の持ち腐れでしょ?」
「摩耶ちゃん・・・」
千秋の目に涙が浮かぶ。
それでも摩耶は止まれなかった。
「あの歌だってさ?歌が上手い人に
歌ってもらいたいって泣いてると思うよ?」
「酷いよ!摩耶ちゃんだけは
違うって信じてたのに・・・」
千秋の頬を涙が伝った。
「もう、摩耶ちゃんなんて大っ嫌い!」
そう叫ぶと、千秋は涙を流しながらその場を飛び出していった。
そして、それが千秋との最後の会話になった。
◇ ◇ ◇
「それから千秋は自殺した」
摩耶の告白を、信愛はただ黙って聞いていた。
「私はこの時に初めて
自分がしたことの重大さを理解した」
摩耶の声が震える。
自分が吐いた言葉に自分が奪った曲。
そして、自分を慕ってくれていた千秋を突き放したこと。
そのすべてが、もう取り返せないものになってしまった。
「私が千秋を殺したんだ・・・」
摩耶は自分自身を責めるように言葉を絞り出した。
「私が千秋を追い詰めたんだ!って」
信愛は何も言えなかった。
「それから私は社長に全ての経緯を話した」
摩耶は静かに続ける。
「全てを正直に話して・・そして引退するって」
それは、摩耶が自分自身に下した罰だった。
どれだけ後悔しても、千秋はもう戻ってこない。
その事実だけが、重く、消えることなく摩耶の心に残り続けていた。
◇ ◇ ◇
3年前。ムーサプロダクション。
話を聞き終えた武は、しばらく考え込むように黙っていた。
「なるほど・・・」
やがて何かに気づいたように、摩耶へ視線を向ける。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
「て事はあれか?お前がずっと
歌ってたのは自分で書いた歌じゃなく
千秋が生前に遺していた歌だったと?」
「は、はい・・・」
摩耶は気まずそうに俯いた。
次の瞬間、武の表情が一変する。
「何やってんだ!お前は!」
怒声とともに、武尊は手にしていた書類の束を摩耶へ投げつけた。
「よりによってアシスタントの
曲を盗作だと?ふざけるな!」
「すいません・・・」
摩耶は何も言い返すことなく、ただ頭を下げた。
武の怒りは当然だった。
「どう責任を取るつもりだ?」
その問いに、摩耶は覚悟を決めたように顔を上げる。
「全てを公表します」
「全てを?」
「はい・・全部話して、私は・・引退します」
その言葉を聞いた武の眉がわずかに動いた。
「お前が引退する事によってウチが
被る迷惑についてはどうする?
お前は今やウチの一番の稼ぎ頭だ。
それを失う事はウチにとって大きな損失になる」
「そ、それは・・・」
摩耶は言葉に詰まった。
自分の犯したことを公表し、全てを失う。
それが当然の償いだと思っていた。
だが、自分一人が責任を取れば済む問題ではない。
武はそんな摩耶の様子を見つめると、ふいに口元を歪めた。
「俺に・・・いい考えがある」
その顔には、それまでの怒りとは明らかに異なる、不敵な笑みが浮かんでいた。
「考え?」
「全てを闇に葬るんだよ・・・」
武が淡々と言い放った言葉に、摩耶は耳を疑った。
「や、闇に!?」
「全てを隠蔽し・・千秋の存在を消す」
「け、消すって・・・」
動揺する摩耶とは対照的に、武はまるで当然のことを話すように続ける。
「死人に口なしって言葉があるだろ?
あいつは都合よく自殺してくれたんだ
それをうまく利用させてもらうんだよ」
「も、もしかして・・・」
嫌な予感が摩耶の胸をよぎった。
武は迷うことなく、その答えを口にする。
「全部お前が書いた曲って事にしたらいい。だろ?」
「そ、そんなの・・・」
「ならいいのか?」
武尊の声が低くなる。
「お前・・・また底辺の生活に戻れるのか?」
「そ、それは・・・」
摩耶の脳裏に、売れなかった頃の日々が蘇る。
曲を書いても誰も聴いてくれない。
誰の耳にも届かない。
武はそんな摩耶の迷いを見透かしたように、畳みかけていく。
「今のお前はZapp・・いや武道館だって
夢じゃ無い!いずれはドームだって」
「ド、ドーム・・・」
摩耶が小さく息を呑む。
「そんな約束された輝かしい未来
お前は全て捨てる事ができるのか?ん?」
摩耶は答えられなかった。
すると武はゆっくりと立ち上がり、摩耶へと歩み寄る。
「無理だよな・・・」
耳元に忍び込むような声だった。
「一度成功を味わった奴が
その成功を忘れる事は至難の業だ」
摩耶は何も言えない。
武はさらに言葉を重ねる。
「歌に対しての醜い未練だけが残り、チンケな
カラオケバーやカラオケ喫茶で歌う日々だ」
摩耶の額から一筋の汗が滴り落ちる。
「そこでお前の歌に耳を傾ける奴なんて
誰一人居ないんだぞ?ん?」
摩耶の心を抉るように言いながら、武はそっと彼女の肩に手を添えた。
まるで洗脳するかのように、優しく、そして逃げ道を塞ぐように語りかける。
「このまま全てを隠蔽してトップ
アーティストとして一線で活躍し続けるか
過去の栄光に縋って、泥水舐めながら
底辺を這いずり回るように醜く生きるのか・・・」
わずかな間を置き、武は摩耶の顔を覗き込む。
「決めるのは他の誰でも無い、お前自身だよ」
「でも・・私は自分で・・・」
摩耶が弱々しく反論しようとすると、武はすぐにその言葉を遮った。
「自分で作詞作曲しない歌手なんて
そこら中にいるだろ?」
「そ、それは・・・」
「これは千秋の為なんだよ・・・」
「千秋の?」
「ああ、あいつの歌を世間に聞かせてやるんだ
それができるのはお前だけだ」
武の言葉が、甘い毒のように摩耶の心へ染み込んでいく。
「これは千秋への手向けさ・・弔いだよ」
「と、弔い・・・」
摩耶はその言葉を、小さく繰り返した。
罪を隠すための行為が、いつの間にか死者のための行為へとすり替えられていく。
そして摩耶自身もまた、その都合のいい言葉に縋ろうとしていた。
コメント
1件
うわっ…めっちゃ重い過去回きた…!摩耶が千秋に放った「歌下手」の一言が刺さりすぎるし、武の「千秋のため=弔い」って論理が完全に甘い毒でゾッとしたわ。罪を隠すために死者の名を利用するの、現実の芸能界でもありそうで胸が苦しい。この選択、どう転んでも摩耶の心が壊れそうで続きが気になる…!