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第22話 デジタル教祖
配信
「こんばんは〜、“はごろもまごころ”だよ!」
画面に登場したまひろは、今日は薄い黄色のパーカーにベージュのハーフパンツ。袖にはお気に入りのキャラクターのワッペンが縫いつけられていて、ぱっつん前髪の下の瞳は無垢な光を宿していた。
隣のミウは、ピンクのブラウスに淡いラベンダーのカーディガン、膝丈のネイビースカート。髪はゆるく巻かれて肩にかかり、耳元には小さなクローバー型のイヤリング。柔らかな笑みを浮かべ、いつも通り安心感を与えていた。
まひろが少し不安そうに言う。
「ねぇミウおねえちゃん。最近SNSで“心を癒やす”って活動をしてるユーチューバーさんがいるんだ。動画もすごく優しい雰囲気で、応援してくれる人も多いんだけど……ぼく、ちょっと気になっちゃった」
コメント欄がざわつく。「あの人だ!」「見たことある」と書き込みが流れる。
「なんだか、“教祖”みたいって言う人もいて……ほんとに安心して信じていいのかなぁ」
疑惑の芽生え
ミウがふんわりと頬に手を当て、首をかしげた。
「え〜♡ やさしい活動なのはいいことだけどぉ……もし知らないうちに“危険な思想”を広めてたら、ちょっと心配だよねぇ」
まひろは無垢な瞳で見つめながら、小さくうなずいた。
「ぼくはただ、“ほんとに安全なのかな”って思っただけなんだ」
コメント欄は「確かに怪しいかも」「うちの友達もハマってる」と揺れ始めた。
レイNews記事化
その夜、「レイNews」には記事が並んだ。
記事は一見冷静に見えたが、本人の穏やかな発言を切り取り、「支配的な言葉」に見せる編集がされていた。
裏でミウは匿名アカウントを操作し、元ファンを名乗って「怖くなって離れた」と証言を偽造。記事の“根拠”として差し込んでいた。
群衆の暴走
翌日SNSは「#デジタル教祖」で炎上。
「やっぱり怪しかった」「洗脳されるところだった」
「子どもを守らなきゃ」
まとめサイトは「ネットカルトの実態」と見出しを打ち、ワイドショーは過去配信の映像を切り抜き「やはり危険」と繰り返した。
結果、企業スポンサーは撤退、信者と呼ばれていたファンは次々と離れていった。
インフルエンサーK氏は“危険思想拡散者”としてレッテルを貼られ、活動の場を失っていった。
クライマックス
数日後、K氏は動画で「私はただ心を癒したかっただけ」と涙ながらに訴えた。
だが翌日の記事はこうだった。
「涙の釈明=やはり後ろめたいから?」
善意の活動は“新興宗教の仮面”と決めつけられ、二度と元の信頼を取り戻すことはなかった。
結末
夜の配信。
まひろは黄色のパーカーの袖をぎゅっと握り、無垢な瞳でカメラを見た。
「ぼく……ただ“ほんとに安心して信じていいのかな”って思っただけなのに」
ミウはやさしく頷き、ふんわり笑った。
「え〜♡ でも、みんなで考えるきっかけになったんだから素敵だよね。
ほんとの癒やしって、やっぱり怖くなくていいものだもん♡」
コメント欄は「気づかせてくれてありがとう」「盲信は危ないね」で溢れた。
その裏で、ミウのPCには新しいリストが並んでいた。
「教育現場のトラブル」「政治家の身辺」「ベンチャー企業の詐欺疑惑」。
記事の見出しはすでに形になっていた。
ラスト一文
無垢な声とふんわり同意、その裏でひとりの“癒やし人”は“教祖”の烙印を押されていった。