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桜城
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第二章 小さな光
第六話 俺がいる
「ジオ」
聞き慣れた声だった。
胸が僅かに高鳴る。
「……サフィ?」
「起きてる?」
ジオは少し迷った。
けれど。
「……開いてる」
そう答えた。
扉がゆっくり開く。
入ってきたサフィアンは、ジオの顔を見るなり眉を寄せた。
「なんだその顔」
開口一番それだった。
ジオは思わず視線を逸らす。
「普通だけど」
「普通じゃないだろ」
即答だった。
サフィアンは部屋の中へ入り、ベッドの横へ腰を下ろす。
しばらく沈黙が続く。
いつもならサフィアンが勝手に喋り出すのに、今夜は違った。
ただ隣にいる。
それだけだった。
ても不思議と居心地が悪くない。
「……街の人、色々言ってるな」
やがてサフィアンが呟く。
ジオの肩が小さく震えた。
「別に」
「別に、じゃないだろ」
優しい声だった。
責めるでもなく。
無理に聞き出そうとするでもなく。
ただ静かに隣にいる声。
「……」
「ジオ」
名前を呼ばれる。
昔から何度も呼ばれてきた名前。
けれど今夜はなぜだか胸に沁みた。
「俺……」
ジオの声が掠れる。
言うつもりはなかった。
言いたくなかった。
でも、サフィアンの前だと隠しきれなかった。
「怖い」
ぽつりと零れる。
小さな声だった。
消えてしまいそうなほど弱い声。
「……」
サフィアンは何も言わない。
だからジオは続けてしまった。
「何も分からないんだ」
俯く。
震える指を握り締める。
「俺が何者なのか」
「なんであんな力があるのか」
「もし本当に俺が災いだったらどうしようとか」
言葉が止まらない。
今まで押し込めていた不安が溢れてくる。
「みんなを傷付けたらどうしようとか」
「サフィまで傷付けたら、どうしようとか……」
最後の言葉を口にした瞬間、視界が滲んだ。
情けない。
本当に情けなかった。
その時だった。
ふわりと身体が引き寄せられる。
「……え」
ジオは目を見開いた。
サフィアンの腕だった。
そっと、けれど力強くジオを抱き寄せている。
温かい。
驚くほど、温かかった。
「サ、サフィ……」
「一人で抱え込みすぎだ」
低い声だった。
怒っているようにも聞こえる。
でも、その奥にあるのは優しさだった。
「怖いなら怖いでいい」
ジオは言葉を失う。
「分からないなら分からないでいい」
サフィアンの腕に少し力が入る。
「無理して平気な顔しなくていい」
胸が苦しい。
苦しいのに、どこか安心している自分がいた。
「俺にはよく分からない」
サフィアンは正直に言った。
「その力が何なのかも」
少しだけ笑う。
「けどな」
そして、真っ直ぐな声で続けた。
「お前がジオなのは知ってる」
ジオの目から涙が零れた。
「優しいやつなのも」
「薬草が好きなのも」
「本を読むのが好きなのも」
「頑固なのも」
「たまに変なとこで意地張るのも」
サフィアンは笑う。
「全部知ってる」
涙が止まらなかった。
こんなふうに泣くのはいつ以来だろう。
幼い頃、石を投げられて帰った時以来かもしれない。
「だから」
サフィアンは言う。
迷いなく。
真っ直ぐに。
「何があってもジオはジオだ」
その言葉が、凍り付いていた心へ染み込んでいく。
温かく。
優しく。
ゆっくりと。
「……サフィ」
掠れた声で名前を呼ぶ。
サフィアンは笑った。
昔から変わらない笑顔で。
「大丈夫だ」
そして、真っ直ぐな青い瞳をジオに向ける。
「俺がいる」
その瞬間、ジオは堪えきれなくなった。
小さく肩を震わせ、嗚咽を漏らす。
サフィアンは何も言わない。
ただ隣にいてくれた。
ただ抱き締めていてくれた。
窓の外では満月が静かに輝いている。
けれど今夜だけは、その光が少しだけ優しく見えた。
コメント
1件
あ~もうこれ、泣いたわ…。「別に、じゃないだろ」ってサフィアンの優しい声が想像できて、その後の「お前がジオなのは知ってる」って畳みかけが刺さりすぎた。力を恐れて縮こまるジオに「俺がいる」って真っ直ぐ言えるの、これが信頼ってやつだよな。抱き締めるシーンの温かさ、こっちまでじんわりした。二人の関係性、どんどん好きになる…!