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長く続いていた森の道を抜けると、街の入口はすぐそこにあった。街全体は森との境目としての簡素な石壁で囲まれているだけで、特に厳重な警戒をされている訳でもなく、誰でも出入り自由なようだった。

この辺りは森から出てくる魔獣くらいしか脅威はなく、それに関しては街を覆うように張られた結界で防いでいた。


森の中で魔獣に襲われていた行商人とは街の入口付近で別れた。無事に街に戻ってくることができた彼は、森の別邸への商談のリベンジを果たすべく、魔獣除けの魔石を取りに向かったようだった。グラン領に着いた途端に空になってしまったという魔石は魔力補充を頼んでいる最中だと言っていたので、魔法使いを急かしに行ったのだろうか。


以前にクロードも愚痴っていたことがあるように街の魔法使いの仕事はあまり早くはない。急かされたとしても今日はもう無理だろう。そもそも館には今はマーサと猫しかいない。


「で、これからどうするんだ?」

「中央通りまで行ってくれたら、あとは歩いて向かうわ」


帰りはそうねぇ、と少し考える。魔獣除けしているとは言っても、暗い中を往復させるには馬が可哀そうだ。


「4時間ほどウロウロしているから、そのくらいに迎えに来てもらえるかしら?」

「本邸には顔出さないのか。相変わらずだな」


がははと豪快に笑い飛ばす。ベルが本邸に立ち寄ろうとしないのは予想できていた。なので庭師だけが戻る訳にもいかないし、また森に戻るのは慌ただし過ぎる。せっかくだし待ち時間の間はのんびりさせてもらうことにする。

もし領主邸に行くなら馬車をそれなりの物に乗り換えてこようかと思っていたが、どうやら帰りも同じ荷馬車になりそうだ。


街の真ん中に位置する大通りの手前で二人を降ろしてから、老人は馴染みの薬屋へと向かった。ついでにと調薬済みの薬も積んで来ていたのでその納品の為だ。これが終われば特にすることもないし、近場でお茶でも飲んでいようとご機嫌で鼻歌を零す。


一方、荷馬車を降りたベルと葉月は大通りの賑やかさに圧倒されていた。葉月の方は見たこともない街並みにキョロキョロと視線が落ち着かないし、ベルは以前に来た時よりも建物の数が増えているから別の街に来たようだと驚いていた。


「随分と変わったわねぇ。あ、あの店は前にもあったわ」


見知った店を見つけて、自分達がいる位置がようやく分かったようだった。一つ分かれば後は大丈夫。立っている建物は変わっていても通っている道はそのままだと、迷う素振りなく目的の方向へと歩き出す。


「まずはそうね。マーサから聞いたお店に向かいましょう」

「パンケーキ屋さんっ!」


目を輝かせる葉月の反応に、ふふふと満足そうに笑う。昨晩の夕食時にマーサから街のお勧めを聞いた時にも興味津々の様子だったし、必ず連れて行ってあげようと決めていた。


流行り物には特に詳しそうにない世話係でさえ知っていたというお店は、大通り傍の脇道にあった。行列こそ無かったが、甘い香りの漂う店内は満席に近い状態だった。そして、その大半以上が女性客でとても賑やかだった。


二人は席に着くと、マーサから話に聞いていたフルーツパンケーキを注文した。あらかじめに焼き上がっていたのか、すぐに運ばれてきたそれは想像していたよりもたっぷりのクリームにこれでもかという程の果実が乗っていて、どこにパンケーキが?というくらいのボリュームだった。


「うわー」

「食べ切れるかしら……」


一緒に頼んでおいたフルーツティーで口を潤してから、溢れ落ちそうなくらいにクリームを乗せて頬張る。この世界に来て初めてのスイーツに、葉月は言葉が出ない。甘い物は正義だ。

程よく絶妙な甘さ加減のクリームに、主張し過ぎないフルーツの酸味。そして、ふわっふわのパンケーキ。


「はぁ……」


余計な会話無しに一気に食べ切った後から出てくるのは、満ち足りた溜息だけ。ボリュームに圧倒されていたベルも何だかんだと完食して、フルーツティーでまったりとしていた。


「さすがにこれはお持ち帰りはできないですよね」

「そうねぇ。マーサには他を探しましょう」


満腹感に包まれたまま店を出る。葉月の一番の目的はすでに達成してしまったが、次の目的地への道すがらもキョロキョロとお店を覗いたりととても楽しんでいるようだった。


次に向かっていたのは、道具屋の女主人から連絡を貰った研究者の家だった。こちらもまたそれほど離れていないのは確認済みだったので、程なくして到着する。


「ここ、ですか……?」

「んー。そうみたいね」


手紙に書かれていた住所と照らし合わせて間違いないことを確認すると、目の前の建物を見上げる。

これは家、なのかしら?


おそらくこの街でも大きい方に入る宿屋の隣に建つそれは、どう見ても物置小屋だった。物置小屋としては立派な方だとは思うけれども、見まごうことなき小屋だった。

隣の建物が立派過ぎてこじんまり感は半端なかったが、それでもやっぱり人が住居とする類の建物には見えなかった。きっと元々は宿屋の物置小屋だったのだろうが、教えられた住所は確かにここだった。


「いらっしゃるのかしら……」


ゴミ屋敷状態なところに平気で住んでいたベルだったが、彼女の場合は建物や調度品はしっかりしたまともな物だった。使い方が雑で中が荒れていただけであって、決して廃墟ではなかった。


反してこちらはどうだろうか。外からは中の様子は伺えないが、建物の周りを見るだけでも手入れが全くされていないのがよく分かる。ベルに近い人種というより、ベルのさらに上をいく人種の気がして、葉月は一抹の不安を覚えた。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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