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ホテルを出ていく日の朝。
森閑としたメインルームには、朝日が差し込み、この部屋を発つ二人に、清々しいほどの祝福をしているかのよう。
朝食は、拓人がルームサービスを頼んでくれた。
焼きたてのパンとサラダ、エッグベネディクトやビシソワーズがテーブルに並べられ、二人は、黙々と食事をしている。
三日ほど前の出来事から、互いに避けていたところもあり、まともに口を利いていない二人に、気まずい空気が漂っていた。
優子も、男と何を話していいのか、分からない。
というよりも、話し掛けにくい、の方が、しっくり来る気がした。
あと少しで、歪んだ同居生活も、終局を迎えようとしている。
シルバー類が軽くぶつかる音が小さく響く中、彼女は、拓人の顔色を伺うように、チラリと見やった。
「アイツ…………松山廉と……知り合いだったんだな」
ひと足先に食事を終えた拓人が、シルバー類をテーブルに置き、アイスコーヒーを口に含む。
「うっ……うん」
男と視線が交わると、優子はそっと顔を逸らす。
「どういう関係だったんだ?」
どことなく責められているような口調で、問い掛けてきた拓人。
「…………元上司と……部下」
思いの外、真剣な眼差しを向けられてしまい、優子は気後れしてしまう。
拓人も、ヤリ友の優子と大学時代の友人が、職場の上司と部下だったなんて、思いもしなかったかもしれない。
「…………そうか」
男がポツリと言葉を漏らすと、再び、霧が立ち込めるように、静寂が二人に纏わり付く。
「アイツの事…………好きだった……のか?」
拓人が、沈黙を破るように口火を切ると、優子は、ベランダ越しの青空へ視線を這わせる。
「専務は……仕事もできたし、私の尊敬する上司でもあり…………生まれて初めて、私に褒め言葉を与えてくれた方だった。今思うと…………専務に憧れと好意を持っていたと思う。売女として会った時は……数年振りの再会だったし…………心臓が止まるかと思うほど、ビックリしたけどね……」
「…………そうだったのか」
再び包まれる、張り詰めた無言の情調。
「……ごちそうさまでした」
優子は、残りのアイスコーヒーを飲み切ると、手を合わせながら、小さく頭を下げる。
荷物を取りに、立ち上がった彼女の背中に、拓人の声が掛けられた。