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日曜日、綾子はたまきの車で道の駅に行った。そこでたまきは明日会社に持って行く土産とジャムを買うと言う。

たまきが商品を選んでいる間綾子も野菜を買おうと野菜コーナーを見て回りながらカゴに入れていった。

会計の際にたまきは綾子の分も一緒に支払ってくれた。そして新商品のダッグワーズを綾子にも買ってくれる。


お昼はたまきが道の駅の蕎麦屋でいいと言うので二人で蕎麦屋に入った。


「綾子は相変わらず蕎麦が好きだよねー」


たまきは蕎麦を美味しそうに食べる綾子の事を目を細めて見ていた。


蕎麦屋を出るとたまきは一度別荘の前まで戻り綾子を降ろした。


「なんか困った事があったらすぐに言いなさいよ。じゃあ別荘の管理よろしくー」

「うん、叔母さんありがとう。気をつけて帰ってね」


たまきは笑顔で手を挙げると別荘の前から走り去って行った。

たまきの車が見えなくなるまで手を振ると、綾子は玄関へ行く前にハーブガーデンをチェックする。

ハーブガーデンは夏に比べたらだいぶ寂しくなっていたがそれでもまだローズマリーが良い香りを放っていた。


家に入った綾子は野菜を冷蔵庫へしまうと一息つこうと紅茶を入れる。

そして叔母に買ってもらったダッグワーズを箱から出して紅茶と共にダイニングテーブルの上に置いた。

早速お菓子を食べてみる。


(うん、美味しい)


綾子はニッコリ微笑むと、丸一日つけていなかったノートパソコンの電源を入れた。


ニュースや天気予報を何気なく見ていた綾子はふと何かを思い出したように検索を始める。

綾子が検索にかけたのは神楽坂仁の本を出版している大手四社の出版社だ。

神楽坂仁は大手出版社以外の出版社からも本を出していたが人気作の本はほぼこの四社からだ。

中でも美月出版からの著書が一番多い。


綾子は一つ一つの出版社の住所を入れ本社の位置やビルの外観を地図で確認する。

そのどれもがりっぱな本社ビルで四社とも出版社が一番多いと言われている街にあった。


(もしかしたらここが『God』さんの会社なのかな? それともフリーランスだから契約しているだけで正社員ではないのかな?)


そこで綾子はハッとする。


(私ったら何を調べているんだろう。そんな事を調べても何の意味もないのに……)


綾子は慌てて地図を閉じる。しかし改めてこう思い直した。


(メール相手が普段どんな場所で仕事をしてどんな生活をしているのか知りたいって思うのは別に普通の欲求よね?)


綾子はそう自分に言い聞かせると、シンクの中に置きっぱなしのコーヒーカップを洗おうとキッチンへ向かった。



その頃仁はどうやって『エンジェル』の素性を調べようかと考えていた。


(工場は弁当を作ってるって言ってたよな?)


そこで仁は軽井沢周辺の食品工場を調べてみる。その付近には三つの工場があるようだ。


(確か弁当はコンビニの弁当って言ってたよなぁ)


仁は三つの住所を一つ一つ地図アプリに入れリアルビューで工場の入口付近を歩き工場の名前が書いていないかをチェックした。

それによると一つ目は全国チェーンの洋菓子会社の工場で二つ目は大手冷凍食品の工場だという事がわかった。


(という事はこの三つめか?)


仁は三つ目の住所を入力し工場の入口付近をチェックする。入口には看板が掲げられていたので拡大してみるとそこには大手コンビニ店『ファミリーショップ』の会社名が書かれていた。


(ここだな)


仁はそこが『エンジェル』のパート先だと確信した。


(あとは何を調べりゃあいいんだ? 『エンジェル』の車の車種と色? 家から工場までの通勤時間もわかるといいんだが)


仁は最低でもそれさえわかれば『エンジェル』を特定できると思った。

工場勤務の終業時刻は大体わかっていたのでその時間帯に工場の前で張り込んで車を見つければいいのだ。なんとも単純だ。


(マジでこれが世にバレたら犯罪もんだな)


仁は苦笑いをすると『エンジェル』にメールを打った。


【こんにちは。叔母さんは秋の軽井沢を堪能しましたか? そう言えばもう少ししたら冬が来るけれど君は雪道の運転って出来るの? 軽井沢は豪雪地帯ではないけれど冬はたまに積もったり凍ったりするでしょう?】


洗い物を終えた綾子がソファーで『フロストフラワー』の続きを読んでいると『God』からメールが届いた。

綾子はスマホでメールを確認するとすぐに返信する。


【こんにちは。叔母は先ほど東京へ戻りました。昨日来る途中に紅葉を楽しんだと言っていました。雪道についてですがゆっくりなら運転出来ます。若い頃は結構スノボやスキーに行っていたので雪道はまぁなんとか…】

【へぇ、慣れてるんだ、凄いね。車は四駆?】


仁はここからさりげなく車種を探っていく。しかし警戒心の全くない『エンジェル』はあっさりと答えてくれた。


【はい、軽ですがジムニーです】


(おっ、ジムニーか……ヨシヨシ)


【へぇー、ジムニーって事は『エンジェル』さん結構アクティブ派なの?】

【どちらかといえばそうですね。独身の頃はキャンプなんかにもよく行ってました。割と自然が好きなんだと思います】

【独身の頃って事は結婚したら行かなくなったの?】

【はい、元夫はインドア派なので】

【へぇーそうなんだ。ジムニーいいよねー今人気だよね。色は何色? いや実はさ、俺の知人が今度ジムニー買うらしくて何色にしようか悩んでるみたいなんだ】

【私は白とアイボリーで悩みましたが結局アイボリーにしました】

【アイボリーか。女性らしい柔らかい色かぁ】

【『God』さんは車には乗られるのですか?】

【うん、俺は釣りとか登山とかが趣味だからjeepに乗ってるよ】


そう返信してから仁はしまったと思った。釣りや登山の趣味は『神楽坂仁』と被ってしまう。


『God』からの返信を見た綾子は思った。


(この趣味って神楽坂氏と同じ? 二人は共通の趣味を持っているんだ。あ、それで意気投合して担当編集者に?)


綾子は昔から想像力が豊かなので勝手に想像が膨らむ。


【jeepはかなりの高級車ですよね。凄い車に乗ってるんですね】

【凄くはないですよ、お金ないのでローンです(笑)】


本当は一括現金で買ったのだが仁はあえて嘘をついた。今ここで疑われる訳にはいかない。


(返事にはくれぐれも気をつけないとだな……)


仁は気を引き締めた。そこへ『エンジェル』からの返事が届く。


【そうなんですね(笑) そう言えば今日も叔母と道の駅のお蕎麦屋さんでお昼を食べてきました。最近毎週行っています(笑)まあお蕎麦は好きなのでいいんですが】


(そうか、彼女はほぼ毎週水曜日には道の駅で買い物をしているんだな。そこでも『エンジェル』を見つけるチャンスがあるのか)


仁は思わずほくそ笑む。そこで今度はあえて話題を変えた。


【別荘に住んでいたら日常の生活は不便じゃない? 例えば買い物とか美容院とか歯医者とか?】

【スーパーは地元の人気店があるしパンやスイーツは旧軽銀座に行けばいっぱいあるし。あ、野菜も道の駅で新鮮なものが手に入りますから意外と便利ですよ。歯医者はまだお世話にならなくて平気なので行っていませんが美容院は今探しています。ずっと切っていなかったのでそろそろ切ろうかと」


(マジかよ。もしかして『エンジェル』って身なりを気にしないヤバい系の女か?)


『エンジェル』が髪を伸ばしっぱなしだと聞いた仁は焦る。


【え? 美容院はあまり行かないの?】


【ここへ来た時はちょうど肩までのボブだったので伸ばそうと思って切っていなかったんです。長い方が結べるので暑い時に楽かなと】


(なんだ、伸ばす為に切ってなかっただけか)


仁はホッとする。

そしてこちらから質問してばかりな事に気付いた仁は怪しまれない為に自分の事を話し始める。


【僕はパーマかけてるから美容院に行くんだけどパーマをかけている間はテルテル坊主みたいだからちょっと恥ずかしいよねー。僕が行く美容院は女性も来る美容院だから】


その返信を見て綾子はクスッと笑う。『God』が『テルテル坊主』と言ったからだ。


(車は高級外車のjeep、髪は床屋じゃなくて美容院、それもパーマヘア。 やっぱり大手出版社の人って都会派のお洒落な人なんだわ……)


綾子は『God』に対してそんな印象を持つ。


その後は他愛もない会話を5分程続けた後二人はメールを終えた。


スマホを机に置くと仁は顎の無精ひげを触りながら頭の中で繰り返す。


(アイボリーのジムニーに乗った髪の長い女、水曜日には道の駅の蕎麦屋に出没率高し。これだけわかれば特定出来そうだな。あとは彼女が目の前にいる時にメールを送ってみる。その反応を見ればヨシ!)


仁はニヤリと笑うと早速軽井沢へ行く計画を立てた。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

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ユーザー

仁さん、お見事です😎👍️ お互い、相手に興味津々な様子の二人💕 軽井沢へ エンジェルさん探しの旅、 きっと楽しみで仕方がないよね~ ⁉️ 💖🤭 遠くから様子を見るだけのつもりが...|д゚)チラッ つもりで終わらなくなっちゃうのかな⁉️ 😍💕 ワクワクo(^o^)o♪

ユーザー

((>艸<*))キャー仁さん!お・み・ご・とっ👏✨ 一目惚れ😍しちゃうんじゃなぁい⁉️ 2人とも気になって気になってしょうがない気持ちが溢れ出てるね💕 早く『水曜日』にならないかなぁ〜(*//艸//)ドキドキ あっ!仁さん!『変装🥸』お忘れなく〜😆

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